「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
第49回
信用保証はどこへ向かうのか?
年末の資金調達がほぼ終わった今、時々、聞こえてくるのは「信用保証は、今後どうなっていくのだろうか」との声です。そのようなお話しをお聞きすると、「中小企業企業経営者のみなさんの中には、本当にアンテナの高い方々がおられるな」と思います。今回は、中小企業庁から最近に発表された内容から、信用保証が今後、どこに向かっていくのかを考えたいと思います。
2016年12月の発表
「信用保証制度が変わるかもしれない。」みなさんがそうお感じになったきっかけは、中小企業庁が昨年12月に行った、ある発表です。中小企業政策審議会 基本問題小委員会 金融ワーキンググループから「中小企業・小規模事業者の事業の発展を支える持続可能な信用補完制度の確立に向けて」というレポートが発表されたのです。
<「中小企業・小規模事業者の事業の発展を支える持続可能な信用補完制度の確立に向けて(概要)」>
http://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20161220002_01.pdf
(注)「信用補完制度」とは、中小企業のみなさんが民間金融機関から融資を受ける場合に信用保証協会が行う信用保証の制度(「信用保証制度」)と、信用保証協会をバックアップする国の制度(「信用保険制度」)の総称です。
そこでは、企業の成長段階を「創業期」、「拡大期」、そして「再生期」に分け、それら段階に応じて信用保証がきめ細やかな支援を行なっていくことが示されていました。「創業期」や「再生期」にある企業に、信用保証は積極的に支援する方向性のようです。また、創業期を生き延びた後は拡大路線ではなく小規模企業として地場で活躍する企業もサポートします。リーマンショックなどの大規模な経済危機等の場合においても、信用保証の活躍が期待されています。
とはいえ、信用保証が今まで創業期や再生期、小規模企業などを支援してこなかったという訳ではありません。危機時に対応してこなかったという訳でもありません。というか、その逆と言って良いと思います。信用保証には、特段の政策目的を持たない「一般保証」と、創業したばかりの企業支援や台風などの災害や親会社の倒産等に見舞われた企業支援など一定の政策目的を持った「特別保証」があります。国が設ける保証のほか、地方公共団体(保証協会の設置母体となっている都道府県の他、市とタイアップする場合もあります)が設ける保証もあります。これら特別保証の多くが、先ほど挙げたような企業や経済事象への対応を目的にしています。
このため昨年12月の発表は「今までの常識をおさらいしただけ」と感じた方も、少なくなかったようです。一方で、「これほど『ものものしい』発表をしたのだから、何か意図があるに違いない」とお感じになった方々もおられます。中小企業庁が「金融と経営支援の一体的推進」で提示された方向性にあることを知っていた筆者も、当然、大きな変革がなされるのではないかと考えていました。
2017年10月の発表
このような状況下、今年10月に、中小企業庁はもう一つの発表を行いました。「信用補完制度の見直し(平成30年4月1日から見直し後の制度がスタート)」と題するお知らせです。
<信用補完制度の見直し(平成30年4月1日から見直し後の制度がスタート)>
http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/hokan/index.htm
そこでは、今回の見直しに関して3つの考え方がベースになっていると示されました。「信用補完制度が、中小企業の資金繰りを支える重要な制度であること」と、「信用保証への過度な依存が進むと弊害があること」、「信用保証協会と金融機関が連携して中小企業への経営支援を強化する仕組みが必要なこと」です(まとめは筆者による)。
続いて、大きく二つの対応が示されています。1つ目は、「危機関連保証の創設」をはじめとした、創業期や再生期にある中小企業への、よりきめの細かい保証制度等の創設です。
2つ目は、「信用保証協会と金融機関とが連携した支援」です。信用保証への過度な依存には、金融機関にとって「事業性評価融資やその後の期中管理・経営支援への動機が失われるおそれがある」という弊害、中小企業にとって「資金調達が容易になることから、かえって経営改善への意欲が失われる」という弊害があると指摘されています。このため「中小企業の経営改善や生産性向上を一層進めていくための仕組み」が必要だとされました。
そこで、信用保証協会と金融機関が連携するよう法律で要請されました。中小企業のそれぞれの実態に応じて、プロパー融資(信用保証なしの融資)と信用保証付き融資を適切に組み合わせ、信用保証協会と金融機関が柔軟にリスク分担を行っていくという連携です。その実効性を確保するため、連携を「信用保証協会向けの監督指針」にも明記すると共に、各金融機関のプロパー融資の状況等について情報開示することとされました。
今回の改正が意味するところ
以上の説明を素直に読むと、信用保証のあり方が大きく変わる可能性があると考えられます。今後、「創業期」や「再生期」にある企業向け、小規模企業向け、もしくは「危機時」には、信用保証は今まで以上に積極的に中小企業を支援することになるでしょう。一方で、それらに該当しない企業(つまり、ほとんどの中小企業)に対して信用保証が支援する場合には、プロパー融資も期待されるようになると読み取れます。
今までは、「債務者格付け」によるならばプロパー融資はできないと金融機関が考えた場合、信用保証を利用することになっていました。多くの場合、金融機関は、信用保証協会が保証承諾すれば融資を実行します。このことからすると金融機関は、債務者格付けで一定レベルを満たさない企業について、融資の可否を判断する必要はなかったと推察される状況でした。一方で中小企業は、信用保証協会が保証承諾するのを待っていれば良かったのです。
今後は、債務者格付けで一定レベルを満たさない企業についても、金融機関はプロパー融資ができるかどうか、判断することになりそうです。そして「プロパー融資を行うことができるが、中小企業の要望を完全に満たそうとするとリスクが大きくなりすぎる」と金融機関が考える場合、信用保証の出番となります。金融機関がリスクをとって中小企業を支援する場合に、リスク分担のために信用保証が活用できるという構図です。
必要となる「業務改善」
これは、中小企業にとっては「業務改善」が大切になることを意味していると思われます。債務者格付けではプロパー融資ができない中小企業に対して金融機関がプロパー融資できると判断できるのは、その中小企業が将来には儲かる(事業性のある)企業になるだろうと考える場合でしょう。中小企業に、事業改善への取組みが求められるのです。逆に考えると、債務者格付けではプロパー融資を今まで受けることができなかった中小企業でも、事業改善に取り組んで将来には儲かるだろうと金融機関が納得すれば、事業性評価融資を受けられる可能性があるのです。
必要となる「アピール力」
またこれは、「アピール力」が大切になることも意味しています。事業改善に取り組んでいても、それを金融機関に知られなかったら、事業性評価融資を受けられる可能性は開かれません。自らアピールするのです。最善の方法として、「これから、このような事業改善に取り組む」と宣言する事業計画書を提出方法があると、これまでお伝えしてきたところです。
以上のように考えると、平成30年4月からの信用保証制度改革は、中小企業にとって大きな影響を与えるものになりそうです。債務者格付けで問題なく融資を受けられる企業は、これまで通りで良いでしょう?一方で、「信用保証協会の保証が受けられれば」という条件を付けられるような企業の場合には、対応を変える必要がありそうです。
信用保証が受けられるかどうかを座して待っているのではなく、自ら動くことが大切です。事業改善に取り組み、事業計画書でもってそれをアピールするのです。そうすれば、信用保証制度改革は、貴社にとってピンチではなくチャンスをもたらしてくれるものになるでしょう。
コラム「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
- 第1回 新年を迎えるにあたって一年の計画
- 第2回 今起きている中小企業金融の変化、そして求められている対応の変化
- 第3回 中小企業金融政策の転換理由とは?
- 第4回 金融と経営支援の一体的な推進
- 第5回 借入したかったら経営改善に努力するというスタンス
- 第6回 金融庁森信親長官インタビューから
- 第7回 事業計画書で経営改善の意思を示す
- 第8回 事業計画を作成して資金調達に成功した例
- 第9回 金融機関の特性に対応した行動を取る(日頃の行動編)
- 第10回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(前編)
- 第11回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(後編)
- 第12回 金融機関の特性に対応した行動を取る(コミュニケーション編)
- 第13回 今までは常識だったが、今は意味合いが薄れたアプローチ
- 第14回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(前編)
- 第15回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(中編)
- 第16回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(後編)
- 第17回 金融機関とのコミュニケーション
- 第18回 金融機関が質問する意図
- 第19回 金融機関からの質問に答える
- 第20回 金融機関に伝えたいことを伝える
- 第21回 どのタイミングで金融機関を訪れるか
- 第22回 経営力向上計画に取り組む
- 第23回 経営力向上計画策定をバネにする(上)
- 第24回 経営力向上計画をバネにする(下)
- 第25回 金融機関は経営者について何を見ているか?
- 第26回 IT導入補助金経営計画書を活用する
- 第27回 日頃のコミュニケーションで貸し剥がされない企業になる
- 第28回 金融機関を安心させるコミュニケーション
- 第29回 儲かる構図を作り上げる
- 第30回 専門家の助けを借りる
- 第31回 中小企業金融の行方
- 第32回 企業が伝えたいことと金融機関が知りたいこと
- 第33回 言葉遣いを気にしてみる
- 第34回 事業性評価融資を依頼する
- 第35回 事業性評価融資を依頼するための事業計画書
- 第36回 実際にご支援した事業計画書の例
- 第37回 計画策定のプロセス
- 第38回 金融機関に受け入れられなかった場合
- 第39回 金融機関の考えを知る
- 第40回 取引する金融機関を戦略的に検討する
- 第41回 金融機関の審査方法
- 第42回 「資金を調達すると同時に経営改善を目指す」セミナー(お知らせもあります)
- 第43回 年末資金調達の準備を始める
- 第44回 残念な事業計画書
- 第45回 金融機関が事業性評価融資を提案する場合
- 第46回 戦略とマネジメント
- 第47回 補助金活用で経営改善の姿勢を見せる
- 第48回 超特急で事業性評価融資を依頼する
- 第49回 信用保証はどこへ向かうのか?
- 第50回 金融機関とのコミュニケーションを深める
- 第51回 「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」の教訓
- 第53回 金融機関に、中小企業に歩み寄ってもらう
- 第54回 メインバンクを持つべきか?
- 第55回 ものづくり補助金を活用する
- 第56回 信用保証制度見直しに対応する(1)
- 第57回 信用保証制度見直しに対応する(2)
- 第58回 信用保証制度見直しに対応する(3)
- 第59回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(1)
- 第60回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(2)
- 第61回 信用保証以外の調達策「マル経融資」を活用する
- 第62回 創業資金を調達する
- 第63回 資金繰りを計画する
- 第64回 「不況業種」と言われたら
- 第65回 いつものことを、同じでなくする
- 第66回 金融機関との付き合い方を考える
- 第67回 情報を隠すか、開示するか
- 第68回 コンサルティングをうまく活用する
- 第69回 年末の資金調達を考える
- 第70回 資金調達できる!日頃の行動を考える
- 第71回 事業性を上手く表現する
- 第72回 忘年会か、記年会か
- 第73回 金融検査マニュアル廃止時代に生きる
- 第74回 中小企業に求められる臨機応変
- 第75回 会社の不調は誰のせい?
- 第76回 「事業性評価」依頼が失敗した時
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。
企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。
「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。