一般社団法人社会デザイン協会 代表理事 鈴木 秀顕
100年先を見据えた地域づくりと「四方よし」の経済を担う人づくりに貢献

地域づくりや地域振興に関わるコンサルティングおよび調査、人材育成などを手がける社会デザイン協会が「ESDユニバーシティ」をスタートさせた。ESDとは「持続可能な開発のための教育」。同校では、地域課題の本質を理解したうえで、地域資源を活用し自ら行動することにより、地域の社会や生活を豊かにしていくリーダーを育成する。あわせて、地域リーダーの育成に欠かせない「あたらしい教育のカタチ」、その技術的基盤とる「ESDUデータドリブン教育」、SDGSの本質、同協会が提唱する「四方よし」の経営論などについて聞いていく
100年先を見据えた地域づくりに貢献できる人材を育成
- ――今、どんな活動を進めていますか?
- 日本では、人口減少・少子高齢化が進行し、地方から活力が失われる一方で、東京への一極集中が進んでいます。このいびつな状態を正常な状態にし、地方・地域を元気にするための国の施策が、一般財団法人移住・交流推進機構の「地域おこし協力隊」事業だと思います。
- 大学で経済学や地域づくりなどを教えていた私は、この事業がもっと盛り上がり、より成果を上げられるように、人材育成の面から支援したいと考えていました。
- そこで、地域を元気にできる人たちがもっと世に出て、地域の皆さんがお互いに協力し、お金に振り回されることなく豊かに暮らせる社会を生み出していくことを目的に、社会デザイン協会を設立しました。
- 「地域を元気にすることで、日本を元気にする。その地域を元気にする人を作る」ことが、私たちの理念です。
- ――地域づくりのうえで大切にしていることは何ですか?
- 大切なことは、100年続く地域づくりです。今取り組みが進められている地域づくりの多くは、5年先、あるいは10年先が限界で、その先が見えない状態で動いているような気がします。そういう中で登場してきたのが、SDGsです。
- 17の目標と160のターゲット、232の指標を掲げるSDGsは、2030年をゴールに設定していますが、とくに重要なポイントが「サスティナビリティ(持続可能性)」、「誰1人取り残さない」、「平和と安心」。この3つのキーワードを実現する地域づくりを行っていこうというのが、私たちが目指す「SDGs地域づくり」です。
- 具体的な活動内容としては、まず、地域を元気にするための知見を持っていることの証として、「地域社会デザイン士」の資格を発行しています。
- ●「地域社会デザイン士検定」案内ページhttps://sodesign.or.jp/?page_id=147
- また、その知見を学ぶためのカリキュラムとして、「SDGs社会デザイン学」の構築に加え、「SDGs社会デザイン学」を学ぶ場として、「ESD(*)ユニバーシティ」(後述)を開講しています。ESDユニバーシティは、地域づくりを担う人づくりを手がける性質上、地域活性化のための拠点も兼ねた場として構築を進めています。(*)ESD:持続可能な開発のための教育/Education for Sustainable Development
- ――「地域社会デザイン士」の資格を取得することには、どんな意義がありますか?
- 私が大学で教鞭を執っていた頃に「地域おこし協力隊」の事業がスタートし、当時教えていた女子学生が協力隊に採用されました。ところが彼女は、実際に活動を行う中で非常に苦労したというのです。
- 「地域おこし協力隊」は長くて3年間の時限採用になっていて、3年後には地域に根付いて事業を興し、定住することを目指す制度です。ところが大学でも、自分で事業を興すにはどうしたらいいかということは、ほとんど教えられていません。そのため、本人に何の知識も経験もないまま、何の縁もゆかりもない土地に放り出されるといったことが少なくないのです。
- 「地域を元気にしたい」という志ある人材が、訪れた地域の資源を活用し、自分で事業を興すことをきちんと支援できる制度になれば、「地域おこし協力隊」はより成果を上げることができるようになるでしょう。そこで、そういう志ある人材に「SDGs社会デザイン学」を学んでいただき、お互いに連携ができる場を設けたいと考えたことが、社会デザイン協会設立のきっかけでした。
- 事業の興し方はもちろん、地域の皆さんとのコミュニケーションの取り方といった、今の学校教育では教えられてこなかったことをしっかり学んでいただく。そのうえで、この資格を持っていれば、地域づくりの実務を担うための基礎知識は身についているというお墨付きを与えることができればと思い、作った資格です。これから本格的に展開していきます。
「ESDユニバーシティ」は、未来の地域リーダーを育てる人づくりの場
- ――こうした地域づくりを志す人たちの学びの場が、ESDユニバーシティなのですね
- そうです。ESDユニバーシティは、「SDGs未来リーダー育成スクール」という枕詞がある通り、本質的なサスティナブルを理解し、未来の地域リーダーを育成するための学び舎です。地域づくり拠点も兼ね備え、老若男女が誰でも集うことができ、地域課題や地域の未来を考えるための機能を備えたものにしています。
- 今、教えているカリキュラムは主にSDGs社会デザイン学で、AL(アクティブラーニング)とPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング/問題解決型学習)が中心です。
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「ESDユニバーシティ」のホームページ。今年4月または5月に第2期の開講が予定されている。オンラインでも聴講が可能https://esd.university/
- ESDユニバーシティがスタートしたのは去年の11月からで、実験的に今年1月まで、静岡県富士市およびオンラインで講義を行いました。4月か5月を目標に、講義を再スタートする予定です。リアルとオンラインで聴講できる形を取っており、今話題のネットの3D仮想空間「メタバース」でもESDユニバーシティに参加できるよう準備を進めています。
- もう1つの特徴は、座学とPBLとの組み合わせで提供されているカリキュラムがあることです。
- ――PBL(問題解決型学習)ではどんなテーマを扱うのですか?
- 実際に起こった地域課題をテーマにしています。たとえば人口が減少して近所に八百屋や魚屋などの商店がなくなり、遠くのショッピングモールまで行かなければ生活必需品が手に入らず、買い物難民が発生したとします。
- その地域では、今まで存在していた商店の価値が失われた状態にあるわけです。その価値を取り戻すには、これまで商店が担っていた価値提供を維持できる新たなビジネスモデルを見つけ、事業化しなければならないでしょう。
- 地域において、そのビジネスモデルとしてどんなものが考えられるのかを、地域および地域外の人々も含めて話し合い、地域に合った形で実現する。そのための知見と実践を共有するための学びを「産官学民連携地域づくり演習」として提供しています。
- ESDユニバーシティのもう1つの特徴は、誰でも先生になることができるという点です。大人であれば誰でも、何か1つは自分の得意分野を持っていると思います。そこで、皆さんが得意分野を教え合うようなゼミ形式の講義を増やしていきたいのです。先生とはいえ、ティーチ(teach)ではなくコーチング、ファシリテーションの形でゼミを薦めていくことが理想です。
- 今年の4月か5月にESDユニバーシティの講義を再スタートする際、新たに名古屋にも拠点を設けて講義を行いたいと考えています。実は今、名古屋校の校長として就任を打診しているのが、大学1年生です。彼は名古屋市から補助金を取得してSDGs活動も行っており、さらに活動の幅を広げてほしいと思っています。
- ――若い世代は社会貢献意識が高く、自ら積極的に動いている人が数多くいますね
- そうですね。今は、大人である私たちのほうからお願いしている格好ではありますが、志のある若い人たちが自主的に活動できる環境を提供したい。そういう思いで設立したのが、ESDユニバーシティということになります。
地域の活性化の拠点を目指す「ESDユニバーシティ」
メタバース内のESDユニバーシティの教室
- ――昨年11月から今年1月まで行われた講義には、どんな人が参加されたのですか?
- たとえば今も一緒に動いて下さっていますが、中小企業向けの支援機関のコーディネーターや、DJを行いながらボランティア活動として小学生の教育に携わっている方もいます。地元企業の経営者や、新規事業開発担当者の皆さんが、中心となって参加して下さっていますね。
- というのも、人材不足による地元企業の黒字倒産が、地域の大きな課題になってきているからです。そこで、後継者が見つからないという企業に対しては、長期のインターンシップとして人材を提供する機能も設けていきます。
- 逆に、後継者候補や地域づくりの担い手を社内から輩出したいという地元企業から人材を受け入れ、経営学や地域振興などについて学んでいただくこともできます。
- 社員の皆さんが常に学び続ける仕組みを整えなければ、世の中の変化に間に合いません。地元企業が志し高い社員を逃さないために、教育の機会を提供することも1つの社会貢献だと考え、人材の受け入れも行っていきます。
- ――ESDユニバーシティが地域活性化の拠点になるという話がありました
- そうです。私自身も、ここ20年ほど地域づくりに関わってきました。そこで気付いたのですが、地域づくりや地域活性化のために人を集めても、年月が経つうちにコミュニティがバラバラになってしまったり、メンバーが高齢化し活動が停滞してしまうことが少なくないのです。そういう中で、ある大学の先生と話していて、コミュニティを作るのはもちろん大切ですが、もう1つ、地域づくりのしっかりした拠点が必要だという話になりました。
- 人の集まりを作っていくうえで、人々が気軽に立ち寄れる場所が必要です。地域づくりなら、興味を持った人がコミュニティに参加するきっかけとして、「ちょっと学びに行ってみよう」と足を運べる拠点がESDユニバーシティ。もう1つ、ESDユニバーシティに閉架型の図書館機能(コミュニティ図書館)を用意しようと考えています。
- せっかく本を置くのですから、メンバーの皆さんがそれらの本を読みながらワイワイガヤガヤ話をする場にしたいと思います。本を読んだ感想を述べたり、ときには地元食材を使用したスイーツでお茶をしながらディスカッションすることが大きな学びになるからです。
- 今、私が親しくしている大学の先生たちに、退官後に本をESDユニバーシティの拠点に提供していただきたいとお願いしているところです。また、先生たちに、ESDユニバーシティの拠点に足を運んでもらい、メンバーと一緒に話をしていただきたいとお願いしています。そうなれば、メンバーが先生たちと話しながら学ぶことを通じて、地域により多くの知見が蓄積されていくでしょう。
ITも駆使し、問題解決型人材を育む「あたらしい教育のカタチ」を提案
- ――「あたらしい教育のカタチ」の提案を通じて、目指すものは何ですか?
- 少し堅い言葉でいうと、自己肯定感の高い地域の人々、日本人を育てていこうということです。
- ――自己肯定感とは最近、教育分野でよく話題に上る言葉です
- そうですね。社会デザイン協会は、日本のさまざまな問題を解決するために活動していますが、私は自己肯定感の低い学生が多いことが、日本の大きな問題点の1つだと考えています。
- 仮に偏差値が低くても、何かスポーツなどで得意分野があって、そこで上に行ければ本人の自己肯定感は向上するでしょう。でも「自分の学力ではこの大学にしか入れない、だからここに来ました」という形になると、自己肯定感はますます低下してしまいます。
- その原因は、基本的に今の入試制度では、テスト一発で合否が決まることにあります。これが公平な制度だという話もありますが、今の入試は、ほぼ暗記力と問題を解くテクニックにたけた子どもたちが高い点数を取るような仕組みになっていて、本人が本質的な学習の内容を理解しているかどうかは、よくわからない状況にあります。
- そのため、今の学校で進められている勉強のスタイルや状況を変えていかなければならないと考え、提唱しているのが「あたらしい教育のカタチ」です。
- ――具体的にどう教育を変えていくのですか?
- テストの点数による評価をしない学校をつくりたいと思っています。
- となると、子どもたちはどんなことが得意なのか、どういうことに興味があるのかを探り、きちんと把握するための施策が必要です。
- じつは、私が博士の学位を取得したテーマが電子書籍です。そこで電子教科書を使い、スマートフォンやタブレット端末、パソコンでもいいのですが、カメラから得られる情報を活用し、子どもたちの学習の理解度を測定するための研究開発を行っています。
- 顔の表面温度を測定したり、顔の傾きなどのデータをもとに、子どもたち1人ひとりが学習をきちんと理解しているかどうかを分析するのです。
- あとはもう1つ、地域づくりを担う人材の教育についても、いわゆる観察学習(モデルとなる人の行動を観察することで起きる学習のこと)の態度などを数値化していきます。
- ――それは非常に重要だと思います。たとえばアクティブ・ラーニングに対する学生の参画意識や、指導者である教員の「やらされ感」が問題になっています
- そうですね。さまざまなデータを組み合わせることで、1人ひとりの学習の傾向を分析し、個人に最適化された教育方法を提供していくことを「ESDUデータドリブン教育」といい、これが「あたらしい教育のカタチ」を支える技術ということになります。
- ――「あたらしい教育のカタチ」は、地域づくりや社会課題の解決の担い手になる人材を育てることに、大きくつながるのではないですか?
- はい、その通りです。結局は全部がそこにつながっています。私は基本的に日本が好きなので、日本にもっとよくなってほしいという思いが根本にあります。ところが、地球環境をこれからどうしていくのかということについて、日本人は少し疎いような気がします。いわゆるグローバルマーケットも視野に入れ、自分たちの足元をどう固めていくのかを考えることができる人たちが増えてくれば、日本はもっと頑張れると思いますね。
「SDGsスクール・プロジェクト」を推進
- ――「SDGsスクール・プロジェクト」とはどんな試みですか?
- これは、地域づくりを担う人材育成のために当協会が推進しているプロジェクトで、ESDユニバーシティと「あたらしい教育のカタチ」、ESDUデータドリブン教育を組み合わせたプロジェクトになっています。
- ESDユニバーシティは、地域の人が地域のことを考えるために集まることができる場であり、「あたらしい教育のカタチ」は地域イノベーションを生み出すカリキュラム。ESDUデータドリブン教育は、個人の学習行動の傾向から導き出される個別最適化された教育を実現する手法です。これら3つを組み合わせて実行していくことで、楽しい仕事と「ありがとう」があふれる自立した地域社会を創生する「SDGsDX地域づくり」を推進することを目指しています。
- ――SDGsが、1つの大きな切り口になっていますね
- 先に述べた「サスティナビリティ」、「誰1人取り残さない」、「平和で安心」の3つのキーワードの実現を各地域が目指す中で、アメリカやヨーロッパ、中国と比べてどうかではなく、自分たちが楽しく心に余裕を持った人生を過ごせる社会を築くことができると思うのです。
- 私が参考にしたいのは江戸時代後期頃の日本。あの頃は、経済的には貧しかったかもしれませんが、文化的には非常に豊かでした。当時の庶民たちの多くは、お金儲けのために働いていません。たとえば午前中は生計を立てるために働き、午後からはボランティア活動をする。そして夕方4時ぐらいからお酒を飲み始めるわけです。
- お金に縛られず、そういう人間らしい生活を送れる社会のほうが、よほど楽しく素晴らしいと思います。しかも、そういう生活の中から、和歌にしろ歌舞伎にしろ、豊かな文化が生まれたことも、日本の良さなのです。
- ――地域デザイン士研修のカリキュラムの中に、江戸時代の日本社会についての講義もありますね
- そうなんです。江戸時代の話をすると、「なぜあんな暗黒の時代に戻るのか」という人もいます。でも、よく調べると、GDP(国民総生産)という概念から見て儲かってはいなくても、当時の人たちはまったく平気で、本当にのんびりと楽しく生活していたのです。
- 人間の活動が地球環境に大きな影響を与えた、20世紀以降を新たな地質時代として考える「人新世(じんしんせい/アントロポセン)」の経済学という概念も提唱されています。
- だから、江戸時代の現代版のような社会が、21世紀の現在にできてくれば、とても楽しい世の中になるでしょう。それこそが、世界中の人々が憧れる社会の形だと思うのです。そういう人本位の社会というものを、きちんとつくっていくべきだというのが、私の考え方です。
SDGsを「どう取り入れるか」より「なぜやるのか」が大事
- ――最近では、単に自社の事業にSDGsを取り入れるだけでなく、事業そのものをSDGsの考え方に立脚させようという動きも見られます
- その意味でいうと、「自社のこの取り組みは、SDGsの何番の目標に相当しています」というアピールがよく見られます。でも、それはSDGsの本質的な部分ではありません。自社の取り組みを通じて「サスティナビリティ」、「誰1人取り残さない」、「平和で安心」という3つのキーワードを実現するにはどうしたらいいかを、経営者はよく考えていかなければならないのです。
- たとえば、家庭の生ゴミを回収して堆肥を作り、それで野菜を育て、イベント会場で料理をお客様に配ったとします。でもその料理が紙皿に載っていたとすれば、リサイクルの意味がなくなります。紙の製造や廃棄にともなう原材料の消費やエネルギー消費、CO2などの排出といった環境負荷を忘れているからです。
- SDGsの17の目標にしても、1個1個をバラバラに取り上げるのは問題です。それぞれの目標がお互いに関連し合っている部分をよく考えながら、自社のSDGs活動に落とし込んでいかなければ、間違った形になってしまいます。
- こういうSDGsの本質をきちんと理解する人材を必要としている企業には、ぜひESDユニバーシティに自社の社員を送り出していただきたいと思います。
- ――そういう、SDGsの各目標の相互関連を含む本質的な部分を教えているのが、ESDユニバーシティだということですね
- そうですね。先ほど紙の製造や廃棄にともなう環境負荷について触れましたが、原材料の段階から環境問題を考えている人が少ないので、「三方よし」に「地球よし」という言葉を加えた「四方よし」を、私は提唱しているのです。
- ――「売り手よし、買い手よし、世間よし、地球よし」の経営ですね
- 原材料は地球から与えられているもので、無限ではありません。有限な資源の中から人間に与えられているのです。だから、私たちは常に「地球に生かされている」ことを念頭に置き、物事を考えなければいけません。
- 地球から与えられているものを活用し、今の私たちの生活が成り立っているのです。その有限な資源をどんどん使えば、いずれなくなってしまいます。そうならないためにはどうしたらいいのかということを真剣に考え、行動すべき転換期に来ているのだと思います。
- その転換期の中で、自分たちが生活していくのに何が必要かという意味で、ESDユニバーシティのカリキュラムに今後必ず入れていこうとしているのが、農業教育(開講準備中)です。
- そもそも人が生きていくために、自分の足元を固めるうえで大切なものが「い・しょく・じゅう」だと私は思います。「い」は「衣」ではなく「医」、「しょく」は「食」と「職」、「じゅう」は「住」ですね。まずこれらの生活に必須な事柄をしっかり確立し、足元を固めれば、知識や文化、遊びといった、より上位の部分も充実し、心の余裕が持てる楽しい社会が実現すると私は考えています。
- 日本の2020年における農業従事者(基幹的農業従事者)の平均年齢は67.8歳に達しています。今、若い世代の新規就農者などが一生懸命頑張っていますが、現在のペースでは、農業生産は消費にとても追いつかないと思います。このままでいくと、国内では今後、今よりもっと農作物が作られなくなっていくでしょう。海外からお金で農産物を買って輸入してくればいい、という発想でいく限り、いずれ日本の食費が高騰し、生活が厳しくなることは避けられなくなります。
- そうした中で、せめて自分の生活に必要なぶんの農作物は、自分で作れるぐらいの知識を持っていただきたいと考え、ESDユニバーシティでは農業教育に取り組んでいきます。
- ――地域おこしは、地域の情報をどう発信するかということに目が行き、自分たちの足元を固めることがおろそかになっているような気がします
- 2020年における日本のカロリーベースの食料自給率は37%で、3年連続で40%を下回っています。生産額ベースの食料自給率は70%近くあるという主張もありますが、はたしてそれでいいのかと思いますね。
- ――金額ベースで何%かではなく、食料の需給が実態としてどれだけアンバランスかということのほうが大事だと思います
- 経済とは、ごく簡単にいえば、お金を回すことです。ただ、お金を回しているだけでは人は生きていけません。お金を回しながら、自分が生活するために食べ物を得たり、快適に生活できる住まいを得るなどの営みが重要なのです。それを忘れてお金、お金といっていても意味はありません。私が「お金に振り回されない地域づくりをしましょう」と呼びかけているのは、そのためです。
これから社会に必要とされる「四方よし」の経営を支える人づくりのために
- ――今後イノベーションズアイの会員を含めて、企業の皆さんとどう連携し、どんな活動を進めていきたいと考えていますか?
- 今回のコロナ禍に加え、将来予測が難しい「VUCA(*)」時代といわれる今だからこそ、地球環境も視野に入れた人本位の経済社会づくりが重要になってきているといえるでしょう。(*)ブーカ/Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧さ)
- そこで大切になるのは、私たち1人ひとりが自分の価値を理解し、企業が社会における自社の存在意義をきちんと認識することです。最近、「パーパス(目的、存在意義)経営」という言葉をよく見かけるようになりましたが、自社が認識すべき存在意義として、地球環境も視野に入れた価値(経済学でいう「財」)を理解し、それを提供するための活動が求められています。
- ところが今まで、経済活動や社会活動において、地球環境も視野に入れた価値(財)が注目されたり、ましてや地球環境という大きな枠組みの中で、経済活動や社会活動を考える教育を、私たちは受けてきませんでした。
- この問題を解消するには、真のサスティナビリティを理解し、行動できる人材を再生産することが不可欠です。極論すれば、これができなければ人類は消滅していくのではないかという危機感さえ、私は抱いています。
- たとえば石油の枯渇の問題にしても、石油がなくなってから、どうしようかと考えることが普通なのかもしれません。ところがリスクマネジメントの観点からいえば、前もって対策を考える、あるいはもっとさかのぼり、なくならないようにするにはどうしたらいいのかを考えていこうというのが、私の発想です。
- となると、地球規模で生産と消費のバランスをきちんと考えていくうえで、「地球よし」という発想は不可欠です。地球から与えられている資源が枯渇しつつある。だとすれば、今までに作り上げられてきたビジネスモデルがガラリと変わっていくはずです。
- ビジネスモデルがガラリと変わったときに、どういう行動を起こすのか。変わったときに行動を起こしても手遅れなので、その前に対策を考えておく必要があるわけです。とくに、今の若い世代は持続可能性やサスティナビリティといった考え方に敏感なので、いわゆる「エシカル消費」も含めて、消費行動も大きく変わってくるでしょう。こうした将来のマーケットの変化も踏まえたところで経営を考えなければならない段階に来ています。その意味で、これからの経営には「地球よし」という考え方が欠かせません。
- ――企業が中長期的な視点で経営を考えるうえでも、学びになると思います
- ありがとうございます。今後、当協会に登録しているインターンシップ生や、ESDユニバーシティなどで学んでいる学生をインターンとしてご紹介することもできるようになります。またSDGsの本質を理解し、地域づくりや新たなビジネスの構築を担う人材を一緒に育てたいという企業さんから、ご寄付の形で奨学金も受け入れています。
- 当協会の活動の趣旨に賛同し、協力して下さる個人や企業の輪を広げていくためのサポートも、非常にありがたいところです。さまざまな形で、日本経済の再興の担い手になりたいという志ある個人や企業の輪を広げる活動をしていきたいと思います。
- ――クラウドファンディングも実施するそうですね
クラウドファンディングサイト「READYFOR」で2022年3月22日10時より募集開始予定
- はい。私たちは今、「あたらしい教育のカタチ」を実現するための技術およびシステムの開発費用を支援していただける方を探しています。
- 実際、「あたらしい教育のカタチ」についてお話をさせていただく中で、多くの方から賛同をいただいています。ところが「こういうことを今まで考えたことがなかった」という方がほとんどなのです。教育改革が叫ばれて久しいですが、現状の教育の枝葉の部分を少しずつ変えるのではなく、根本から変えなければならない段階に入っています。その点を、より多くの方に理解していただけるような活動をしていかなければなりません。
- そこで、「あたらしい教育のカタチ」のPRも兼ねて、クラウドファンディングを行う予定です。今年3月22日10時の実施に向けて準備をしているところですので、ご協力いただけましたら幸いです。https://readyfor.jp/projects/esdu/
- 「取材・構成 ジャーナリスト 加賀谷貢樹」
代表理事
栃木県出身。財閥系商社・外資系IT企業など会社員、会社社長を経て教員へ。会社員時は営業マンとして全国1位を獲得。会社社長時はVCから投資を得るビジネスモデルを開発。
研究活動として、東北大学大学院経済学研究科現代応用経済科学専攻博士課程前期修了(東北大学・経営学修士)。東北大学大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻博士課程後期退学。岩手県立大学大学院ソフトウェア情報学科ソフトウェア情報学専攻博士課程単位取得退学。ソフトウェア情報学博士取得(岩手県立大学・ソフトウェア情報学博士)。GRIサスティナビリティレポート研修修了(GRI)。
現在、社会デザイン協会代表理事、秋田地球熱利用事業ネットワーク副理事長、わらび座支援協議会理事など。
主要研究テーマは、デジタルコンテンツや地域づくりの事業モデルやプロジェクトマネジメント。
学会等の活動として、日本感性工学会評議員、もったいない学会理事など。
フィールドワークとして、(地域リーダー育成スクール)ESDユニバーシティを各地に展開中。