【成長ニッポン】(下)
大東寝具工業は、日産自動車が高級車の内装に使っている合成皮革を活用しクッションを開発した(大東寝具提供)
経済産業省・特許庁は2013年度に、大企業が保有する開放特許の導入を中小企業に呼びかける知的財産マッチング事業を、新たに青森県、岡山県、広島県呉市、愛媛県、熊本県と連携して開催する。地方の中小企業にとって開放特許は遠い存在なため、認知度を高める。
「ニッチなビジネスでも成功事例を知れば、開放特許を利用したい中小企業は増える。大企業も興味を持ってくれる。この好循環を作りたい」。特許庁総務部企画調査課の桂正憲課長はこう述べ、マッチング事業への参加企業を募るため奔走する。
約40の開放特許を公開している富士通。知的財産権本部ビジネス開発部の吾妻勝浩部長は「特許は世の中に出回らないと価値がない。中小企業支援につながると考え、一緒に商品化しようと呼びかけている。年間800社程度を訪問する」という。開放特許の一つ「光触媒チタンアパタイト」では、エアコンやボールペンなど約20商品が誕生した。
「合成皮革なのに、この触り心地。品質の高さに驚いた」
日産自動車が高級車「フーガ」の内装用に開発した素材をクッションに採用した大東寝具工業(京都市伏見区)の大東利幸社長は素材との出合いをこう振り返る。
近畿経済産業局が11年7月に京都市で開催した知財ビジネスマッチングマートで紹介された高級生地。車の内装部品として高い耐久性があり、大東社長は「使いたい」と日産にライセンス契約の締結を申し出た。
試作品で座り心地を確認した後、すぐに製品化。価格は従来品と比べ高いが、「日産のロゴ使用を許されたのでお客さまも納得して買ってくれる」(大東社長)。大企業のブランド力、信用力を生かせるのも中小企業にとって魅力的だ。大東寝具では第2弾の製品化も進めているという。
川崎市は、昨春開催した知的財産交流会で、森田テック(川崎市麻生区)とNECのマッチングに成功。森田テックはNECの特許を活用し電子機器のノイズ発生源を特定する電界/磁界プローブを開発した。森田治社長は「川崎市産業振興財団のコーディネーターが『NECの特許が使えるのでは』と紹介してくれた」とコーディネーターの目利き力を評価する。
特許を提供する大企業は、ライセンス契約を結ぶことで特許出願料や維持費を回収できるほか、研究員のモチベーション向上につながる。
富士通の吾妻氏は「大企業はロイヤルティー収入だけでなく知財の有効活用が社会貢献につながる。自治体は地域活性化と税収アップ、金融機関は融資先開拓と、参加者全員がウィンウィンの関係を結べる」と強調。特許を眠らせておく手はない。(松岡健夫)
「フジサンケイビジネスアイ」