「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
第38回
金融機関に受け入れられなかった場合
現在は、金融庁が地域金融機関に「中小企業の支援をするように」と呼びかける一方、地域金融機関としてはまだ準備が整っていないという状況です。中小企業が金融機関に「私に、事業性評価融資をしてください」と依頼しても、積極的に応えられる金融機関はほとんどないと言っても過言ではないでしょう。
しかし、悲観する必要はありません。中小企業が「事業性評価融資を依頼する事業計画書」を作成した上で金融機関に打診してみることはできます。中小企業の側からそういう提案をすると、地域金融機関は、かなりの可能性で検討してくれます。「債務者格付け」の枠組みでは融資が受けられなかった企業が融資を受けられた例も、少なくありません。
何度もトライする
以上のようなご提案をしましたが、現状についていうと、「事業性評価融資を依頼する事業計画書」を作成して地元金融機関に持ち込めば、必ず対応してくれるというほどの状況ではなさそうです。前向きな姿勢にはあるものの、準備が整っていないので慎重に対応しているところもあると思います。姿勢をはっきりと打ち出せていないところさえ、あるかもしれません。
こういう状況において、どのように対応すれば良いのか?私がご提案しているのは「何度もトライしましょう」ということです。ある金融機関、ある支店で「事業性評価融資を依頼する事業計画書」を受け入れてもらえなかったら、他の金融機関(特に、都市銀行などではなく、第二地方銀行や信用金庫、信用組合などの地元密着の金融機関)に提示して検討してもらいます。その計画書が適切に作成してあれば、そして貴社の状況が申し込んだ金融機関にとって「事業性評価融資を依頼する事業計画書」でもって対応できる状況であれば、いくつかの金融機関に提示する中で、その提案に応じてくれる金融機関に遭遇する可能性は決して低くないと思われます。
再挑戦時の改善点
再挑戦するにあたっては、金融機関に受け入れられる工夫を加えることがお勧めです。先に作成した「事業性評価融資を依頼する事業計画書」が断られた理由を考えて、それに対応するのです。金融機関が前向きに検討してくれなかった、実際に融資は受けられなかった、という場合の理由として、例えば以下のものが考えられます。
・金融機関としては、より工夫された「事業性評価融資を依頼する事業計画書」でなければ融資判断できなかった
・貴社の状況(特に決算状況)が「事業性評価融資を依頼する事業計画書」でもって融資判断できるものではなかった
・取引履歴が短すぎる等、金融機関との信頼関係を先に構築する必要があった
事業計画書を改善する
事業性評価融資を依頼したにもかかわらず応じてもらえなかった理由の一つに、計画書が、金融機関にとって受け入れにくいものであったことが考えられます。よくある問題点は「事業性」についての考え方です。
以前にもご説明しましたが、「事業性」は、中小企業の視点で「この技術は素晴らしい。世界に一つしかない技術だから、当然に受け入れてもらって良いはずだ」という観点で判断されるものではありません。「これから行おうとするビジネスが、顧客に受け入れられ、一定以上の売上が上げられ、自社の業績を改善できる」という意味合いで判断されます。前者の観点で作られた計画書では受け入れられない可能性がありますから、改善が必要です。
貴社の状況
事業性評価融資に応じてもらえなかった理由として、もう一つ、「貴社の状況が、事業性評価融資を依頼する事業計画書でもって融資判断できるレベルではなかった」という場合が考えられます。金融機関としては、債務者格付けで「実質破綻先」の企業には、いくら秀逸な事業計画書を提示されても、それで新規融資は難しいと考えるものと思われます。業務改善、時には事業再生ともいえるような真剣な取り組みを先行して行う必要があるでしょう。
専門家の助けを借りる
「事業性評価融資を依頼する事業計画書」について金融機関が前向きに検討してくれなかった場合の対応として、もう一つ、「味方を増やす」というアプローチが考えられます。「事業計画書を改善するにあたってアドバイスをくれるブレイン」、「金融機関と交渉する勇気を与えてくれるコーチ」、「必要な場合には戦略変更が必要だと教えてくれる参謀」そして「事業改善・事業再生のアシスタント」として、専門家を迎えるのです。
金融機関としては、今までとは違った取り組みを行おうとする企業が「その道に精通した専門家の力を借りることにした」というと、心強く感じるでしょう。専門家のノウハウを活用できるだけでなく、企業を複眼で観察できるようになる、困難な時に励ますコーチ役になってくれると期待できるからです。そのような専門家を味方に引き入れることは、事業性評価融資による資金調達だけでなく、貴社の業況改善にも役立つでしょう。必要に応じて、ご検討されることをお勧めします。
コラム「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
- 第1回 新年を迎えるにあたって一年の計画
- 第2回 今起きている中小企業金融の変化、そして求められている対応の変化
- 第3回 中小企業金融政策の転換理由とは?
- 第4回 金融と経営支援の一体的な推進
- 第5回 借入したかったら経営改善に努力するというスタンス
- 第6回 金融庁森信親長官インタビューから
- 第7回 事業計画書で経営改善の意思を示す
- 第8回 事業計画を作成して資金調達に成功した例
- 第9回 金融機関の特性に対応した行動を取る(日頃の行動編)
- 第10回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(前編)
- 第11回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(後編)
- 第12回 金融機関の特性に対応した行動を取る(コミュニケーション編)
- 第13回 今までは常識だったが、今は意味合いが薄れたアプローチ
- 第14回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(前編)
- 第15回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(中編)
- 第16回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(後編)
- 第17回 金融機関とのコミュニケーション
- 第18回 金融機関が質問する意図
- 第19回 金融機関からの質問に答える
- 第20回 金融機関に伝えたいことを伝える
- 第21回 どのタイミングで金融機関を訪れるか
- 第22回 経営力向上計画に取り組む
- 第23回 経営力向上計画策定をバネにする(上)
- 第24回 経営力向上計画をバネにする(下)
- 第25回 金融機関は経営者について何を見ているか?
- 第26回 IT導入補助金経営計画書を活用する
- 第27回 日頃のコミュニケーションで貸し剥がされない企業になる
- 第28回 金融機関を安心させるコミュニケーション
- 第29回 儲かる構図を作り上げる
- 第30回 専門家の助けを借りる
- 第31回 中小企業金融の行方
- 第32回 企業が伝えたいことと金融機関が知りたいこと
- 第33回 言葉遣いを気にしてみる
- 第34回 事業性評価融資を依頼する
- 第35回 事業性評価融資を依頼するための事業計画書
- 第36回 実際にご支援した事業計画書の例
- 第37回 計画策定のプロセス
- 第38回 金融機関に受け入れられなかった場合
- 第39回 金融機関の考えを知る
- 第40回 取引する金融機関を戦略的に検討する
- 第41回 金融機関の審査方法
- 第42回 「資金を調達すると同時に経営改善を目指す」セミナー(お知らせもあります)
- 第43回 年末資金調達の準備を始める
- 第44回 残念な事業計画書
- 第45回 金融機関が事業性評価融資を提案する場合
- 第46回 戦略とマネジメント
- 第47回 補助金活用で経営改善の姿勢を見せる
- 第48回 超特急で事業性評価融資を依頼する
- 第49回 信用保証はどこへ向かうのか?
- 第50回 金融機関とのコミュニケーションを深める
- 第51回 「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」の教訓
- 第53回 金融機関に、中小企業に歩み寄ってもらう
- 第54回 メインバンクを持つべきか?
- 第55回 ものづくり補助金を活用する
- 第56回 信用保証制度見直しに対応する(1)
- 第57回 信用保証制度見直しに対応する(2)
- 第58回 信用保証制度見直しに対応する(3)
- 第59回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(1)
- 第60回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(2)
- 第61回 信用保証以外の調達策「マル経融資」を活用する
- 第62回 創業資金を調達する
- 第63回 資金繰りを計画する
- 第64回 「不況業種」と言われたら
- 第65回 いつものことを、同じでなくする
- 第66回 金融機関との付き合い方を考える
- 第67回 情報を隠すか、開示するか
- 第68回 コンサルティングをうまく活用する
- 第69回 年末の資金調達を考える
- 第70回 資金調達できる!日頃の行動を考える
- 第71回 事業性を上手く表現する
- 第72回 忘年会か、記年会か
- 第73回 金融検査マニュアル廃止時代に生きる
- 第74回 中小企業に求められる臨機応変
- 第75回 会社の不調は誰のせい?
- 第76回 「事業性評価」依頼が失敗した時
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。
企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。
「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。