株式会社トレジャーエージェンシー 代表取締役(助成金制度推進センター理事を兼務)    白石 健吾

「人を大切にする会社」にこそ、助成金をうまく活用してほしい

大企業ではよく利用されている助成金を活用できている中小企業はごくわずか。大半の中小企業は助成金をもらえる要件に当てはまっているにもかかわらず、申請すらしていない。セミナー等を通じた助成金制度の認知向上、助成金対象診断および申請サポートなどを手がける助成金制度推進センターの白石健吾理事に話を聞いた。

知っているようで知らない助成金の「本当の話」

――まず、助成金制度とはどういうもので、補助金とはどう違うのでしょうか?
これはよく聞かれる質問ですね。助成金は主に厚生労働省が管轄しています。正社員採用の促進や働き方改革といった、国が解決したい課題に対して2000種類以上の助成金制度が設けられており、その課題解決に取り組んだ事業者に対して「御礼」として給付されるお金が助成金です。
助成金の財源は税金ではなく、事業主が支払っている雇用保険料。個々の助成金制度に定められている要件に当てはまり、雇用保険に加入しているなどの条件(*)を満たしている事業者が申請を行うことで、助成金が給付されます。
(*)助成金を活用できる条件
法人:雇用保険と社会保険加入必須、6ヶ月以内に解雇者を出していない会社であること
個人事業主:雇用保険加入必須、6ヶ月以内に解雇者を出していない会社であること
個々の助成金制度に定められている要件やこれらの条件を満たし、所定の書類を提出すれば、100%給付されるのが助成金の決まり事ですね。給付された助成金は返済する必要がなく、そのまま会社の純利益になります。使途も自由です。
――助成金も補助金も、似たようなものだと思っていました
一方、補助金は主に経済産業省が所轄しており、企業が機械・設備などに支出した費用に対して、その一部を国が補助するものです。支出金額の一部しか補助されないので、たとえば100万円の機械を購入した場合、補助率が30%なら30万円しか給付されません。70万円が持ち出しになります。
また、補助金は採択制と言って、いわばコンテスト形式で他の申請者と事業計画などを競う仕組みになっています。ですからオンリーワンの事業計画を作り、国側に採択してもらわなければ補助金は給付されません。
しかも、助成金に関して世間でよく言われる情報には誤りが多く、1年間で1種類しか給付されないとか、年間で給付される金額に上限があるというのは間違いです。
――ほかによくある間違いには、どんなものがありますか?
雇用保険を財源とする助成金制度には、基本的に国庫負担、つまり税金の投入は原則的にありません。事業主が支払う雇用保険料が制度を支えており、そのかわり事業主には、助成金を活用できる権利が国から与えられているという流れになっています。
――そこが大事ですね
雇用保険料を毎年きちんと納付しているのであれば、毎年自社に当てはまる助成金を活用するのは当たり前だということです。助成金は、税金を使ったバラマキではありません。
――だから逆に、積極的に助成金を活用したほうがいいということですね
そうですね。

助成金は、小さな会社ほど有利な制度

助成金は、規模が大きく従業員数が多い会社ほど給付されやすいと思っている人も多いのですが、実は真逆です。国は今、少人数、小規模の事業者を資金面で支援することに重きを置いていることもあり、小さな会社のほうが助成金受給のハードルが低いのです。
「うちは助成金をもらうような規模の会社じゃないよ」とおっしゃる社長さんも多いのですが、「御社ぐらいの規模がベストなんですよ」とよくお話しています。
「今うちはスタッフが1人だけですが、そもそも助成金なんてもらえるのでしょうか」という、ネイルサロンを経営している個人事業主から質問をいただいたこともあります。
――従業員を雇用し、雇用保険料を支払い、6ヶ月以内に解雇者を出していない事業主であればいいわけですよね
はい。助成金の申請を行う際、補助金のように会社の決算書などを提出する必要もありません。

「人への投資」を充実させたい事業者にお勧めの助成金

――今、企業によく利用されている助成金にはどんなものがありますか?
たとえば従業員を採用し、6カ月間の研修期間(有期雇用)を経て正社員に転換し、給与を3%以上アップさせると、1人あたり57万円が受給されます(年度内最大20人まで申請可能/キャリアアップ助成金〈正社員化コース〉)。あとは社員定着ですね。
――社員定着についても助成金があるんですか
そうなんですよ。去年1年と今年1年で離職率を比べて、目標値を上回って離職率が低下した場合、57万円が助成されます(人材確保等支援助成金〈雇用管理制度助成コース〉)。
――人材の定着には多くの事業主が悩んでいます。人にまつわる身近な課題の解決をテーマに、助成金制度が作られているのですね
そうですね。助成金セミナーでも「皆さんは人材採用についてだけでも、数百万円に上る助成金受給の機会を逃しているかもしれません」とよく話しています。制度を知っているか知らないかで、大きな差が出てしまうのです。
【助成金の例】
・有期雇用で採用した従業員を、6カ月間の研修期間を経て正社員に転換し給与を3%以上アップさせる→1人あたり57万円
・65歳以上の有期雇用従業員を無期雇用に転換した場合→1人あたり48万円
・女性従業員が出産し、3カ月以上育休を取得した→1人あたり28.5万円
・女性従業員が出産したあと、職場に復帰し6カ月経過→1人あたり28.5万円
・男性従業員が、子どもが生まれてから8週間以内に始まる、連続5日以上の育児休業を取得した場合→20万円(1事業主1回限り)
――中小企業にお勧めの助成金はありますか?
あまり知られていないところでは、キャリアアップ助成金〈賞与・退職金制度導入コース〉というものがあり、有期雇用の従業員等に対して賞与・退職金制度を新たに設け、支給または積み立てを行った場合に38万円(中小企業の場合/大企業は28.5万円)が給付されます。
私自身、社労士の皆さんに助成金に関するレクチャーも行っていますが、この制度は社労士の先生もあまりご存じないと思います。
――助成金を専門にフォローしている人が身近にいるかいないかは、大きな違いですね
助成金は2000種類以上あり、制度が毎年度変わります。助成金のサポート業務を行っている社労士の先生は多く無いと言われています。助成金のサポート業務を行っている社労士の先生は5%程度と言われています。
――労働生産性の向上につながる機器や設備を導入する事業者も、助成金(上限100万円)の対象になるのですね
そうですね。たとえば飲食店で食器自動洗浄機を導入したり、コンビニやスーパーでセルフレジを導入する、病院で自動精算機を導入することで、作業時間が大幅に削減できるという場合などが、これに該当します。
ほかにも、軽トラックやユンボ、POSレジ、自動釣銭機、Web予約システム、テーブルオーダーシステム、RPA、高圧洗浄機、ドローン、タイヤチェンジャー、オイルチェンジャー、脱毛器、美顔痩身器など、さまざまな機器や設備が助成の対象になっています。
機器・設備の新規導入だけでなく更新も、新品だけでなく中古品も対象になります。2022年度は予算枠がなくなってしまいましたが、来年度また発表される可能性はあると思います。

難解な制度を読み解き、助成金の認知度を高め、活用をサポート

――日本全国で助成金セミナーに登壇されています。一年に何件ぐらい行われていますか?
コロナ禍で多少増減はありましたが、年間平均で約150回ですね。すべて、全国の商工会および商工会議所に加え、銀行や保険会社、業界団体などから講師依頼やセミナーの開催依頼をいただいているものです。
白石氏が代表取締役を務める トレジャーエージェンシーのWebサイト 。助成金コンサルティング、キャリアコンサルティング、セミナー講師などを手がける
――助成金制度の推進、普及に関わるようになったのはなぜですか?
私は福岡県出身で、地元選出の衆議院議員の秘書を務めていました。仕事柄、地元企業の経営者などから国の制度について問い合わせを受け、助成金や補助金を扱うことも数多くあったのです。
その後、独立を志した私は、これから何を強みにしていこうかと考えました。その頃、お付き合いをさせていただいていた経営者の皆さんと話をする中で、「決められた書類を出せば申請が通るのに、なぜ多くの方が助成金について知らないのだろう」と思うようになったのです。
経営者の皆さんからも、助成金コンサルティングを仕事にしてはどうかと勧められました。自分自身でも、政治の世界で助成金、補助金、給付金、支援金、交付金などのさまざまな制度を見てきた中で、助成金がもっとも企業にとってメリットが多いと感じていました。今、私が助成金の専門家になっているのは、そんな理由からです。

助成金対象診断(無料)も実施

――助成金に関心のある企業に、どんなアドバイスをしていますか?
たとえば助成金セミナーを聴き、「当社も要件を満たしていたら申請したい、でもどうしたらいいのかわからない」とおっしゃる方が数多くいます。そこで、セミナーの参加者に向けて、当日説明した制度も含めて、どんな助成金が皆さんの会社に当てはまっているかを診断する「助成金対象診断」を無料で実施しています。
ヒヤリングを行ったうえで、申請可能な助成金をご案内し、正式にご依頼をいただいたうえで、助成金の申請サポートを行っています。助成金制度推進センターでは、2014年のサービス開始以来、1万1418社(2022年10月末現在)に助成金支給サポートを実施しました。
よくあるのが、「助成金や補助金を始め、国の制度を使ったこともないし、まったく知らない。こういうことは誰に相談したらいいのかわからないので、白石さんにお話を聞いてもいいですか?」という中小企業からのお問い合わせです。
「では一度お話しましょう」と言って、Zoomなどでミーティングを行い、まず「よく利用される助成金制度にはこんなものがあります」ということをお伝えします。そのうえで、会社の社員数や人材採用の状況、人事関連の施策などについて質問していきます。専門スタッフがきちんと対応させていただきながら、助成金対象診断を行っていくわけです。
そうした中で、「健康診断の実施を就業規則などで規定し、4人以上に健康診断を実施しているのでキャリアアップ助成金〈健康診断制度コース〉の申請が可能です(2022年度は助成対象外)」。あるいは「育児休暇を取得した男性従業員がいるので、この助成金も対象になります」というように、自社が申請の要件を満たしている助成金が見つかってきます。
私自身の経験では、だいたい、1社につき2、3個は当てはまる助成金があると思います。
また、助成金制度は毎年、内容が変わります。助成金を今年度受給した会社でも、次年度に新設された助成金への申請要件に当てはまっているかもしれません。
――ということは、一度助成金を受給したら終わりではなく、定期的にチェックしていただいたほうがいいですね
はい。そこは保険会社さんも商工会さんなどもわかっていて、毎年度に2回必ず助成金セミナーを開催してくださっているところもあります。一度出席していただいた企業もリピートでセミナーに参加し、毎年度助成金を利用し続けているというケースも多いですね。

働きがいのある職場作りのためにこそ、助成金が活きる

――逆に、助成金に関して注意したほうがいいことはありますか?
一般に助成金セミナーでは、「こんな助成金があります」、「こうすればもらえます」ということばかりが強調されがちです。そこで私たちは、セミナーの参加者や助成金の申請サポートの利用者の皆さんに対して、お金の「出口」についてもきちんと説明しています。
それは、助成金を受給すると会計上は雑収入となり、課税対象になるということです。
申請が通り助成金を受給できた会社の社長さんたちは、みな喜んで下さいます。でも、受給した助成金をそのまま貯め込んでいると、来年度の税金の支払いが大変なことになります。そこで「受給した助成金は使い道が自由なので、社員さんやお取引さんのために、何か有効に使って下さい」と、私はセミナーで必ずお話しています。
――助成金を、従業員が働きやすい職場作りのために、前向きに活用していただきたいですね
そうですね。今年受給した助成金を、年末に全社員に均等に分配する会社もあります。コロナ禍以前は、受給した助成金すべてを社員旅行に使うと決めていて、それで初めて社員旅行で海外に行ったという会社もありました。
そうやって、よい形で社員さんにお金が還元されると、社員さんが喜び、定着率も向上するでしょう。会社が好きだという社員さんが増えると、よい人材も集まってくる。そんなプラスの効果に期待したいですね。
また私はセミナーで、そもそもこの助成金にはどんな意味があり、何のために国が実施しているのかということについても必ず説明しています。
「こんな助成金ももらえる」、「こうすればもらえる」という話は、事業主からすればぜひ聞きたい事柄かもしれません。でも制度の意義や目的をきちんと理解し、働きやすい職場作りに活かしていただかなければ、社員さんたちは「会社は助成金をもらって儲かっていいよね」と、会社との間に意識の溝ができてしまうでしょう。
「助成金とは、そんな制度ではありません」と、私はセミナーでよく話しています。
助成金はともすれば、社員さんからすると「会社が儲かる、社長が喜ぶだけの制度」と思われがちですが、個々の助成金の要件を見てみると、従業員が長く働ける環境づくりを支援したり、作業を効率化し従業員の負担を軽減するなどの内容になっていることがわかります。
つまり、「社長よし、従業員よし、会社よし」という制度になっているのです。さらに、助成金制度を通じて、人に関する企業のさまざまな課題を解決できれば、それは国にとっても非常によいことだと言えます。
――ほかに注意した方がいいことはありますか?
そうですね、コロナ禍への対策として、本来は大企業中心に利用されていた雇用調整助成金等の申請手続きが簡素化され、支給のハードルが下がり、不正受給のニュースが相次ぎました。そのため、助成金の活用に二の足を踏む事業主の方もいると思います。
ですが本来、助成金を専門にサポートしている私たちからすると、助成金の申請にあたり、会社の業績数字や社内の制度、施策などをよく見せようと意識する必要はまったくありません。個々の制度に定められている要件や、助成金を活用できる条件を満たし、所定の書類を提出すれば、当てはまっている助成金は100%もらえます。
本来、助成金の申請のために業績数字などをよく見せかけたり改竄しようとすること自体が、間違いなのです。
――大事なことは、助成金はバラマキではなく、雇用保険を財源として、企業の人に関する課題を解決するための制度だということですね
助成金といっても、もともとは、事業主が支払った雇用保険で成り立っているものですからね。
――そこはきちんと書いておいたほうがいいと思います。国からお金をもらうということに、後ろめたさを感じる人もいると思うので
そうなんです。助成金をもらうということに抵抗感を示す方もいて、お話ししてみると、会社経営で資金が苦しいから助成金をもらう、というイメージを持たれていることが多いのです。
繰り返しになりますが、国が実施したい課題解決に対し、企業が協力してくれたことへの御礼として給付されるのが助成金。経営が苦しい企業を助けるために助成金が支払われるということでは、けっしてありません。
――助成金に関して白石さんに相談したい、助成金セミナーを聴いてみたいという人はどうしたらいいですか?
助成金制度推進センターの運営企業の1つで、私が代表取締役を務めるトレジャーエージェンシーのWebサイトの問い合わせフォームからご連絡下さい。
また、Facebookの白石健吾のアカウント https://www.facebook.com/kengo.shiraishi からお問い合わせをいただいても結構です。
私は、助成金について皆さんに知っていただく機会を増やしていきたいと考えているので、無償で助成金セミナーの講師を務めています。
今は保険会社や証券会社、全国の商工会、商工会議所などから数多くの依頼をいただいていますが、イノベーションズアイの会員の皆様に対しても、ご要望があれば助成金の対象診断も含めて、無料でセミナーを行いますので、ぜひお声がけ下さい。

 

「取材・構成 ジャーナリスト 加賀谷貢樹」
白石 健吾(しらいし・けんご)
株式会社トレジャーエージェンシー 代表取締役
助成金制度推進センター(ユニプラス) 理事
キャリアコンサルタント 国家資格
として活動している。

現在は、生損保会社や保険代理店・商工会議所や各業界団体より「助成金のセミナー講師」として、日本一分かりやすいセミナー講師と呼び声高く、中小企業のお役に立つべく全国で活動している。

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