アクア会計事務所 代表公認会計士・税理士・認定上級IPOプロフェッショナル 伊藤史哉氏
顧客企業の「社外CFO」として、財務・経営を全力でサポート

- 社名の「アクア」の由来を教えて下さい。
- アクアとは文字通り水ですが、中国の『三国志』で有名な「水魚の交わり」が出典。劉備が諸葛孔明を軍師に迎えた時、「私に孔明があるのは魚が水を得たようなものだ」と話したと言われています。 魚を君主、軍師・参謀を水にたとえているわけですが、劉備にとって軍師の孔明は必要不可欠な存在であり、彼がいることで劉備は夢や自分の目指すものに大きく近づくことができるというのです。 私はサラリーマン時代から中小・ベンチャー企業を支援してきましたが、お客様を魚、私たちを水に見立てて、当社が軍師・参謀役を務めることで、お客様が自らありたいと願う姿に近づいていただきたいという思いでこの社名をつけました。 当社のロゴマークは魚に見えますが、これを縦にすると水にも見えます。つまり魚と水の両方を表しており、魚が水を得ることで無限大の可能性を秘めた関係になるという意味が含まれています。
- 「社外CFO(最高財務責任者)の第一人者になる」というビジョンを掲げています。
- 私たちは財務と経営の領域で事業を行っており、「社外CFO」という立ち位置で、顧客企業がCEO(最高経営責任者)の目指すものに二人三脚で近づいていきたいと考えています。 会社が成長していくにあたり重要なのはCEOのビジョンや思い、強みなどですが、それに加えて、CFOの機能が不可欠だと私は思います。 CFOの機能は大きく分けて3つあります。1つが財務会計で、もう1つが管理会計、3つ目が財務戦略で、これらは会社の成長にいずれも欠かせないものです。 1つ目の財務会計は会社の財務情報を対外的に、タイムリーかつ正しく伝達する情報開示の手段。上場会社と非上場会社で内容が大きく変わります。 2つ目の管理会計は、自社の日々、月々、毎年の売上や利益をいかに向上させ、キャッシュをいかに管理していくかという、社内のマネジメントのための会計です。 3つ目の財務戦略は、会社の未来を切り拓くためのもの。経営計画で定めた目標を実現するために必要な道筋や、資金調達などを含めた財務面での戦略を形作っていく役割を果たします。 大まかに言えば、財務会計は過去の情報をどう開示し、管理会計は現在の日々の業務をいかにマネジメントし、財務戦略は自社の将来をいかに作っていくかという意味で重要で、会社が飛躍的に成長するためにはいずれも必要な機能。それらの役割を一手に引き受けているのがCEOということになります。 ところが、自社にそれだけの能力を兼ね備えた人材がなかなかいないのが、中小・ベンチャー企業の現実です。そこで私たちは社外の立場で、それぞれ得意分野を持つメンバーを集めて「社外CFOチーム」を組み、顧客企業の成長を強力に支援する体制を整えています。
- 経理業務のアウトソーシングのニーズが増えています。
- 当社のサービスは大まかに、税務会計業務のアウトソーシングとコンサルティングに分かれます。 アウトソーシングのメインの1つが経理代行サービス。請求書の発行から支払処理、給与計算、資金繰り表の作成まですべてを代行し、経理担当者が社内にいなくても会社が回るというコンセプトでサービスを構築しています。 経営者側としては、経理担当者が会社を辞めてしまったというような切羽詰まった状況でアウトソーシングに踏み切るケースも少なくありません。 経理代行サービスは欧米では昔から当たり前に行われていますが、日本では文化的になかなか受け入れられてこなかった領域。そのメリットが、日本でもようやく認知され始めてきたということだと思います。 また経理業務を社外にアウトソーシングすることで、業務のブラックボックス化を防ぎ、不正行為の防止にも役立ちます。 中小・ベンチャー企業により本業に集中していただくためにも、経理業務のアウトソーシングは有効だと思います。
- IPO(新規株式公開)コンサルティングに力を入れています。
- 当社は財務、経営領域でコンサルティングを行っていますが、代表的なものがIPO支援です。 まだ組織として上場会社たる要件を備え切れていない企業の中身を、上場企業のレベルに高めていくことを上場準備と言います。何年に上場するという目標に向けて上場準備を行い、上場審査をパスして上場を実現するための支援をするのがIPOコンサルティングです。 最近はIPOの審査が厳しくなっており、以前に比べて上場のハードルが上がっています。 株式上場にあたり、監査法人がショートレビュー(短期調査)を実施する前にプレショートレビューを行ってほしいというご要望もあります。 監査法人でも証券会社でもない第三者的な立場でレビューを行っていますが、視点は監査法人とまったく同じ。監査法人が入ったら、こんな視点で御社の現状をこう見るでしょう、とレビューさせていただいています。 具体的には、会社の現状はこうで上場審査にパスする状態がこう。したがって、たとえば経理部門ではこれが不足していて、人事部門ではここが不十分だということを調査で明らかにし、3年後に上場審査をパスするあために、会社として3年でどんなことに取り組まなければならないのかをアドバイスしています。 私が大学卒業後に最初に入った青山監査法人プライスウォーターハウスでは、大手企業の監査を中心に担当し、組織はこのように作るものだということを勉強させていただきました。 そうしたなかで、たまたまIPOという仕事を知り、IPOなら株式公開という目標に向かい、お客様と同じ方向を向いて同じベクトルで仕事ができるのではないかと考え、トーマツのIPO専門部署に入りました。そこでは約6年間、自分の望む仕事をすることができ、実際に顧客企業のIPOも体験しました。お客様と一緒に汗をかいて事をなしていくという素晴らしい経験ができたと思います。
- 内部監査コンサルティングや原価計算制度、管理会計の導入支援なども行っています。
- 最近、内部監査コンサルティングの依頼が増えています。IPOに先立ち、内部監査制度を導入する必要が生じたものの、社内にノウハウがなく人材もいないため外部の専門家に依頼するケースが多いのです。 ところが、このところIPOの予定がないのに内部監査制度の導入を検討する企業が増えてきました。社内で何かしら問題を抱えていたり、コンプライアンスへの対応強化を意識してのことだと思います。 会社が大きくなると目が行き届かないことが増えますし、ホールディングス化を進め、事業会社に権限を渡したはいいものの、ホールディングス側の知らないところで経理などのミスも起こり得ます。 内部監査とは基本的に、社内に内部統制の仕組みがあって、それがきちんと運用されているかをチェックするためのもの。内部監査制度を導入する前に、自社にどんな内部統制の仕組みを構築すべきかというところにさかのぼる必要があります。 また最近、中小企業でも原価計算制度を導入するケースが増えてきました。 たとえば何かのきっかけをつかみ、一気に受注が伸びた会社で、売上は伸びているのに社内がガタガタになっていくことがあります。要するに、どんぶり勘定のままやっていくと、売上は伸びても、材料費や外注費、人件費などのおさえが利かず、なかなか利益が伸びないという悪循環に陥ってしまうのです。 そこで「原価をきちんと管理しなければ駄目だ」という意識が芽生え、原価計算制度の導入に至るのです。 原価計算制度の目的は、原価を改善することなので、実際にどんなところで原価が膨らんでいるのかを把握し、その原因を分析して然るべき手を打てば、結果的に利益が向上するという好循環が生まれます。 一方、管理会計は社内の「見える化」を推進するツール。 一般の決算書は非常に大雑把で、売上や原価がトータルでいくらかという、いわば結果論のみを示しています。そのため、これから会社の中身をよくしようとしていくときに、決算書を見るだけでは、具体的にどこをどう良くしていったらいいのかがわかりません。 そこで、たとえば部門別や商品別などに売上を分解し、さらには粗利、原価を分解することによって「見える化」を進めていくのが管理会計の手法です。
- 仕事のポリシーは何ですか?
- 最も大切なのは、お客様に対する理解です。私自身、どんな仕事をする時にも、お客様の組織や業務をまず理解するようにと、社員たちに話しています。 そこをきちんと理解し、お客様とゴールを決めることで、現状とゴールとのギャップを埋めるために取るべきアクションが見えてくるわけです。それがわからないまま、何となくやろうとするから失敗するのです。 その意味で、私は仕事には正しい進め方があり、既存のPDCAサイクルでは不十分だと思っています。 PDCAの「P(Plan)」の前にアナリシス(A)、すなわち現状分析をきちんと行い、それを踏まえてゴール設定(G)をするのが大事だというのが私の考え。A、Gをきちんと行ってからプランニングに入る「AGPDCA」サイクルが私の信条です。
- 御社の強みは何ですか?
- 商品の構成として、コンサルティングサービスとアウトソーシングサービスの両方があることが私たちの強み。会計事務所やコンサルティング会社で、コンサルティングとアウトソーシングの両方を同じ力量でやれる会社は少ないと思います。 実際、お客様のニーズとしては両方が必要です。なぜかと言うと、たとえばIPOコンサルティングであれば、現状分析をもとにプランニングを行い、プロジェクトを立ち上げますが、「ここをこうすればIPOは可能です」ということをロジカルに説明すれば、お客様は「なるほど、わかった」と理解してくれるでしょう。ところが「やるべきことはわかったが、うちにはそれをやれる人材がいない」という事情でプロジェクトが止まってしまうケースが非常に多いのです。 プロジェクトを前に進めるためには実行力が必要で、その部分を私たちがアウトソーシングで請け負い端緒を開くのです。トンネル工事で先頭に立って山を掘るようなものですが、「頭も口も手も動かせるのがわれわれの強み。どれ1つにも手を抜いてはならない」と私は社員たちに言っています。
- どんな戦略で中小・ベンチャー企業を支援していきますか?
- われわれの戦略としては、アウトソーシングが入口のサービスに適しています。お客様にとっても、経理担当者が辞めてしまったなどのように、自分たちで業務ができない何らかの状況が生じているので、外部に依頼する緊急性が高く、仕事になりやすいのです。 そこでいただいたアウトソーシングの仕事に誠心誠意取り組み、一定の流れを作れば、お客様との継続的な関係の土台が生まれます。それにつれて、お客様に対する理解もどんどん深まり、お客様との距離も縮まり、折に触れて相談を受けることも多くなるでしょう。その機会を捉え、「ではこういう取り組みを行っていきましょう」と提案を行い、プラスアルファのコンサルティングやアウトソーシングサービスにつないでいく。 そうしたなかで、財務会計、管理会計、財務戦略の領域で複層的にお客様を支援する関係を築いていくことを、われわれは目指しています。
1999年3月、早稲田大学卒業。
1997年、公認会計士試験合格。
1998年、青山監査法人プライスウォーターハウスに入所。
2003年、監査法人トーマツに入所。中小・ベンチャー企業の上場準備支援部門に所属し、複数の企業のIPOに携わる。
2009年、中小・ベンチャー企業の事業成長・事業継続を支援するという自身の社会貢献目標を達成するために独立。アクア会計事務所を設立し、代表公認会計士に就任。同年、税理士登録も行う。
2010年、顧客への経営サポートをより充実させる体制作りのため、コンサルティング会社のアクア・フェリクス(株)を設立し代表取締役に就任。
2012年、アクア会計事務所が関東経済産業局より経営革新等支援機関に認定される