弁護士法人 クレア法律事務所 代表弁護士   古田 利雄

コンプライアンスとガバナンスの強化がより求められる時代に

国内で新型コロナウイルスの感染者が発見されてから、約2年半が経つ。コロナ禍を経て、企業を取り巻く状況は大きく様変わりした。クレア法律事務所の古田利雄代表弁護士に、企業法務から見た社会の変化や、成長志向のベンチャー企業や中小企業が、コロナ後を見据え、法務面で取り組むべきことなどについて話を聞いた

コロナ禍で大きく様変わりした雇用契約のあり方

――最近、ベンチャー・中小企業からよく寄せられる、法務に関する相談事にはどんなものがありますか?
営業秘密の保護、個人情報保護法への対応、投資契約や業務委託契約書についての相談 それからストックオプションや新株の発行についての相談ですね。従来とあまり変わりはありません。
――コロナ禍をきっかけに、企業法務に関して大きく変わったことは何ですか?
たとえばIT企業では、在宅勤務率が90%を超えるようになったところがかなりあります。
これまでの一般的な雇用契約では、就業場所は使用者である会社の事務所や作業所であり、従業員は、会社が業務遂行のために用意した執務環境やパソコンを利用することが前提となっています。ところが従業員が在宅勤務をすれば、自宅にパソコンや通信環境が必要となり、従業員の自宅の通信費、電気代、光熱費なども増加します。
会社が就業規則を変更して従業員に在宅勤務をさせる際、在宅で使用するパソコンや通信環境を従業員の負担で整備させることは、会社と従業員との雇用契約を従業員に不利益に変更することになります。
そこで就業規則の変更や、在宅勤務のための福利厚生の一環として、デスクやパソコン、Webカメラなどの備品を現物支給したり、在宅勤務手当の給付などが行われています。このようなケアは法令遵守としてだけでなく、従業員のモチベーションを維持するためにも重要だと思います。

今ほど、企業と社会との関わりが問われている時はない

――Withコロナもしくはコロナ後の社会や市場を見据え、ベンチャー・中小企業はどんなことに目を向けたらいいのでしょうか?
在宅勤務の増加にともない、人々がSNSなどを通じてネットでつながる時間が増えました。また、コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻は、個人と社会の関係を大いに考えさせられる出来事でした。こうした中、さまざまな社会的課題や人権に対する人々の意識が高まったと思います。
そうした動きを踏まえ、企業は、自社の経営やブランディングにおいて、社会的課題や人権にどう対処し社会貢献を行っていくのかということを強く意識することが必要です。より社会性のある企業に変わっていくことが求められているといってもいいでしょう。
――成長志向のベンチャー企業は、法務面で今、どんなことに取り組んだらいいですか?
ベンチャー企業は一般的に、資金調達によって成長スピードを高める戦略を取りますから、資金調達に協力して下さったステークホルダーにエクジットの機会を与える必要があります。
エクジットを行うには、自社の株式を購入して下さる方に対して、自社の経営が健全であることを示さなければなりません。そのためベンチャー企業は、コンプライアンスとガバナンスに問題がないように運営していくことが不可欠です。
4半期ベースで黒字を達成する段階を越えたあとは、法律事務所などの専門家から、コンプライアンスやガバナンスについて日常的にアドバイスを受けることをお勧めします。
――今後手がけていきたいことは何ですか?
現在は、顧問先企業からの相談への対応がメインですが、将来的にはインキュベーションも合わせて行いたいと考えています。
――2021年11月に、葉山マリーナヨットクラブ(神奈川県三浦郡葉山町)で「クレアカップヨットレース」が開催されました。ヨットレースを主催されたきっかけや、思いを聞かせて下さい
私の趣味はヨットレースで、2006年以降はアジアで行われる国際レースにも参加するようになりました。
ところが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受け、多くのスポーツイベントが中止・延期に追い込まれました。それをきっかけに、改めてスポーツの持つ意義や価値を感じていたところです。
海は「自由」の象徴であり、ヨットは風力だけでどこにでも行くことができる、エコな乗り物です。また、ヨットの帆走技術は天候予測や海況、空気抵抗や水の抵抗などの科学的な知識に裏付けられたもの。ヨットはこうした科学的な知識とともに、チームワークの重要性を理解させてくれます。
今年9月11日に葉山マリーナ・ヨットクラブで、第11回「クレアカップヨットレース」が開催されます。当事務所のできる範囲で、ヨット競技の普及に貢献していきたいと思っています。
クレア法律事務所のホームページ
「取材・構成 ジャーナリスト 加賀谷貢樹」
古田 利雄(ふるた・としお)
代表弁護士。1991年弁護士登録。
ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。
法律専門家として複数の上場企業の社外役員も兼務。東京都出身。

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