「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
第47回
補助金活用で経営改善の姿勢を見せる
今まで約1年間、「捨てられる銀行(リスクを取りながら中小企業を支援する金融機関は見放される)」の時代が、ストレートに、中小企業にとって資金調達が容易になるという意味ではなさそうであることを、お伝えしてきました。金融機関がリスクを取ろうと思うのは、経営改善に努力する企業に対してです。これからは、経営改善に前向きな企業が資金調達できるようになる可能性があります。経営改善に前向きな企業には、その門戸が今まで以上に広げられることでしょう。
では、どうやったら経営改善に前向きな姿勢であることをアピールすることができるでしょうか?実際、これはなかなか難しい話です。「経営改善に前向きな姿勢」とは、いわば心持ちの問題です。口で言うのは簡単ですが、それを証明するのが難しいのです。事業計画書は、経営改善への前向きな姿勢を表現する最適な方法の一つです。
「事業計画書を書けば良いことは分かっているけれど、なかなか乗り気にはなれないよ。どういった計画書を書けば良いのか分からないし、金融機関がそれを受け入れてくれるかどうかも分からない。」そうおっしゃる社長さんも、少なくありません。今までは「それでも頑張ってみましょう」と励ましてきましたが、ここにきて、良いチャンスがあります。補助金を活用するのです。
補助金申請時の事業計画書
本コラムは資金調達がテーマですから、補助金の内容について、詳細なご説明は省略したいと思います。ここでお伝えしたいことは、補助金申請のために必要となる事業計画書が、事業改善に前向きな姿勢であることを示す証となるということです。これにより、金融機関が事業性評価融資に前向きになってくれるかもしれません。
現在、経済産業省・中小企業庁所轄の補助金では、申請時に事業計画書作成が必要となっています。新製品や新サービス開発等に係る費用等を補助する「ものづくり補助金」はもちろんのこと、宣伝費用や店舗等の改装費用等を補助する「持続化補助金」でも事業計画書が求められます。
これら補助金申請時に提出する事業計画書にはパターンがあります。事業の現状を表現するパートと、これから行おうとする取組みを記述するパートに分かれているということです。このため、求められている様式に従って事業計画書を作成すれば、半ば自動的に「我が社の現状(強み・弱みなど)」を見極め、そこで明らかになった課題克服のための「新規取組み」を記載することになるのです。アクションプランもしっかりと書き込めば、採択される可能性が高まることでしょう。
補助金申請を考えても良い場合
だからといって、どんな企業でも補助金申請を考えた方が良いかというと、そうとは言えません。補助金は、行政の意図に合うプラン・プロジェクトに対して支援がなされるというものです。行政の意図に合わせるために、自分が行おうとすることが曲げられてしまうなら、それは顛末転倒と言わざるを得ません。
また補助金申請にはそれなりの(というか、それなり以上の)労力がかかります。最近は、行政も「このプラン・プロジェクトを実行すれば本当に新製品・新サービスが実現するのか?それが企業の活性化に繋がるのか」をかなり意識して審査しているといいます。採択される事業計画書を作成するには、中小企業診断士などの支援が不可欠だという見方さえ、あるほどです。
加えて、補助金が採択された後にも、負担は続きます。補助金は、例えば「ものづくり補助金」ならば「新製品・新サービス実現のための費用」を補助しようとするものですが、それは一旦、事業者が全て負担しなければなりません。補助金が出されるのは、それらに関する領収書等を揃えて改めて申請し、それが認められた場合だけなのです。また、領収書等の関係書類を一定期間、保存しておく義務も課されます。
補助金申請を考えて良い場合とは、すなわち、これらのデメリットを踏まえた上でも、補助金にメリットがあると判断できる場合です。冒頭での表現と若干ニュアンスが異なってしまいますが、金融機関に事業性評価融資を提案するためだけに、補助金申請を考えるのは本末転倒です。一方で、新製品・新サービス開発は本決まりになっており、その実行にあたって補助金も事業性評価融資も活用したいと思うなら、しっかりとした事業計画書を作成することは一石二鳥です。是非、前向きに取り組んでみてください。
金融機関に意思表明する
では、いつのタイミングで金融機関と相談すれば良いのでしょうか?遅くとも、事業計画書を作成し補助金申請を終えたら、金融機関と相談してみてください。採択が決まる前で構いません。新製品・新サービス開発で新境地を目指すという取組みに、金融機関は、興味を示すに違いありません。
また「ものづくり補助金」を活用して、設備投資などの大規模な投資が必要となるプロジェクトを進めようとする場合には、事業計画書策定段階から金融機関と相談ができるかもしれません。先ほども申したように補助金は支払い済みの費用を支援するものですから、大規模な設備投資を行う場合などは自己資金では足りず、借入を行う必要がある場合があるでしょう。このような相談に、乗ってくれるのです。
以上、検討してきたように、事業性評価融資を受ける入り口として、補助金申請で必要となる事業計画書を活用するという方法があります。「返済しないで済む資金なら、何が何でも手にしたい」というお気持ちも分かりますが、是非、補助金の長所短所を踏まえて取組みをお考えになってください。そしてそれがあなたの会社にとってメリットがあると考えられるなら、是非、前向きに検討してください。
コラム「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
- 第1回 新年を迎えるにあたって一年の計画
- 第2回 今起きている中小企業金融の変化、そして求められている対応の変化
- 第3回 中小企業金融政策の転換理由とは?
- 第4回 金融と経営支援の一体的な推進
- 第5回 借入したかったら経営改善に努力するというスタンス
- 第6回 金融庁森信親長官インタビューから
- 第7回 事業計画書で経営改善の意思を示す
- 第8回 事業計画を作成して資金調達に成功した例
- 第9回 金融機関の特性に対応した行動を取る(日頃の行動編)
- 第10回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(前編)
- 第11回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(後編)
- 第12回 金融機関の特性に対応した行動を取る(コミュニケーション編)
- 第13回 今までは常識だったが、今は意味合いが薄れたアプローチ
- 第14回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(前編)
- 第15回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(中編)
- 第16回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(後編)
- 第17回 金融機関とのコミュニケーション
- 第18回 金融機関が質問する意図
- 第19回 金融機関からの質問に答える
- 第20回 金融機関に伝えたいことを伝える
- 第21回 どのタイミングで金融機関を訪れるか
- 第22回 経営力向上計画に取り組む
- 第23回 経営力向上計画策定をバネにする(上)
- 第24回 経営力向上計画をバネにする(下)
- 第25回 金融機関は経営者について何を見ているか?
- 第26回 IT導入補助金経営計画書を活用する
- 第27回 日頃のコミュニケーションで貸し剥がされない企業になる
- 第28回 金融機関を安心させるコミュニケーション
- 第29回 儲かる構図を作り上げる
- 第30回 専門家の助けを借りる
- 第31回 中小企業金融の行方
- 第32回 企業が伝えたいことと金融機関が知りたいこと
- 第33回 言葉遣いを気にしてみる
- 第34回 事業性評価融資を依頼する
- 第35回 事業性評価融資を依頼するための事業計画書
- 第36回 実際にご支援した事業計画書の例
- 第37回 計画策定のプロセス
- 第38回 金融機関に受け入れられなかった場合
- 第39回 金融機関の考えを知る
- 第40回 取引する金融機関を戦略的に検討する
- 第41回 金融機関の審査方法
- 第42回 「資金を調達すると同時に経営改善を目指す」セミナー(お知らせもあります)
- 第43回 年末資金調達の準備を始める
- 第44回 残念な事業計画書
- 第45回 金融機関が事業性評価融資を提案する場合
- 第46回 戦略とマネジメント
- 第47回 補助金活用で経営改善の姿勢を見せる
- 第48回 超特急で事業性評価融資を依頼する
- 第49回 信用保証はどこへ向かうのか?
- 第50回 金融機関とのコミュニケーションを深める
- 第51回 「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」の教訓
- 第53回 金融機関に、中小企業に歩み寄ってもらう
- 第54回 メインバンクを持つべきか?
- 第55回 ものづくり補助金を活用する
- 第56回 信用保証制度見直しに対応する(1)
- 第57回 信用保証制度見直しに対応する(2)
- 第58回 信用保証制度見直しに対応する(3)
- 第59回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(1)
- 第60回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(2)
- 第61回 信用保証以外の調達策「マル経融資」を活用する
- 第62回 創業資金を調達する
- 第63回 資金繰りを計画する
- 第64回 「不況業種」と言われたら
- 第65回 いつものことを、同じでなくする
- 第66回 金融機関との付き合い方を考える
- 第67回 情報を隠すか、開示するか
- 第68回 コンサルティングをうまく活用する
- 第69回 年末の資金調達を考える
- 第70回 資金調達できる!日頃の行動を考える
- 第71回 事業性を上手く表現する
- 第72回 忘年会か、記年会か
- 第73回 金融検査マニュアル廃止時代に生きる
- 第74回 中小企業に求められる臨機応変
- 第75回 会社の不調は誰のせい?
- 第76回 「事業性評価」依頼が失敗した時
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。
企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。
「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。