ESに関する意見を書いた付箋を集める社員。この会社は人事・労務の指導で、ビジョン策定に向けた会議を開いた=横浜市戸塚区の大川印刷
「従業員がワクワクする組織づくりを後押ししたい」。そうした姿勢で中小企業の人事制度などを支えるコンサルティング集団が有限会社人事・労務だ。顧客企業の従業員満足度(エンプロイ・サティスファクション=ES)を高めるサービスを主力に業績を伸ばしてきた同社は、「人間性尊重経営の伝道師」から「社会に喜ばれる持続的経営の先導役」へと進化している。
◆原点は大学応援団
コンサル集団を率いる矢萩大輔代表取締役の原点は、大学時代に所属した応援団で学んだ「人間を応援し元気づける」精神だ。
大学卒業後に矢萩氏は、男らしい仕事に憧れて大手ゼネコン(総合建設会社)に入社。ある時、心が揺れる出来事に遭遇した。社会保険労務士が労使トラブルを解決に導く様子を間近で目にしたのだ。依頼主を助ける姿に感動した。
それを機に“応援”する情熱が再び芽生え、社労士試験にチャレンジ。資格を手にした矢萩氏は1995年3月に退社し、東京都台東区で社労士事務所を開業していた川口義彦氏の元で働き10月に東京都内で最年少となる26歳で社労士事務所を開業した。
仕事を続けるうち、社労士の枠を超えたビジネスに挑む意欲がわいた。97年に異業種の仲間と人事のアウトソーシング会社を設立。しかし、方向性が合わず約1年後には解散に追い込まれた。
窮地に立った矢萩氏に救いの手を差し伸べたのが恩師の川口氏だ。有望商品の賃金制度設計ソフトの販売権を購入させてもらい、初めて「応援される側」の心境を悟った。起死回生を誓い、98年2月に人事・労務を設立した。
2004年、矢萩氏がビジネスの中心に位置づけたのが、ESを高める組織の構築から定着までを一貫支援する事業だ。当時、仕事の成果を重視した評価基準で賃金を決める「成果主義」の人事制度が注目を集めた。90年代のバブル崩壊で厳しい環境にあった多くの日本企業が飛び付いた。しかし、矢萩氏は成果主義の負の側面を見逃さなかった。
◆友人の一言で触発
ゼネコン時代の同期入社の友人が一時期、派遣社員として過ごしたとき、悩みを矢萩氏に打ち明けた。
「名前があるのに派遣さんとしか呼んでくれない」-。その一言が、労働力の調整弁として非正規社員を雇用する「効率経営のゆがみ」を身近に感じさせ、ES経営中心のコンサルを後押しした。
矢萩氏は「会社は金だけでは動かない。従業員が幸せに感じる状態を作らなければ組織力が低下し、結果的に生き残れなくなる」との思いを強くした。
もちろん従業員を甘やかすわけではない。社員一人一人が自己と会社の成長を結びつけて充実感を得る状態や仕事に誇りを持つ状態を持続させることがES経営を促す目的だ。
いまES関連サービスは、約120件の受注を獲得するまでに成長。これを土台にビジネス領域を広げている。
注目しているのが、ESに環境と社会の視点を加えた社会的満足度「ソーシャル・サティスファクション」(SS)だ。この切り口から組織を活性化する事業「クレドアセスメントプログラム」を昨年立ち上げた。
SS向上のために、職場が共有する「クレド(信条)」の作成から信条に基づく行動の習慣化までを支援するとともに、実効性を高める評価制度の運用もサポートする。コンサル料は1年契約の場合250万円。約300社の顧客獲得を目指している。
コンサル業を通じて日本の企業を変革させるため、ES向上という文化を根付かせる挑戦が続く。(臼井慎太郎)
【会社概要】有限会社人事・労務
▽本社=東京都台東区松が谷3の1の12 松が谷センタービル
☎03・5827・8217
▽創業=1998年
▽資本金=700万円
▽新規受注=約60社(2009年度)
▽従業員数=31人
▽事業内容=中小企業向け人事関連コンサルティング
(フジサンケイビジネスアイ)