アクア会計事務所 代表公認会計士・税理士・認定上級IPOプロフェッショナル   伊藤 史哉

利益率と生産性の高い会社が、厳しい時代に飛躍的な成長を遂げる

税理士・会計士として、経理代行やIPO支援を主軸に、管理会計、財務戦略のほか、さまざまなコンサルティングサービスを手がけるアクア会計事務所。利益率と人の生産性の向上こそ、厳しい時代に飛躍的な成長を遂げる条件だと伊藤史哉代表は話す。伊藤代表に、成長志向の中小・ベンチャー企業がそれぞれの成長段階で克服すべき課題に加え、事業をスピーディーに拡大するための手段として最近ニーズが高まっているM&Aのリスクなどについて話を聞いた

企業の課題も強みも顕在化させたコロナ禍

――新型コロナウイルス感染症特別貸付を受けたあと、業績不振で返済の原資が滞り、倒産に至る企業が増えているというレポートもあります。コロナ禍を経て、ベンチャー・中小企業にどんな問題が生じていますか?
コロナ禍を経て、企業や人がそれぞれ抱えている課題が、より表面化しているように感じます。逆に、社会に貢献できる力を持っている企業や人は、より一層その存在が際立ち、貢献できるようになっています。つまり、勝ち組と負け組の二極化が進んでいます。
いわゆる「コロナ融資」の例でいえば、自社の財務体質や経営課題を把握して、それらと正面から向き合わず、甘い考えで融資を増加させた企業は、時間の経過とともに、財務状況がより悪化しています。なおかつ、負債の返済負担が増加したことで、末期的な症状に向かっているのだと思います。
――御社のクライアントの業績はいかがですか?
当社のお客様には、あまりダメージはないですね。コロナ禍の影響が直撃したお客様もいくつかありますけれども。
たとえば、ある雑貨卸売業のお客様は、海外から輸入した商品を国内の雑貨店に卸していましたが、インバウンド向けだったので完全に止まってしまいました。一方、同社では、日本国内で調達した雑貨類を海外の得意先や関連会社に卸していますが、もともとスリムな体質の経営を行っていたので、一時期業績がガクンと落ちましたが、今では輸出だけでもしっかり利益が出せるようになっています。
逆に、コロナ禍で急成長した会社もありますね。たとえばクライアントの医薬系バイオベンチャー企業は、新型コロナウイルス検査用試薬などの売れ行きが非常に好調で、業績を大きく伸ばしました。
製造業でも、自動車業界では一時期市場が全体的に低迷しました。同業他社が軒並み業績を大きく低下させる中で、ある自動車関連部材メーカーのお客様は、強みを活かして生き残っただけでなく、業界内での地位を大きく高めたのです。コロナ禍で、こういう会社の存在が際立つようになりました。
――強みを持っている会社の存在が、コロナ禍でさらに際立つようになったのですね
そうですね。よくない会社が業績を落とす一方で、逆にそのお客様は最高益を計上しています。製造業でですよ。本当にありがたいことですね。

非常事態にこそ力を発揮する高い収益力

――コロナ禍で働き方も大きく変わりましたね
当社は週に1回テレワークを実施しています。コロナ禍がきっかけですが、社員たちが生産性を上げ、メリハリをつけて仕事をしてもらうことが目的です。週に1回、あまり雑音のない状態で、自宅で集中して仕事をして下さいということです。
――自宅で集中力を維持し続けるのも大変なので、週1回ぐらいのペースがいいのかもしれません
そうですね。社内のコミュニケーションも、仕事に集中することも大事です。大企業はこのままテレワークに移行しそうな雰囲気もありますが、私はそれはどうなのかと思います。しっかり自己管理ができる人でなければ、楽なほう、楽なほうへと流れてしまい、かえって生産性が落ちるのではないですか。
ただでさえ、日本企業の生産性は低いので。また海外から見ると、日本企業の利益率は圧倒的に低いのです。売上はもちろん上げていかなければなりませんが、利益率を向上させることにこだわらないと、会社は強くならないのです。
――その部分が、今回の感染症で浮き彫りになったのでしょうね。御社との関連でいうと管理会計や原価計算をしっかり行い、スリムな経営を心がけることも鍵になるかもしれません
不況のときこそ力を発揮しますよね、利益率の高い会社は。
――こういう時代だからこそ、利益率をどう上げるかをしっかり考えていかなければいけない
まさにそうだと思います。今の社会において、企業では人の占める部分、いかに人が価値を生み出すかということの重要性が高まっています。機械を導入すればいいという時代ではもうなくなってきています。人の生産性は、どの業種でも大切ですね。

人の生産性の向上と「見える化」が利益率向上の鍵

――会社の利益率を向上させるうえで、大きなポイントになるのが人の生産性だということですね
やはり無視できないですよね。(人の生産性は)見えにくい部分でもあるので、いかにそれを高めていくかということですね。
――会計的な部分で、人の生産性を「見える化」する方法はありますか?
本来、原価計算は人の部分についてもきちんと行う必要があります。原価計算のやり方としては、個別原価計算と総合原価計算の2つがあります。
たとえば会社の中でも、プロジェクトによって仕事の中身は大きく違うので、個々(のプロジェクトごと)に原価を集計するのが個別原価計算。これはIT企業でも行われることがありますが、日報などを参考にして、あるプロジェクトにかけた作業時間を実際に集計するのです。
――作業工数をきちんと出して
はい。当社もそうです。お客様ごとにコードを振りわけて、今日はこのお客様のこの業務に何時間かけたということを、社員に記録させています。それをもとにして、お客様ごとに(原価を)集計し、お客様からいただいている売上に対して(どれだけ原価がかかっているかを見ていくのです)。
当社では社員個人について、この人は(このお客様に)1時間を費やしたら、いくらの売上を達成しなければならないというレートを決めています。そのレートに実際の作業時間をかけ合わせると、(1人の社員がそのお客様について)達成すべき売上が出ます。それを実際の売上から差し引けば、損益を計算することができます。
これが大きな赤字になっている部分に、まずメスを入れるのです。ヒヤリングを行って、どこに無駄があるのかを明らかにします。逆に、お客様に対する請求額が低すぎるケースもあるので、お客様と交渉することもあります。
総合原価計算は、同一の商品を大量生産方式で作り、売る場合に適した方法です。最近は、時代的にこのやり方が適している商品・サービスは少ないと思いますが、要するにもう少しざっくり計算するということです。
(個人別ではなく)部門全体で人件費を含めて原価を集計し、(お客様ごとに)トータルで損益を出したり、目標管理をするというやり方ですね。
――社員1人ひとりの行動が成果や利益にどれだけ結びついているかというところまで、ブレイクダウンして原価管理ができていないことが多いのではないですか?
そうですね。日本企業では仕事がわりと人任せというか、属人化しやすい傾向があります。マニュアル文化もあまり定着していないので、個人によってまったく生産性が異なるということが起こりがち。(だから人の生産性の部分について)メスを入れるべきところを見つけてメスを入れ、それを横展開していくことが望ましいですね。
――現実の数字をもとにして、どこをどうしたらいいかという話をすると、正しい結論にたどりつきやすいですよね。面談で精神論になると収拾がつかなくなると思います
いわれる側も納得しやすいですよね。そこが数字やデータ、会計のいいところです。

企業の成長段階や規模感によって異なる課題

経営ステージマップ(抜粋)
――今回作成していただいた「経営ステージマップ(抜粋)」=画像=をみると、企業の成長段階や規模感によって現状も課題も、目指す成長の方向も異なりますね
成長の段階によって課題も変わってくるので、小規模の企業に大企業がやっているようなことを強制しても意味がありません。人もそうですが、企業にもステップアップしていく道筋というものがあるので。
――成長志向のベンチャー、中小企業にとって大きな課題は何ですか?
1つは、社長への依存度を下げることが、かなり幅広く当てはまるテーマだと思います。最初は、社長が主体になって売上を上げたりしていくのは当然です。でも会社がある程度の規模、だいたい5億円ぐらいになってくると、社長1人で開拓し続けることが難しくなってきますよね。
その意味で、社長が動かなくても、社長の方針や戦略にしたがって市場を開拓したり、売上・利益を上げる、人を育てることができる組織を作ることが第一歩です。
別の切り口でいうと、最近M&Aが非常に増えています。昔とは違ってM&Aがフランクに語られることが多くなり、会社を買収するケースも売却するケースも多くなりました。
当社のお客様の中でも、会社の売却を考えている方が少なからずいらっしゃいます。最近は、会社を売却する経営者が若年化していて、50代もしくは40代の頃から、会社の将来の売却を考え始める人が増えています。
将来を考えることはいいと思いますが、気になるのは、なぜ「そろそろ会社を売ろうか」と考え始めたかという背景です。1つ共通して感じるのは、経営者がある意味で会社の成長に限界を感じているということです。
10年、20年、30年と会社をずっと経営してきた中で、ここまでは来ることができた。世間から見れば立派に成功しているとはいえ、本人にしてみれば、おそらくその先に行こうとしていたのに、うまくいかない。いろいろ深掘りしてみると、やはり人の問題が大きいのですね。経営者本人は自分の意志で先を目指しているのですが、それについてこれる人がいない。
――今まで会社を経営してきて、ここまでついてきてくれた人はいる。でも、この先に「新たにこんな展開をしていきたい」というビジョンについてきてくれる人がいない、ということですか?
そうですね。(さらなる成長を目指すことで)レベルが変わってくるわけですから。ある意味、社長と同じレベルで事業を大きくしていける人が必要です。簡単にいうと、大企業にいるような有能な人材ということになりますが、ベンチャー、中小企業にはそういう人がなかなかいません。
実際、多くの経営者に接する中で、「うちのような小さな会社にはそんな人材は来ないだろう。これ以上(の成長)は辛いだけだ」という気持ちを感じるのです。そこまではっきりいう人はほとんどいませんが、ここでつまずいている会社の、なんと多いことか。
それでも、大きな売上や利益を稼ぎ出している会社は少なからずあります。でもやはり、「この会社はこの先、これ以上成長できるのか」と考えた場合、ほとんどの問題を社長が解決している状況を変えていかなければ難しいと思うわけですね。
――「人を育てる」と普通にいいますが、日々オペレーションをしてくれる人材を育成するのと、経営者と同じ目線で、この先会社をどう発展させるかを考えることができる人材を育成することには、大きなレベルの差がありますよね
そうですね。そこを突き抜けた会社が、本来は上場などのレベルに上がっていくのです。その際、会社の規模を拡大したりブランド価値を向上させることで、外部からレベルの高い人材を巻き込み、その人たちの力を借りてステップアップしていくケースが多いですね。実際、会社のステージが変われば、人材も置き換わるというケースがよく見られます。
今までは小規模で、仲良しクラブ的で楽しかったのに、社長が「自分がこれから本当に目指したいものはこれだ」ということをはっきりさせると、「これから先、大変そうだな」という雰囲気になってしまうのです。
中小企業とはそういうものだと思います。そのように、社長や会社が殻を破ろうとすると、人もついてこなくなって入れ替わる。急成長した会社の過去をさかのぼってみると、そういう時期があるのです。
人を大事にすることはもちろん重要です。でも、そこにとらわれすぎると、今いる社員たちに合わせた会社のままになってしまいます。その意味で、今いる人に合わせて会社の仕組みを作るのか、自分が目指しているものに合わせて会社の仕組みを作り、そこに人を合わせていくのかという順序の問題があり、これが非常に難しいところだと思います。

目標や計画、評価も、会社のビジョンや目標につながっていなければ意味がない

 

私は、自分が目指しているものに合わせて会社の仕組みを作り、そこに人を合わせていくことが、企業の成長のうえで必要だと思います。会社の成長の段階に応じた目標や計画を設定し、現実とのギャップを埋めるため、管理会計を含めた仕組み作りが必要です。
計画を作り、達成するために日々のコントロールを行うものが管理会計。目標に対してどれだけ現状を近づけることができたかという軸で、人事評価も行われるべきです。なので、一番の主軸はやはり目標といえます。
社長に「これから会社をこう成長させたい」という目標があることが非常に重要で、それに合わせて現状を改善するための管理会計や人事評価を行っていくのが、あるべき姿だと私は思います。
人事評価制度を導入するにしても、それが自分の会社に合っているかどうかが大切で、目標につながっていないと意味がありません。社長が「これから会社をこう成長させたい」という目標に向かって人が育ってくれるかどうかが、非常に重要です。そういう軸がないと、会社の成長と社員1人ひとりの目標達成からくる満足感がうまく両立しません。
――目標数値を達成するだけでは駄目だということですね
売上・利益目標はわかりやすいですが、売上や利益という目標を達成するうえで解決すべき多くの課題があるはずです。先に話した生産性も然りですが、そこはきちんとブレイクダウンして課題を把握する必要があります。
目標自体をブレイクダウンしなければならないということです。たとえば営業担当者なら、これだけ売上を上げなければならないというだけの目標なら、単なる結果論に終わるかもしれません。それだけでは不十分で、たとえば売上を上げるためには何が必要かを、ブレイクダウンしなければいけないということになります。
営業なら、アポイントメントからクロージングまで、さまざまなプロセスがあります。それぞれのプロセスに対して、まず目標を設定するわけです。たとえば、クロージングの達成件数は引き合いの件数×成約率とブレイクダウンでき、クロージングの目標を達成するには、件数と成約率それぞれで目標を設定することが可能です。
それぞれのプロセスをブレイクダウンし、それを「見える化」すれば、どこのプロセスで目標が達成できていて、どこができていないから売上に結びついていないという話ができます。

会計データの分析から人の行動、利益率の向上につなぐ

――「見える化」することによって課題がわかり、どう行動するかという話に持っていけますね
そうですね。売上や利益はある意味で最終目標です。最終目標なので、一朝一夕には達成できないと思います。
売上という切り口のほかに、原価計算も大事です。売上を増やし、原価を低減させれば利益はさらに増えるので、売上と原価の両面から、利益率を向上させるための目標設定が必要になってきます。
結局は、自社のビジネスにおける重要なコストは何かということです。たとえば仕入れなら材料費や外注費、モノを扱っていれば物流費といった重要なコストをブレイクダウンし、それらを主に売上比率で見ながらコントロールしていくことが大切です。
――課題解決のため、会計数字をもとにして課題を「見える化」したあと、具体的に何をしていくかが重要ですね
はい、そうですね。最終的には目標設定や数字の分析で得たことを、人の行動に結びつけなければ何も変わらないので。
具体的な例を申し上げると、当社でも社員個人ごとに時間の使い方を見て、「ここに時間を使いすぎていると、下手をすれば自己満足になってしまうかもしれない。このように時間を使ってくれれば、お客様に対するサービスの品質が高まり、作業時間も減るから、生産性が向上する」と個人面談で指導しています。
――プロセスを顧みず「まず数字を上げろ」というやり方では、利益を出せる体質にはならない。不測の事態があっても生き残れるような、強靱な会社にはなれないということですね
受注を取ってくること自体はもちろん大事です。そもそも、売上が上がらなければ何も始まりません。ただ、それだけでは足りないのです。お客様のために価値をしっかり提供することと、生産性を向上させることにフォーカスし、その視点で無駄をなくし、必要なことに時間をかけてほしいと社員たちに伝えています。

社員の心と行動を束ねる軸とは何か

――厳しい時代になればなるほど、そういう手堅いアプローチが必要になるわけですね
そうですね。社員1人ひとりがどちらを向いて働いているか。私は会社の方針が重要だと思いますが、そこがバラバラで人任せだと、生き残れないですよね。
――1人ひとりの心と行動を束ねるために必要なことは何ですか?
そこがまさにポイントで、社長の方針や思いを共有するための手段が経営計画ということになります。当社では経営指針書という形にしていますが、経営理念や経営方針、目指す社風といった、無形ではあっても本当に重要な事柄を文章で定めています。
経営指針書には、経営理念を具現化するための戦略や方針、たとえばお客様に対してこういうサービスを提供していく、お客様とのこういう関係のもとに売上がある、という基本的な考え方を記しています。
当社の場合、1社のお客様に対して複層的にサービスを提供していることが特徴です。わかりやすくいえば、経理代行などのサービスを入口商品として、アップセルを行っているわけです。
「経理担当者が辞めてしまって困っている」などの明確なニーズがあるお客様に対して、まず経理代行をさせていただく。そこでまずしっかり仕事をし、お客様の業務の安定化に貢献する。そのうえでお客様に安心していただき、「ここに任せてよかった」と思っていただけるような信頼関係ができると、「次はこんなことをやりたい」というご相談をいただけるようになってきます。
そこからさまざまなコンサルティングサービスや、顧問税理士契約などにもつながっていく。それが当社の1つの戦略です。そういうことも、私は社員に伝えています。これがうちのスタイルなので。そういうことを目指すという内容の経営指針書にしています。
――理念のもとにどんな戦略なり方針があり、それによって何を実現していこうかというビジョンが、しっかり伝わっているかどうかが大切ですね
私も当社を大きく成長させたいと思っています。当社では東京都内にバーチャルオフィスを置いていますが、東京にも本格的に進出したいですね。となると、私の方針と思いを共有し、一緒に会社を大きくしていってくれる幹部社員を育てる必要があります。
そのためには、会社のブランド力を高め、優れた人材を引きつけられるような存在にならなければいけません。その一方で、先ほど申し上げた経営指針書に記した経営理念や経営方針、目指す社風を根付かせていくことも大切です。その二軸があって初めて、組織を大きく、本当に強くすることができると思うのです。
――ここから、今後の展開についての話につながりそうですね
はい。やはり東京のほうが、当社がターゲットにしている成長志向の高い企業が多いので。主戦場を東京に持って行きたいのです。
経理代行とIPO支援の2つを、事業の主軸にしていきたいと思います。あとは派生的な部分で、M&A支援にも力を入れていきます。M&Aは最近、事業をスピーディーに拡大するため、あるいは事業承継のための有効な手段として活用されることが多くなり、制度的にもかなり使いやすくなってきています。

M&Aの買い手側に立ち、売り手企業の価値やリスクを精査

 

当社では、お客様の成長を支援するという立場から、買い手側のお客様のために、売り手企業の価値やリスクを精査するデューデリジェンス業務を行っており、今年もすでにM&A案件を数件手がけています。
――M&A市場は今どうなっていますか?
今は間違いなく売り手市場です。仲介会社も売り手企業を一生懸命探していますし。市場が実際にそういう状況になっているので仕方がないのですが、私たちのお客様である買い手企業にとって、そのM&Aが本当に良い買い物かどうかということが大事です。
最近の傾向として、買い手にとってM&Aのリスクが高まっているので、私たちとしては、そのM&Aがお客様の成長に本当の意味で貢献するかという視点で、M&Aを支援していきたいですね。
私たちがお客様にアドバイスを行ううえで重視しているのは、簡単に買わないこと。実際に当社が関わった案件で、お客様が対象企業の買収をやめたケースがかなりあります。
――買い手のお客様の成長に貢献しないM&Aには、たとえばどんなケースがありますか?
大きく分けると2つあります。1つは、売り手企業の事業や組織に問題がある、なかでも事業の中身がよくないというケース。表面上は売上や利益がそこそこ上がっているように見えるのにです。
――キャッシュが回っていないとか?
それもありますが、たとえば、貸借対照表の資産の部に売掛金や棚卸資産(在庫)が計上され、損益計算書を見ても売上が表面上は出ているのですが、過去に計上された売掛金がまったく回収できていない。単純なケースだと、そういうこともあります。
もう1つは、単純に売値がかなり上昇しているということ。結局、何億円という大きなお金を払って会社を買うわけですから、投資を回収できなければ意味がない。なんとなくという感覚で価格を決めるのではいけません。現実的な一定期間のあいだに、シナジー効果も含めて投資額以上の利益を上げること必要があるのです。そういう視点で、M&Aを本当に行うかどうかを厳密に検討する必要があります。
企業価値の算出や評価に慣れている経営者はいいのですが、慣れていない方が多いので、そこはやはり専門知識を持つ私たちが補っていかないといけません。

お客様の「飛躍的な成長」を支援

 

いずれにしても、私たちの主たる事業目的は、税理士・公認会計士として中小・ベンチャー企業の飛躍的な事業成長を支援することにあります。そのための有効な手段としてIPO支援やM&Aデューデリジェンス、あるいは経理代行や管理会計を実施しています。
――お客様に飛躍的に成長してもらうために、ですね
当社では「社外CFO」というコンセプトを掲げ、活動させていただいています。CFO(最高財務責任者)は財務会計、管理会計、財務戦略という3つの役割を担っています。
大企業だけでなく、中小企業やベンチャー企業にも、そういう役割が必要で、それをあえて社外の第三者的な立場から、必要なときに提供していくのが「社外CFO」です。
最近、似たような言葉が他社でも使われていますが、「社外CFO」は、いい換えればお客様にとっての軍師・参謀。当社の社名のアクア(水)という言葉は、親密さや不可欠な存在を表す「水魚の交わり」という故事成語に由来します。
お客様との親密なお付き合いを通じて、お客様が飛躍的な成長を遂げるために不可欠な存在になることを目指しています。
「取材・構成 ジャーナリスト 加賀谷貢樹」
伊藤 史哉(いとう・ふみや)
代表公認会計士・税理士・認定上級IPOプロフェッショナル
1976年、神奈川県生まれ。
1999年3月、早稲田大学卒業。
1997年、公認会計士試験合格。
1998年、青山監査法人プライスウォーターハウスに入所。
2003年、監査法人トーマツに入所。中小・ベンチャー企業の上場準備支援部門に所属し、複数の企業のIPOに携わる。
2009年、中小・ベンチャー企業の事業成長を支援するという自身の社会貢献目標を達成するために独立。アクア会計事務所を設立し、代表公認会計士に就任。同年、税理士登録も行う。
2010年、顧客への経営サポートをより充実させる体制作りのため、コンサルティング会社のアクア・フェリクス(株)を設立し代表取締役に就任。
2012年、アクア会計事務所が関東経済産業局より経営革新等支援機関に認定される。
現在、上場企業や上場準備企業の社外取締役として、企業経営にも参画している。

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