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日本企業の海外進出と子会社管理

第3回

海外進出時のリスク管理

朝日税理士法人  山中 一郎

 

海外進出におけるリスクをコントロールするためには、進出前にそのリスクを測定して、進出の是非を含めて判断することが重要です。具体的には以下のようなプロセスで、「進出する事業が現地に適合するか」、「海外進出のリスクを自社がコントロールできるのか」を事前に調査・検討します。 

ステージ1 海外進出の目的の明確化

ステージ2 進出する可能性のある国・地域の選択

ステージ3 進出形態の選択(子会社・MA・事業提携など)

ステージ4 海外進出に関する基本計画の立案

ステージ5 実行可能性調査(フィージビリスタディ)

ステージ6 基本計画の見直しと進出の決定

ステージ7 進出に関する事業計画とスケジュールの作成


ここでは海外進出する際のポイントを、ステージごとに考えてみましょう。

ステージ1 海外進出の目的の明確化

海外進出を行う際は、海外進出が本当に必要なのかどうかを検討して、必要と判断するのであればその目的を明確にすべきです。海外進出には多くのコストや時間が必要です。海外進出の目的を曖昧にしたままそれを行うと、進出の過程で何のために苦労しているのかが分からなくなり、結果として計画が頓挫する確率が高くなりますし、負担に見合った便益が海外進出によって得られているかどうかを判断することもできません。

目的設定時のポイントは、単なる文章では無くて、それを数値化して、より具体的に設定することです。例えば「安い人件費を利用して生産コストを下げたい」ということが目的であれば、「1品当たり何パーセントの生産コストを下げる」のかを明確にすべきです。最初にそれを明確にすると、後に進出の是非を決定する際に判断がしやすくなります。

ステージ2 進出する可能性のある国・地域の選択

日本企業は世界中の国に進出していますが、それぞれ言語・文化・風習はもちろん、外資規制や投資優遇策は大きく異なります。さらに一つの国の中でも地域によってそれが異なる場合もあります。ここで重要なことは、まず進出可能性のある国に実際に行ってみて、自らの目で簡単な実地調査を行うことです。その後進出候補先を絞るために国・地域の特徴の一覧表を作成して、情報を整理することも有効です。この後に行う実行可能性調査(フィージビリスタディ)は多くの時間とコストが発生します。この段階で進出する可能性のある国・地域をなるべく絞ることが重要です。

ステージ3 進出形態の選択(子会社・MA・事業提携等)

海外への進出形態である直接進出と間接進出については前回簡単に説明しましたが、進出形態の特徴をよく理解したうえで、進出目的と現状に照らして具体的な形態を決定する必要があります。

ステージ4 海外進出に関する基本計画の立案

これまでのことが終わったら、ここで海外進出に関する基本計画を立案することが有効です。まだどこの場所に進出するのかも決定していないため、この段階の計画は曖昧にならざるを得ません。ただ海外進出の負担に自社がどこまで耐えられるのか、海外進出の関与者の意見をまとめて共有するという意味でも、資金・損益の概算計画を作成します。

ステージ5 実行可能性調査(フィージビリスタディ)

次に日本及び進出を検討する国・地域ごとに、海外進出の実行可能性についての調査(フィージビリスタディ)を行います。フィージビリスタディの項目は、例えば以下の項目があります。

フィージビリスタディでは、多くの現地の情報を集める必要があるため、進出する企業のみで行うことは困難なことも多く、調査会社などと共に実行することが一般的です。ここでの調査に不備があると、進出する際のリスクに直結しますので、慎重に行ってください。

 ・政治の安定性、治安、経済情勢

 ・気候風土、文化の状況・政府の政策、方針と法律、各種規制

 ・進出支援制度

 ・市場の規模や成長性、競合先の調査、商流・販売ルート

 ・製品、技術、サービスの優位性

 ・産業集積と他の日系企業等の進出状況

 ・労働者、職位の資質、教育水準、給与水準

 ・原材料・資材の現地調達 ・交通、電気、水道、ガス、インターネットなどの

  インフラ・ビジネスパートナー

 ・ビジネスインフラ(設立手続き・会計・税制・金融など)

 ・撤退時の問題

 など

ステージ6 基本計画の見直しと進出の決定

フィージビリスタディの結果を踏まえて、どこの国・地域に進出するのかを最終的に決定します。またその際に、先に検討した進出に関する基本計画を再度見直します。

ステージ7 進出に関する事業計画とスケジュールの作成

進出に関する基本計画を前提にして、具体的な事業計画と進出のスケジュールを策定します。計画は単なる損益計画だけでなくて3~5年間の資金・人員・投資・販売・購買計画といった総合計画を策定することが有効です。これを行うことで「進出目的の達成までの道筋」や「儲かる仕組み」、「制約要因(ボトルネック)」を明らかにして、社内・社外の人々と共通の認識をもつことができます。さらに実績とそれを比較することで、進出の評価をする基準ともなります。

また進出スケジュールは、行うべき事項と実行する時間軸を明らかにするほか、担当者の責任と権限、コスト、現地でのコンサルティングなどを決定します。


以  上


 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数


Webサイト:朝日税理士法人

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