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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第31回

情報システムを見直す

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーの役割として、マネジメント・システムの見直しについてお話し頂いているところです。成し遂げてもらいたいことがあれば、その責任を負う部署を設けるという方法があること、また当該部署に起きがちな問題に適切に対処できるよう、権限を見直すことが含まれていましたね。」

「そうだ。そして今日は、情報システムについて話そうと思う。」

「情報システムというとおどろおどろしい感じですが、わかるような気がします。それはITシステムを導入することではなく、要は、部署が仕事を果たすため必要な情報を、決裁責任者が適切な意思決定を下すために必要な情報を得られるようにすること、という意味ですね。」

「そうだ。よくわかったな。」

「ええ、三上取締役のレクチャーを受けるの、もう長いですからね。そろそろパターンが見えてきました。」

「どんなパターンなんだ?」

「大げさな表現をしたとしても、それって多くは、常識で考えたら分かるということです。」

「そうだな。中川部長の言う通りだと思うよ。マネジメントをうまく行うために必要なことは何か、しっかりと検討していったら自然に行き着く結論が多いんだ。」

「おっと、今日は随分と素直じゃないですか?」

「中川部長が俺のこと、どんな風に考えているか、一度じっくりと聴きたくなるよ。」

「奢りだったら、ご一緒しますよ。」


システム化

「中川部長の指摘、概ね正しいのだけれど、一つ思い起こしてもらいたいことがある。」

「何ですか?」

「答えを聞いたら、『そうだな。それはもっともだな』と思うようなことでも、自分で思い付くようにと言われたら、なかなか難しいことがある、そういうことは少なくないということだ。」

「なるほど。」

「その中で一つ、考えてほしい。ここで『情報システム』と言っている。これは、どういう意味だ?」

「一般的にはITのシステム、メールやグループウエアなどのことを指すと思います。でも、MCSではそれだけではありませんね。人と人とのコミュニケーションも含んでいます。」

「そうだな。では、ここでいう情報システム化とはコミュニケーションを密にすることか?」

「そうではないのですか?」

「よく『コミュニケーションを密にしましょう』という掛け声があるが、それって実現されているか?」

「それは、少ないようですね。」

「そうだろう。だからこそ情報システム化をしようと言っているんだ。単なるコミュニケーションよりも、もっと意味がこもった言葉なんだよ。」

「なるほど。」


システム化とは

「ここでポイントは、もちろん『システム化』だ。」

「そうか、システム化には特別な意味があったのですよね。今、思い出してみます。」

「中川部長の記憶は、自分の頭の中ではなく、ノートの中で行われているのだな。」

「そう、茶化さないでくださいよ。それに、ノートもとっていないより良いでしょう?」

「まあ、そうだがな。それで、分かったのか?」

「システム化とは『担当者とその役割を明確にすると共に、コントロールの仕組みを設けておくこと』でした。」

「そう、必要なコミュニケーションが必ず、適切に行われるように仕組んでおくことが、人が集まる組織におけるシステム化だと言える。」

「なるほど。」


情報システム化の意味

「では、考えてもらおう。『マネジメント体制の見直し』という文脈の中で情報システムを考える意味だ。」

「そうですね。繰り返しになりますが、成し遂げてもらいたいことがあれば、その責任を負う部署を設けることが『組織の見直し』でした。そこで発生しがちな問題に適切に対処できるように意思決定者について検討することが『権限の見直し』です。とすると、組織がきちんと仕事をしたり、決裁権者が適切な意思決定ができるように必要な情報を得られるようにすることが『情報システム化』の一つの意味になると思います。」

「そうだな。それを『システム化』するとは、どういう意味だ?」

「情報がきちんともたらされるよう、情報をもたらす役割を担った担当者を置いて、彼が万一、その役割をきちんと果たさなかったら是正できる仕組みを設けることですね。」

「ということだ。」

「わかりました。」


具体例

「これだけで終わりにしては面白くないな。具体的に考えてみよう。」

「わかりました。以前に私の周囲で起きた事件を例に、お話しします。」

「どんな事件だったんだ。」

「設備修繕が、思った通りの成果をあげなかったのです。修繕範囲が狭かったことが原因でした。メンテナンス担当者は破損した部分だけを修繕すれば良いと考えたのですが、そこが完動するようになると、別の部分の不調が明らかになったのです。」

「なるほど。それで、どうなった?」

「もちろん、そこも修繕しました。」

「問題は?」

「破損が修繕された後、他の部分の不調が原因で設備のパフォーマンスが低下していることを突き止めて修繕するまでかかった期間に係る機会損失と、修繕が2回に渡ったので修繕費用がかさんだことです。技術者数人の出張費用等を2重払いしましたから、バカにならない費用でした。」

「そうだったのか?それで、教訓は?」

「このような状況を回避する、いろいろなチャンスがあったはずです。しかし、それらは活かされませんでした。」

「どうして?」

「まさに、情報の問題です。修繕箇所の決定や、修繕そのものがなされるという決定を適切に行うための情報が、しかるべき人に与えられていませんでした。」

「然るべき人とは?」

「この場合は、当該設備を使用して生産に携わっている現場部門です。修繕や箇所の決定は、全て設備メインテナンス部門で行われていました。その情報が、現場部門に届いていなかったのです。」

「そうだな。その意思決定を行うときに、現場部門に、具体的にいえば現場のマネジャーに相談していれば、そんなことは避けられただろう。」

「そう思います。」

「それで、どうなったのだ?」

「設備メインテナンス部門で修繕や箇所を決定する場合には、現場部門と相談するということになりました。」

「それで良いのか?」

「その時には良いと思いましたが、今のお話だと不十分ですね。」

「そうだな。どうすれば良い?」

「いくつか案があると思いますが、私が今、思いついたのは、意思決定に係る規則を変えることです。『設備メインテナンス部門で修繕や箇所を決定する場合には、現場部門と相談する』というルールを作り、その担当者を設ける。意思決定に関するりん議には当該担当者も関わることにし、『本修繕計画について現場部門と調整済み』という一文を入れさせる。ということです。」

「そうだな。そうしておけば決裁権者は、その文がなければ『現場部門との調整がなされていないのではないか』と気付くことができるだろう。」

「そうです。『担当者とその役割を明確にすると共に、コントロールの仕組みを設けておく』というシステム化ができたことになると思うのです。」

「俺も、そう思うよ。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

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