毎年6月に開かれる東京商工会議所の会員企業を対象とした高校との就職情報面接会=東京都江戸川区
来春に高校卒業見込みの学生の就職活動が、来月5日から本格化する。厚生労働省によると、今春卒業者の就職内定率は98.8%となり、1992年以来の高い水準だった。ただ、大学生の就職活動に比べ、高校生は就職協定でスケジュールが厳密に定められており、ある時期までは入社試験の“かけ持ち”ができないなど、個人の志望が反映されにくい。その結果、3年以内に離職する人の割合は全体の約4割に達するなど、問題点も浮き彫りになっている。
来月5日から本格化
高校生の就職活動は、企業の応募書類の受け付けが始まる9月5日から本格的にスタートする。高校生の場合、学業を優先するとの考えから、大学生よりも厳しい制約が課せられている。例えば、大学生は志望する会社全てに応募書類を提出できるが、高校生はある時期まで1社しか応募できない。東京都では、9月中は1社しか応募できないが、10月以降は2社応募できる。
とはいえ、ほとんどの企業では9月中に採用活動を事実上終えているため、志望する業種・企業への就職が難しいケースも多い。こうした応募制限は全国44都道府県で実施されている。
高校卒業後、都内の建設会社に就職した男性(20)は「1社しか受けられないため、落ちたときのことを考えると夜も眠れない日が続いた」と、自身の就職活動を振り返った。通っていた高校では、「残念ながら志望していた会社からの内定がもらえず、その後の就職活動を諦めた人もいる」という。
高校生の就職活動について、都内にある中堅スーパーの担当者は「大学生が何社も応募できるのに、高校生は1社しか応募できないのは、就職協定で決められていることとはいえ、不公平な気がする」と話す。
もう一つの問題点は、面接で質問できることが限られることだ。東京労働局が企業向けに配布している「新卒者募集のために」と題した冊子によると、「尊敬する人は誰か」「愛読書は何か」といった質問は、「就職差別につながる恐れがある」として、高校生の採用試験では聞いてはいけないこととしている。
ここ数年、毎年高卒者を数人採用している水道工事業、木村工業(東京都大田区)で採用を担当する森山勧取締役は「聞いてはいけないことが多すぎる。せめて自宅から何分で出社できるかは聞きたい」と、打ち明ける。
建設業や工事業は自治体などの要請により、災害復旧工事や除雪などの作業に急遽(きゅうきょ)対応しないといけないケースが多いため、「できるだけ会社の近くに住んでいる人の方がありがたい」(森山取締役)という。
また、大学生の採用試験では、会社が指定するエントリーシート(志望書)の提出が一般的だが、高卒見込み者の場合は「全国高等学校統一応募用紙」の使用が義務付けられている。森山取締役は「出席日数と欠席日数の欄を見て、どれだけ真面目に物事に取り組んでいるのかをみる」と話す。
高校の就職指導担当教員は、企業の面接を受けた生徒から質問の内容を事細かに聞く。もし、思想信条に関する質問がされた場合、高校からハローワーク(公共職業安定所)に通報されるケースもある。結果として、企業が「高校生の採用は面倒」と感じ、採用を敬遠する一因となっているようだ。
若年層の労働問題に詳しい慶応大商学部の樋口美雄教授は「高校生など未成年者の場合、大学生と違って社会観や労働観が十分に確立されているとはいえない」として、高卒見込み者と大卒見込み者との間で、採用活動に関する学校側と企業側との就職協定が異なるのはやむを得ないとの見方を示した。
一方、2011年春の高卒者で入社3年以内に39.6%が退職していることについて、樋口教授は「企業と高校生とのミスマッチが原因」と指摘。「企業にとっては『わが社はこういう人材が欲しい』、高校生にとっても『その会社で働くことでこんな人になりたい』と、お互いに面接で本音が言い合えるようにすべきだ」と訴える。その上で、面接で自由な質問ができるよう、協定の見直しが必要との認識を示す。
求人サイトも登場
ミスマッチ解消に向けての努力も進む。高校の夏休みを利用して、来春入社を志望する生徒を対象にしたインターンシップ(就業前研修)を開く中小企業が増えているのだ。
大卒見込み者が対象の中心だった求人情報サイトにも、高卒見込み者向けのサービスも始まっている。採用活動支援を手がけるジンジブ(東京都港区)は高卒求人情報サイト「JOBドラフト」を今月3日に立ち上げた。企業の求人票や会社情報、先輩社員や採用担当者のメッセージなどをスマートフォンやパソコンを通じて配信し、高校生には会社研究、高校には進路指導の参考にしてもらう。草場勇介社長は「高校生や学校、企業側がお互いを良く知ることができれば、ミスマッチは減らせるのでは」と話す。現在は関東1都3県の企業を紹介しているが、来年には全国に拡大する計画だ。
都内のある信用金庫の担当者は「これまで大卒者の採用が中心だったが、これからは高校生の採用にも前向きに考えたい」と話すなど、高卒者の採用に意欲を見せる企業は少なくない。
経団連の榊原定征会長は7月23日、長野県軽井沢町での経団連夏季セミナーで、日本の労働力不足を補うため、海外からの移民を受け入れるための制度作りが必要との考えを示した。だが、若年層雇用のミスマッチ解消に向け、努力すべき余地は残されているといえそうだ。(松村信仁)
「フジサンケイビジネスアイ」