ドラッカーから起業を学ぶ
第5回
ミッションとビジネスモデルの関係
「今日は友達を連れてきました。私と同じくコンサルタントを目指している田中さんです。」
「こんにちは。田中さん。」
「こんにちは。大山君から中川先生のお話をたびたびお聞きして、いつか直接にお伺いできればと思っていました。」
「なんなりと、お聞き下さい。」
「中川先生は、起業するときにはビジネスモデルを考えるよう、大山君に言われたそうですね。ドラッカーは、ミッションを大切にするように言っています。それからすると、ミッションよりビジネスモデルを強調されるのには違和感があるのですが。」
「ドラッカーのこと、よく勉強されているのですね。」
「そうなんです。だからビジネスモデルを考えるよりも、ミッションを見極める方が大切なのではないでしょうか?」
「時系列からすると、そうかも知れませんね。」
「時系列とは、どういう意味ですか?」
ミッションを起業の出発点とする
「田中さんは、どうしてミッションを考えるようになられたのですか?」
「起業したいと決意しても、何から手を付けて良いのか分からない日がありました。そういう時、ドラッカーに出会い、ミッションを考えるようにとの言葉に出会いました。それがきっかけです。」
「とても素晴らしい心がけですね。ドラッカーも、自分のアドバイスを素直に受け入れる人がここにもいて、喜んでいることでしょう。」
「あれ?ビジネスモデルの方を先に検討すべきだとは、おっしゃらないのですか?」
「最初にミッションを考えることは、素晴らしいことだと思います。それ以降になると、考えられなくなることが多いですからね。最初にミッションを考えて起業の出発点にすることは大切です。ビジネスについて軸ができ、ぶれなくなりますから。」
ミッションができること、できないこと
「でも中川先生は、大山君にはビジネスモデルが大切だと仰ったではないですか?矛盾していませんか?」
「それは、大山さんがミッションについて良く考えられていることを、知っていたからですよ。それで止めずに、ビジネスモデルまで進むようにと提案したんです。」
「なぜですか?先ほど中川先生も、ミッションができたらぶれることがないと言われたではないですか?ミッションで十分なのではないですか?」
「確かにミッションがあれば、ぶれることは少ないでしょうね。しかし、時間を短縮することはできません。起業で大切なのは、立ち上がり時にいかに素早く前に進み、実績をあげるかということなんです。」
「どういう意味ですか?」
ビジネスを素早く軌道に乗せる大切さ
「田中さんは何時頃、起業するおつもりですか?」
「もうすぐです。大山君も私も、ミッションを明確に定めることができたので、起業しようと考えるようになったのです。」
「そうですか?それでは、ビジネスモデルはまだお考えになっていないのですね?」
「ええ、考えていません。というか、ビジネスモデルというのは、事業が軌道に乗ったときに、自然にできものだと考えています。わざわざ考えるものでは、ないのではないでしょうか?」
「事業が軌道に乗るまで、どれくらいの時間がかかりそうですか?」
「かかりそう、というより、6ヶ月で軌道に乗せなければなりません。そうしなければ、資金が尽きてしまいますから。」
「田中さんはコンサルタントを目指しているのでしたね。軌道に乗るとは顧問契約が取れることだと考えて良いですか?今の調子で、開業して6ヶ月で顧問契約が取れるでしょうか?」
「無理ですか?」
「田中さんがコンサルタントを依頼する側だったらと、考えてみて下さい。顧問とは、自分の経営についてあれこれとアドバイスしてくれる人です。信頼感がなければ、なかなか契約できないでしょう。」
「そうですね。」
「そういう信頼感を持つために、何回くらい、会ってビジネスの話をする必要があると思いますか?」
「4、5回と言ったところでしょうか?」
「私もそれが妥当な回数だと思います。ちなみに、そのようにビジネスの話ができるようになる前に、何が必要になるでしょうか?」
「最初は出会うことが肝心ですね。私がクライアントなら、意中のコンサルタントが主宰するセミナーに出席すると思います。それも1回ではなく、2回、3回と出席してから会うことを考えると思います。」
顧客を誘導する経路:ビジネスモデル
「そうですね。では田中さん、あなたが異なるテーマで3回、セミナーができるのは、何時のことですか?」
「それは分かりませんね。3回目どころか、1回目、2回目のセミナーの企画も立っていません。」
「では、すぐにでも企画を立てた方が良いですね。そうしなければ、6ヶ月で軌道に乗せるという計画が実現できなくなります。」
「急いで企画を立てなければならないことは分かりますが、今すぐは無理です。」
「なぜですか?」
「自分のビジネスの全体像を描いていないからです。顧問契約が結べたら顧客に何を提供し、それでいかほどの料金を頂くかを予め決めておかなければなりません。そして、それにぴったりなお客様に来てもらうために、何についてのセミナーを行うかも考えなければなりません。信頼感を持ってもらうために3回のセミナーが必要なら、3回分を考えなければなりません。」
「じゃあ、是非、それを考えましょう。」
「ここまで言ってもらって、分かりましたよ。それがつまり、ビジネスモデルを考えることだと言うことですね。」
「そうなんです。ビジネスを実際に動かすためには、ほとんどの人にとって、ビジネスモデルを書くことが一番の方法です。それを書かないと、ほとんどの場合、ビジネスは止まったままになってしまいます。」
「ビジネスモデルが、顧客を私のビジネスに誘導する経路となる訳ですね。分かりました。ビジョンが決まったところで、次にビジネスモデルまで考えたいと思います。」
コラムドラッカーから起業を学ぶ
- 第1回 起業家が最初に考えなければならないこと
- 第2回 ビジネスモデルのブラッシュアップ
- 第3回 顧客との関係を築く
- 第4回 ビジネスパートナーとの関係も築いていく
- 第5回 ミッションとビジネスモデルの関係
- 第6回 なぜ計画を使うのか(前編)
- 第7回 なぜ計画を使うのか(後編)
- 第8回 ドラッカーが勧めたフィードバック
- 第9回 副業を考えた時
- 第10回 ビジネスモデルから体制作りへ
- 第11回 マーケティングを始点とする
- 第12回 競合がないのは良いことか
- 第13回 暗中模索で使うPDCAサイクル
- 第14回 5つの質問で詳細を固めていく
- 第15回 5つの質問から顧客にとっての価値を深掘りする
- 第16回 PDCAのサイクルを臨機応変に設定する
- 第17回 従業員を取り込んだ事業モデルを考える
- 第18回 社会を取り込んだ事業モデルを考える
- 第19回 誰からどのように資金調達するかを考える
- 第20回 マーケティングを始める
- 第21回 なぜドラッカーから学ぶのか
- 第22回 なぜドラッカーから学ぶのか(ユニークな体系)
- 第23回 オペレーションが先か、マーケティングが先か
- 第24回 顧客を創造する方法
- 第25回 イノベーションで顧客を創造する
- 第26回 恐怖によるマネジメントと方向合わせによるマネジメント
- 第27回 マネジメントの方法
- 第28回 人材育成というマネジメント
- 第29回 プロフェッショナルのネットワーク
- 第30回 状況を前提にした戦略を練る
- 第31回 苦労にではなく成果に注目する
- 第32回 マネジメントのシステム化
- 第33回 方向合わせマネジメントで自己管理目標の実現を支援する
プロフィール
StrateCutions (ストラテキューションズ)
落藤 伸夫
(StrateCutions代表)ドラッカー学会会員
中小企業診断士を目指していた平成9年にドラッカーに出会って以来、ドラッカーの著書をいつも座右の銘にしてきました。MBAを取得し、コンサルタントとして活動するにあたっても、企業人が考え行動する基本はドラッカーにあると感じています。ドラッカーの教えは、時には哲学的に思えることがありますが、企業が永らく繁榮するとともに、社会にある人々が幸福になることを目指していると思います。お客さま、社会、そして自分自身の「三方良し」の構図を作り上げることにより起業の成功を目指すドラッカーの知恵を、お楽しみ下さい!
<著書>
『ドラッカー「マネジメント」のメッセージを読みとる』