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マネジメントを再考してみる 前編<現場マネジメント>

第20回

上級マネジャーの役割(現場マネジャーのマネジメント)(後編)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーの役割について、お話をお聞きしているところです。」

「現場マネジャーのマネジメントについてだったな。現場目標・戦略の合意と、現場の取組みへのフィードバックについて説明した。」

「はい。」

「現場マネジャーへのマネジメントの最後は、現場マネジャーへのモチベーションアップと、配置・育成だ。」

「なんとなく、イメージが付くような気がするのですが、気のせいですか?」

「どうだろう?」


モチベーションアップ

「しかしマネジャーという存在も大変ですよね。やる気のない人間に、やる気を出させなければならないのですから。」

「まあ、そうだが、ちょっと気になるな。中川課長の考えているモチベーションアップとは、何だ?」

「アメとムチでしょう。」

「そう来るのではないかと思った。しかしモチベーションアップは、アメとムチに限られる訳ではない。」

「そうですか?これがマネジメントの基本だと思いますが。」

「もちろんアメとムチを使わなければならないこともあるだろう。しかしそれは手段の一つに過ぎない。俺としては非常手段であって、普段から振り回すものではないと思っている。MCSでは、別のアプローチがメインになるんだ。」

「何ですか、それは?」

「それは『軸を合わせる』ということだ。マネジャーとマネジメントされる者、ひいては組織と従業員が、目指すところの軸を合わせるということなんだよ」

「もう少し、説明してくれませんか?」


組織で働く人々全てが方向性の軸を合わせる

「現場マネジャーへのマネジメントの冒頭で挙げたこと、覚えているか?」

「現場目標・戦略の合意でしたね。」

「そうだ。もう少し説明すると、上級マネジャーは、自分が果たさなければならない責任を果たせるよう、部下である現場マネジャーたちに責任を割り振っていくというものだった。現場マネジャーが目標を実現すれば、自分も目標を果たせるという構図だ。」

「そうでしたね。」

「こういう構図がきちんとできていると、『この仕事、自分としてはイヤなんだけど、命令だから仕方がない』なんてことは少なくなると思う。理論的に言えば、完全にうまく軸を合わせることができれば、そういうことは起きなくなる。つまり皆が自発的に、モチベーションをもって働いてくれるということだ。」

「確かに、そうなのかもしれません。」

「多少苦しくても『会社のためだ。そして何より自分のためでもある』と思えるようになると思う。」

「はい。」

「それがMCSが理想とするモチベーションの源泉なんだ。ドラッカーが理想とする源泉でもある。」

「そうなんですか?実例はあるのですか?」


軸を合わせることでJALを再生させた稲盛社長

「実例か?俺は、JALを再生させた稲盛和夫社長(当時)が挙げられると思っている。あるドキュメンタリー番組で見たのだが、稲盛社長は、会社が立ち直るために達成しなければならない目標を達成するために、マネジャーたちに、自分は何をしなければならないかを徹底的に考えさせたんだ(注:稲盛社長の場合は上級マネジャーも含まれている)。役員クラスから始まって、その連鎖を現場マネジャーまで繋いでいったんだ。そうやって会社とマネジャーの軸を合わせ、モチベーションをアップさせたんだよ。」

「その番組、私も見たような気がします。BSC(バランスド・スコア・カードを活用したのでしたよね。そういう方法で効果が現れるのかと感銘を受けた記憶があります。」

「そうだ。よく覚えていたな。BSCと戦略マップを組み合わせた手法といえよう。どちらも有名な経営学者、カプランとノートンが提唱した手法だ。」

「そう言われてみると、稲盛社長の方法が効果的だった理由が分かりますね。JALを再生させるために、それまでの常識からすると、とてもレベルの高い目標を目指さなければならない。そういう時に、稲盛社長は、各マネジャーが自分と会社の目標の軸を合わせるように促したんですね。」

「そうなんだ。この時に稲盛社長が、この方法ではなくアメとムチを使っていたらどうなっていたと思う。」

「おそらく、多くのマネジャーが反発したでしょうね。モチベーションが湧きませんから。」

「そうなんだ。この方法のポイントは『モチベーションをアップさせるために、モチベーションの源泉になるものを準備する。それが会社と自分の軸を合わせること』ということなんだ。」

「お話を聞いて、最初は突拍子もないと思いましたが、ご説明いただくと納得できますね。源泉を用意しないでモチベーションだけをアップさせるというのは難しいし、不合理だと思えてきました。『会社のため』と「自分のため』の軸を合わせることが、モチベーションの源泉として最善なのかもしれません。」


配置・育成

「最後になったが、配置・育成について触れておこう。」

「ここまでくると、MCSの考え方が分かってきたような気がします。基本は適材適所なんでしょうね。」

「そうだ。しかし、全ての人に『やりたい』と手を挙げた仕事に就かせなければならないと考える必要もなかろう。敢えて希望しない場所に配置することで、思いもよらなかった能力を開花させられる場合もある。」

「能力開花ができるかできないかは、育成にかかっているという意味ですね。」

「そうだ。どんなに適材適所をしても、育成がなければ成長は期待できないだろう。希望する仕事に就かせても全く育成しなければ、成長が止まってしまう可能性がある。」

「ええ。人事担当者として、そういう例、たくさん見てきました。」

「だからこそ、適材適所と育成を効果的に組み合わせて用いることが大切なんだ。」

「わかりました。そのお話は、私がもし上級マネジャーのマネジメント・システムを担当することになった時に、お伺いすることにしましょう。」
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

「世界の先進国では日本だけが一人負け」という話を聞くことがあります。世界が日本を羨んだ “Japan as No.1” からまだ40年ほどしか経っていないのに、当時、途上国といわれていた幾つかの国々の後塵を拝している現状です。

それを打開する方法の一つに、マネジメントを高度化していくことがあると思われます。日本のホワイトカラーの生産性は先進国では最低だといわれていますが、逆に言えば、マネジメントを改善すれば成果を飛躍的に伸ばすことができる可能性があります。

筆者は Bond-BBT MBA でMCS(マネジメント・コントロール・システム)論を学んで以来、マネジメントでもって企業の業績をあげる方法について研究してきました。マネジメントを合理的に考え直し、システムとして組み直すのです。StrateCutionsで行うマネジメント支援の理論的背景や方法論を、お知り頂ければと考えています。


Webサイト:StrateCutions

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