「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
第19回
金融機関からの質問に答える
金融機関とのコミュニケーションの場で、質問に効果的に応えることは大切です。「嘘も言わず、小細工をしないで答えれば良いのではないか?」おっしゃる通りです。但し、中小企業の経営者と金融機関の担当者では、日常の関心事や、考え方のプロセスが違います。このため、経営者が普段の話し方で話すと、真意が伝わりにくいかもしれません。
「金融機関からの質問には、どのように答えれば良いのか?」多くの中小企業の社長さんから聞かれます。今までご回答してきた内容をいくつかピックアップしてみました。
1.ストレートに答える
質問にはストレートに答えるというのが基本なはずなのですが、なかなか、そうできないことが多いようです。特に、それに答えると自分にとって不都合ではないかと不安な場合など、質問に答えずに話を濁してしまうことが少なくありません。例えば「現在、新規顧客開拓に努力している」と説明し、「効果があがっていますか?」と質問されてた場合、「あがっていない」と答え辛いので、自分が如何に努力しているかを延々と話してしまうような場合です。
一方で金融機関の側としては、そういう話をお聞きして「そうか、頑張っているんだな。では、大丈夫そうだ」と思うでしょうか?もしかしたら、そうではないかもしれません。質問の答えが的確に返ってこない理由を推察して「ああ、うまくいっていないのかな」と解釈してしまうかもしれません。
長々とされた説明については、うまくいけば「改善に向けた努力は続けているようだ」と解釈される可能性も、あります。しかし「効果のあがらない方法を続けているように見受けられる」と解釈される可能性もあります。後者でなく、前者のように担当者に受け取ってもらい記録してもらうためには、まずはストレートに答え、次に自分が期待しているように受けとられ、記録されるように工夫して答える方が賢明でしょう。
2.金融機関が評価するポイントを答える
金融機関は、御社について「融資できる先か、きちんと判断したい」という目的を持って質問しています。「最近の状況はどうですか?」などという茶飲み話のように聞こえるような質問であっても、それは変わりません。
とすれば、金融機関からの質問に答えるにあたっては、金融機関が評価するポイントを織り交ぜながら答えるのが効果的です。ポイントを突いた答えをすれば、担当者はあなたからの回答を的確に受けとめ、記録に留めるでしょう。
例えば新規顧客開拓について、努力しているが効果があがっていない場合、金融機関には何と説明すれば評価ポイントに触れたことになるでしょうか?「いろいろ試しているのに、なかなかうまくいかない。顧客は消極的で、どんなに呼びかけても購買意欲を高めてくれない」という趣旨を延々と説明すると、金融機関は「場当たり的な取り組みを行っているのかもしれない。効果のあがらない方法を延々と続けているようだ」と感じてしまうかもしれません。
では「顧客開拓の方法としていくつかピックアップし、そのうち何が効果的で、何が当社にはあまりフィットしないのか、テストしています。今、試している方法では大きな効果はあがっていませんが、時間が必要なのか、他の方法の方が良いのか、もう少し試して判断しようと考えています」と答えたらどうでしょうか?そう答えると、金融機関は、場当たり的な取組みではなく、きちんと考慮してシステマチックに取り組んでいると理解できます。御社の取り組みを前向きに評価して、「そうか、頑張っているんだな。では、大丈夫そうだ」と感じて、そう記録するかもしれません。
3.数字で答える
以前にもお話ししたことですが、金融機関職員は、財務数字を共通語としているという一面があります。もちろん、日本語を理解しないという訳ではありませんが、同じことを伝えようとする場合、財務数字を使った方が格段に理解してくれます。
例えば「今回の新規顧客開拓戦略を推進すれば、売上は格段に伸び、我が社の財務状況も随分と改善されると期待できる」と話したとしても、金融機関はあまり興味を示さないかもしれません。しかし「売上は3%増の◯◯◯万円アップし、利益率も2%向上して税引後利益が◯◯万円増加する」と説明すれば、関心は高まるでしょう。
取組みによっては、財務数字の前提となる業務データを示すことも効果的です。「今回の新規顧客開拓戦略では、リストアップした◯◯◯社にローラー作戦をかけることにしている。定期取引してくれる顧客に結びつく可能性を3%と見込み、得意先が◯◯社増加(社数ベースで2%アップ)することを目指して、営業部隊一丸となって取り組んでいく」と説明できるかもしれません。このような説明は、売上増大を見込む理由を明らかにすることにも繋がるので、金融機関は興味を持って話を聞いてくれるでしょう。
4.想いを伝える
金融機関は、財務を中心とした数字でもってコミュニケーションすることを得意としていますが、数字至上主義ではありません。企業の、経営者の想いをとても大切にしています。
例えば困難な取り組みを倦み疲れることなく実行できるのは、もしくは大変な状況ながらも従業員を巻き込んで成果を出せるのは、経営者の想いがあってだからこそです。逆に言えば、強い想いがないと経営者自身が諦めてしまったり、従業員の力を集めることができない場合が多いことを、金融機関はよく知っているのです。
ですから金融機関は、企業もしくは経営者の想いを知りたいと考えています。どんな想いをもっているかだけでなく、それを顧客や従業員、取引先などに伝えているかなどにも興味を持っています。格好良い言葉である必要はありません。「今期こそ黒字化!」というシンプルな言葉でも結構です。その決意を元に経営者から従業員までが一丸となっていることを見て、金融機関は、御社の先行きについてより好意的な印象を持ってくれることでしょう。
5.答えたことと実態を合わせる
金融機関とのやり取りの中で、質問に答えているうちに、曖昧な答えをしてしまうこともあるかもしれません。例えば「成果が出ていますか?」と質問された時に、数値としてはコンマ何パーセントという数字であるにもかかわらず「それなりに成果があがりつつあります」と答えるような場合です。
こういった答えをした場合には、次回の面談時には、例えば「今期、売上は3%アップして◯◯◯万円増加した」と答えられるように努力してください。答えたことと実態を合わせるのです。
その努力を怠って、結果的に年度末赤字決算となった場合には、金融機関はどう思うでしょうか?「ある期、社長は『それなりに成果があがりつつある』と答えていたが、あれは出まかせだったのだろうか」と感じるかもしれません。御社の言葉への信頼感が薄らいでしまうかもしれません。そうならないように、自分の言葉を真実にするために、努力をするのです。それはまた、会社を本当に改善するエネルギー源にもなります。
コラム「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?
- 第1回 新年を迎えるにあたって一年の計画
- 第2回 今起きている中小企業金融の変化、そして求められている対応の変化
- 第3回 中小企業金融政策の転換理由とは?
- 第4回 金融と経営支援の一体的な推進
- 第5回 借入したかったら経営改善に努力するというスタンス
- 第6回 金融庁森信親長官インタビューから
- 第7回 事業計画書で経営改善の意思を示す
- 第8回 事業計画を作成して資金調達に成功した例
- 第9回 金融機関の特性に対応した行動を取る(日頃の行動編)
- 第10回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(前編)
- 第11回 金融機関の特性に対応した行動を取る(金融基礎編)(後編)
- 第12回 金融機関の特性に対応した行動を取る(コミュニケーション編)
- 第13回 今までは常識だったが、今は意味合いが薄れたアプローチ
- 第14回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(前編)
- 第15回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(中編)
- 第16回 「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(後編)
- 第17回 金融機関とのコミュニケーション
- 第18回 金融機関が質問する意図
- 第19回 金融機関からの質問に答える
- 第20回 金融機関に伝えたいことを伝える
- 第21回 どのタイミングで金融機関を訪れるか
- 第22回 経営力向上計画に取り組む
- 第23回 経営力向上計画策定をバネにする(上)
- 第24回 経営力向上計画をバネにする(下)
- 第25回 金融機関は経営者について何を見ているか?
- 第26回 IT導入補助金経営計画書を活用する
- 第27回 日頃のコミュニケーションで貸し剥がされない企業になる
- 第28回 金融機関を安心させるコミュニケーション
- 第29回 儲かる構図を作り上げる
- 第30回 専門家の助けを借りる
- 第31回 中小企業金融の行方
- 第32回 企業が伝えたいことと金融機関が知りたいこと
- 第33回 言葉遣いを気にしてみる
- 第34回 事業性評価融資を依頼する
- 第35回 事業性評価融資を依頼するための事業計画書
- 第36回 実際にご支援した事業計画書の例
- 第37回 計画策定のプロセス
- 第38回 金融機関に受け入れられなかった場合
- 第39回 金融機関の考えを知る
- 第40回 取引する金融機関を戦略的に検討する
- 第41回 金融機関の審査方法
- 第42回 「資金を調達すると同時に経営改善を目指す」セミナー(お知らせもあります)
- 第43回 年末資金調達の準備を始める
- 第44回 残念な事業計画書
- 第45回 金融機関が事業性評価融資を提案する場合
- 第46回 戦略とマネジメント
- 第47回 補助金活用で経営改善の姿勢を見せる
- 第48回 超特急で事業性評価融資を依頼する
- 第49回 信用保証はどこへ向かうのか?
- 第50回 金融機関とのコミュニケーションを深める
- 第51回 「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」の教訓
- 第53回 金融機関に、中小企業に歩み寄ってもらう
- 第54回 メインバンクを持つべきか?
- 第55回 ものづくり補助金を活用する
- 第56回 信用保証制度見直しに対応する(1)
- 第57回 信用保証制度見直しに対応する(2)
- 第58回 信用保証制度見直しに対応する(3)
- 第59回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(1)
- 第60回 信用保証制度見直しによる予想される影響と対策(2)
- 第61回 信用保証以外の調達策「マル経融資」を活用する
- 第62回 創業資金を調達する
- 第63回 資金繰りを計画する
- 第64回 「不況業種」と言われたら
- 第65回 いつものことを、同じでなくする
- 第66回 金融機関との付き合い方を考える
- 第67回 情報を隠すか、開示するか
- 第68回 コンサルティングをうまく活用する
- 第69回 年末の資金調達を考える
- 第70回 資金調達できる!日頃の行動を考える
- 第71回 事業性を上手く表現する
- 第72回 忘年会か、記年会か
- 第73回 金融検査マニュアル廃止時代に生きる
- 第74回 中小企業に求められる臨機応変
- 第75回 会社の不調は誰のせい?
- 第76回 「事業性評価」依頼が失敗した時
プロフィール
StrateCutions
代表 落藤 伸夫
中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。
企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。
「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。