「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
第5回
借入したかったら経営改善に努力するというスタンス
これまで、中小企業に対する金融支援が変革期にあることをご説明したところです。橋本卓典さんの『捨てられる銀行』では中小企業を支援しない金融機関は捨てられる可能性があると指摘していますが、それは2011年7月に中小企業政策審議会の企業力強化部会で示された「金融と経営支援の一体的な推進 」で提示された方針に則っているようです。
中小企業庁サイドでは、例えば中小企業を支援する「認定支援機関」の制度が創設され、今や2万を超える機関が認定されるなど、着々とこの制度が実行に移されています。世間からは半ば驚きでもって受け止められている金融庁の政策転換も、このトレンドからすると当然の帰結と考えられます。今回はこのトレンドを踏まえ、中小企業が資金調達する場合には何が必要かを、考えてみたいと思います。
経営改善も同時に考えることが融資のポイント
筆者は、この点については答えは自明だと考えています。それは「金融支援(融資)を受けたいと思うなら、経営改善も同時に考える」という方向性です。
この理由は、中小企業の資金調達が金融機関の貸し出し姿勢と裏腹にあることを考えれば、ご理解に頂けると思います。金融機関に対しては、中小企業に対して経営支援と一体で金融支援(融資)をするよう指示されました。「成長し、利益もあげ、内部留保もある」という三拍子揃った優良中小企業には、金融機関も従来からプロパー貸付して来たと思います。しかし、それほどではない中小企業に対しては、今までは「信用保証が付いていれば(信用保証協会が保証承諾すれば)融資する」というスタンスでした。これを「経営支援をし、その甲斐があって経営改善できそうな先には融資する」というスタンスに換えるようにというのが、金融庁からの指示の趣旨だと思われます。
一方で、この指示は自然と守られる訳ではないと思われます。「あまり成長していない」「あまり利益もあげていない」「内部留保もほとんどない」企業に今までのように信用保証を付して借入を可能にする支援が強力に続けられたら、金融庁の指示を真面目に守ろうとする金融機関は皆無でしょう。とすると、中小企業の側にも姿勢の変化が求められることになりそうです。「金融機関から経営支援を受けるなどしながら、経営改善に自助努力する」という姿勢への変化です。中小企業における姿勢の変化があって初めて、金融庁の指示が実効性を帯びてくるのです。
経営改善を考えていることを示す
こういうと「そんなことを言われても、特に小零細企業が経営改善の成果をあげるのは難しい。それを行う人的資源が不足しているし、そもそも今は不況期だ」との意見があるかもしれません。このご意見、もっともだと思います。但し、金融庁の指示は、そこまでを求めている訳ではなさそうです。金融庁の金融機関に対する指示は「経営支援をし、その甲斐があって経営改善できそうな先に融資するように」という趣旨であって、「経営改善が完了した企業を選んで融資するように」という趣旨ではなさそうだと解釈できます。ハードルは(ずいぶんと)低いわけです。
という事情を鑑みて、融資を得たい中小企業は何をすれば良いのか。自社が「金融機関からの支援のもと、経営改善に努力する。それに成功する確率は決して低くない」ということをアピールして、それを認めてもらえば良いのです。そのアピールを上手く行うことが、借入するために中小企業が行うべきことになります。
経営改善意思のアピール方法
では、「金融機関から経営支援をしてもらえれば、その甲斐があって経営改善できそうである」ということを、どのようにアピールすれば良いのでしょうか?この答えも、既に示されていると思われます。近年、持続化補助金やものづくり補助金の申請には経営計画書の作成が要件となっています。自社をどのように経営していくのか、書面で表すことが求められているのです。これらと同様に、金融機関から支援を得ようとする場合にも、経営計画書(もしくは事業計画書・経営改善計画書。書類の名称や内容については、ここではこだわりません)を作成することにより、自社の姿勢をアピールできます(要求されているわけではありませんが、自発的にそうすることができます)。
以上ご説明してきた通り、中小企業の資金調達は今、変革期にあります。これまで明らかにされてきた情報やトレンドからすると、必要とあらば金融機関の支援を受けながら経営改善の自助努力を行う姿勢であること、そしてその姿勢を事業計画書などの書面で明らかにすることがポイントになると推察されます。そうすることで時代を先取りし、資金調達が可能になると考えられます。
コラム「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
- 第1回 新年を迎えるにあたって一年の計画
- 第2回 今起きている中小企業金融の変化、そして求められている対応の変化
- 第3回 中小企業金融政策の転換理由とは?
- 第4回 金融と経営支援の一体的な推進
- 第5回 借入したかったら経営改善に努力するというスタンス
- 第6回 金融庁森信親長官インタビューから
- 第7回 事業計画書で経営改善の意思を示す
- 第8回 事業計画を作成して資金調達に成功した例
- 第9回 金融機関の特性に対応した行動を取る(日頃の行動編)
- 第10回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(前編)
- 第11回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(後編)
- 第12回 金融機関の特性に対応した行動を取る(コミュニケーション編)
- 第13回 今までは常識だったが、今は意味合いが薄れたアプローチ
- 第14回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(前編)
- 第15回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(中編)
- 第16回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(後編)
- 第17回 金融機関とのコミュニケーション
- 第18回 金融機関が質問する意図
- 第19回 金融機関からの質問に答える
- 第20回 金融機関に伝えたいことを伝える
- 第21回 どのタイミングで金融機関を訪れるか
- 第22回 経営力向上計画に取り組む
- 第23回 経営力向上計画策定をバネにする(上)
- 第24回 経営力向上計画をバネにする(下)
- 第25回 金融機関は経営者について何を見ているか?
- 第26回 IT導入補助金経営計画書を活用する
- 第27回 日頃のコミュニケーションで貸し剥がされない企業になる
- 第28回 金融機関を安心させるコミュニケーション
- 第29回 儲かる構図を作り上げる
- 第30回 専門家の助けを借りる
- 第31回 中小企業金融の行方
- 第32回 企業が伝えたいことと金融機関が知りたいこと
- 第33回 言葉遣いを気にしてみる
- 第34回 事業性評価融資を依頼する
- 第35回 事業性評価融資を依頼するための事業計画書
- 第36回 実際にご支援した事業計画書の例
- 第37回 計画策定のプロセス
- 第38回 金融機関に受け入れられなかった場合
- 第39回 金融機関の考えを知る
- 第40回 取引する金融機関を戦略的に検討する
- 第41回 金融機関の審査方法
- 第42回 「資金を調達すると同時に経営改善を目指す」セミナー(お知らせもあります)
- 第43回 年末資金調達の準備を始める
- 第44回 残念な事業計画書
- 第45回 金融機関が事業性評価融資を提案する場合
- 第46回 戦略とマネジメント
- 第47回 補助金活用で経営改善の姿勢を見せる
- 第48回 超特急で事業性評価融資を依頼する
- 第49回 信用保証はどこへ向かうのか?
- 第50回 金融機関とのコミュニケーションを深める
- 第51回 「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」の教訓
- 第53回 金融機関に、中小企業に歩み寄ってもらう
- 第54回 メインバンクを持つべきか?
- 第55回 ものづくり補助金を活用する
- 第56回 信用保証制度見直しに対応する(1)
- 第57回 信用保証制度見直しに対応する(2)
- 第58回 信用保証制度見直しに対応する(3)
- 第59回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(1)
- 第60回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(2)
- 第61回 信用保証以外の調達策「マル経融資」を活用する
- 第62回 創業資金を調達する
- 第63回 資金繰りを計画する
- 第64回 「不況業種」と言われたら
- 第65回 いつものことを、同じでなくする
- 第66回 金融機関との付き合い方を考える
- 第67回 情報を隠すか、開示するか
- 第68回 コンサルティングをうまく活用する
- 第69回 年末の資金調達を考える
- 第70回 資金調達できる!日頃の行動を考える
- 第71回 事業性を上手く表現する
- 第72回 忘年会か、記年会か
- 第73回 金融検査マニュアル廃止時代に生きる
- 第74回 中小企業に求められる臨機応変
- 第75回 会社の不調は誰のせい?
- 第76回 「事業性評価」依頼が失敗した時
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。
企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。
「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。