エクスウェルス・インテグレート・ジャパン株式会社 代表取締役社長/CRO 酒井 洋道

公開日:2021年1月26日

中国の消費者が求める選りすぐりの日本製品を、中国の大手ECプラットフォームで販売

中国の一般貿易ECの市場規模は、越境ECの10倍以上
――中国・上海を拠点にビジネスを10年以上行っています。
酒井 私の主な仕事は日本企業の中国進出サポートではありません。中国企業から「日本のこんなものがほしい」という形で指定が入るものに対して、彼らのリクエストに応えています。
彼らが何をほしがっているかをピンポイントで把握したうえで、私が日本の商品やメーカーを探すのがビジネスの前提です。
2年ほど前から「中国向けEC進出サポート業務」を手がけていますが、とくにこの1年間は需要が急速に高まっていますね。
――中国国内のEC小売(BtoC)市場はどんな状況ですか?
酒井 2018年の市場規模は約153兆円で、阿里巴巴(アリババ)グループが運営する中国最大のBtoCオンラインモール「天猫(ティエンマオ)商城」のシェアが55%を占めており、「京東(ジンドン)商城」が25.2%、「拼多多(ピンドゥオドゥオ)商城」が5.7%のシェアを持っています。当社は日本企業が中国でECを展開するにあたり、中国市場で圧倒的なシェアを持つこれらの大手プラットフォームとの提携をコーディネートしています。コロナ禍の影響で海外渡航が制限されたことで国内消費が伸びたことが背景にあり、中国のEC市場はさらに拡大しています。
――「中国向けEC進出サポート業務」はどんなサービスですか?
酒井 EC市場と言っても、私たちが手がけているのは日本でよく言われる「越境EC」とは異なります。日本国内でまとめて買い取った商品を一般貿易で輸入し、通関を行ったうえで現地の大手ECプラットフォームで販売するのです。こうした一般貿易EC市場は、越境ECの市場規模の10~15倍はあると言われています。
コロナ禍以前は日本を訪れて商品を買う人も多かったのですが、今ではそれも難しくなり、商品が適正価格で入らないケースも見られるようになったので、正規ルートで商品を中国に入れようというのが当サービスの目的です。
日本のメーカーときちんと契約し、正規の代理店として中国有数のECプラットフォームで販売。しかも日本で商品を買い取り、現地でのマーケティング費用やプロモーション費用、ブランディング費用は中国側が負担するというビジネスモデルで、非常にリクエストが多いですね。
――日本企業にも淘宝(タオバオ)などのECサイトを活用し、中国で商品を販売しようという動きが広がっています。
酒井 そうですね。たとえば化粧品で言えば、中国ではEC販売の比率が7割を占めています。
こうした中、日本の大手企業は多額の予算をかけてオフラインで交通広告やテレビCMを出すことが多いのですが、資生堂さんはマス広告も行いつつ、タオバオでの販売を強化するなどの切替を進めた結果、中国でのEC販売額を30倍に増やしました。
資生堂さんは昨年も「ダブルイレブン」(アリババが始めた「独身の日〈11月11日〉」のECセールスイベント)にもテレビによく出ていましたが、売れ行きは好調だったようです。
そのほかにもマックスファクターさんなどの大手ブランドは中国市場でもかなり頑張っていると思います。
その一方で、私たちの中国のパートナーたちは、「自分たちはどうすれば中国市場で売れるか、どうやって売っていけばいいかがわかっている。大手以外にも、きちんとパートナーシップを結んで展開すればもっと売れるブランドがあるのに、もったいない」と言うのですね。
とはいえ、タオバオなどのプラットフォームに出店すれば、誰でも売れるわけではありません。実際にどうやって売るかを考えたうえで出店する必要がありますが、私たちの中国側のパートナーは、それができる能力が十分にあると思っています。
日本のスキンケア、ヘルスケア製品、お酒が人気
――実際にどんな日本製品のニーズが高いのですか?
酒井 そうですね、メイド・イン・ジャパンのブランドであることが重要で、その中でもまだ競争優位性があるものということになると、今一番ニーズが高いのはスキンケアですね。
やはり、安心安全なスキンケア製品ということで、日本製品のニーズが高いのです。
また、ヘルスケア製品のニーズも高く、これは今後大きく伸びると思います。なかでも中国の大手プラットフォームや大手販売店がヘルスケア分野、とくに医薬品に対して非常に積極的な投資を行っています。
中国の医療事情は日本とは大きく異なり、病院になかなか行きづらいので、具合が悪くなったら薬に頼る傾向が強いのです。マーケットが大きいことに加え、政府も規制緩和に向かって動いており、スマートフォンのアプリで注文すると、1時間以内に薬が宅配で届くサービスも実現します。マーケットでもそこに向けた動きが始まっており、日本製の一般用医薬品と処方薬を売りたいという要望が当社にも寄せられています。
――日本のお酒も人気がありますね。
酒井 よくある話ですが、たとえばサントリーやニッカのウイスキーがほしいとか、「響」や「山崎」がほしいという消費者は山ほどいます。
そんな中、香港市場に上場している企業の系列で、中国で紹興酒を造っている当社の得意先企業から、中国で日本酒を造りたいという要望がありました。そこで当社が、技術移転の契約ができる相手先を探し、アレンジメントをちょうど終えたところです。今年中には中国国内に大規模な工場ができるでしょう。
また、これは珍しいケースですが、中国最大級の醸造会社でも最近、日本の焼酎を生産する計画がスタートしました。
これらの背景には、中国で日本食ブームが再来していることが挙げられます。たとえば日本酒は「獺祭」を筆頭に、かなりの量が中国で消費されていますが、一般貿易では関税が高いので、自国内で生産しようという動きが起きているのです。
加えて食品関係でも、日本のメーカーやOEMの工場などと、業務提携の話が始まっています。
逆に、最近まったくニーズがなくなってしまったのがIT分野。当社にも、日本のIT企業からソリューションの提案に加え、中国側からの投資も含めた依頼が寄せられます。ところが、日本企業は外注先としては採用される可能性があっても、日本製のシステムやソリューションに対する中国側の需要はほとんどなくなっていると思います。
――「中国向けEC進出サポート業務」では具体的にどんな支援を行っていますか?
酒井 中国へのEC進出の相談から市場性調査、提携推進コーディネートまでを無料で実施しています。
ヒヤリングを行ったうえで、クライアントの商品のポジショニングや強みと弱点などを分析。私たちが中国側のパートナーとともにサポートを行った場合、売上が1年目、2年目、3年目などでどう伸びていくのかをシミュレーションし、さらに投資もついてくるというプロジェクトを提案することが可能です。
とはいえ、中国へのEC進出に前向きな経営者の皆さんが「このぐらいの予算をかけてやりたい」と言った時、普通のコンサルティング会社なら、年間契約で月額いくらでやりましょうという話になりますが、私はそういうことはしたくないのです。
当社は商社でもなく貿易会社でもありません。私たちが基本的に行っているのは、中国の大手プラットフォームとの提携をアレンジすることによる成功報酬型のコンサルティングで、成約時にまとめて報酬をいただくのではなく、商品の流通に応じたインセンティブを頂戴しています。加えて、新たに始まるプロジェクトに対して当社も中国側と一緒に出資を行い、会社を設立。それにより、当社もステークホールダーとしてハンズオンで新規事業を成長させていくことをビジネスにしているのです。
――コンサルティングにおけるポリシーは?
酒井 私がポリシーとして大事にしているのは、日本側と中国側の双方の間に立たないことです。私は中国側に立って交渉を行いますが、日本側に立つ方を必ず置いています。日本と中国では考え方やビジネス慣行、文化が異なるので、両方を調整しようとすると、私自身が自己矛盾に陥りかねないからです。
私自身が会社を大きくし、取り扱う案件も増やして双方の代理を行うことを目指さず、日本側の代理人となってくれる方とパートナーシップを結べば、交渉がうまくいくと考えています。
――今、新たに取り組んでいることは何ですか?
酒井 最近、ある上場企業のネット広告会社と提携し、自分たちも商流に入って売り先を見つけることからスタートし、クライアントの商品を中国できちんと売っていくというプロジェクトを開始しました。
今まで広告会社では「この商品を売るために、こういう広告を出しましょう」という提案が多かったと思います。それとは異なり、広告会社もクライアントの商品が一般貿易で本当に売れるようなビジネスモデルを考え、実際に商品が売れていく中で、小利を回していただくというのがこのプロジェクトのイメージです。
広告会社にしてみれば、ビジネスのストラクチャーをどう構築し、商品のブランディングやマーケティング、プロモーションを中国でどう進めていくのかを勉強しながら収益を得ることができ、その中には結果的に広告に関する部分も含まれることになります。
まだ大きく伸びる余地のある日本のブランドを掘り起こしたい
――中国市場を熟知している酒井さんから、日本企業にアドバイスしたいことは?
酒井 注意しなければならないのは、商品を売りたい日本企業の皆さんの目は中国・アジアに向いているかもしれませんが、あえて厳しい言い方をすると、その相手方にしてみれば、日本は「one of them(その他大勢)」だということです。
先の化粧品にしても、必ずしも日本製でなくても構わないのです。ある意味で、韓国メーカーのほうが新商品の展開が早く、尖った商品を出していますし、台湾の製品も品質が安定していますから、価格からすると、中国の消費者はそちらを選ぶことも多いでしょう。
そうした中で、どうしても日本製でなければならないものは何かと言うと、たとえば日本産のウイスキーは彼らにとって絶対に必要なものかもしれません。でもそれ以外に、日本製でなければならないものが、だんだん少なくなっているような気がします。
逆に、数年前までは日本のブランドと言えば、メイド・イン・チャイナでも売れました。ところが今では、あるものについては「絶対に日本製でなければ嫌だ」という声も聞かれるようになっています。
生活が豊かになって商品も増え、消費者の目が肥えてきたのです。その結果、「日本のブランドでもメイド・イン・チャイナはほしくない。日本のブランドで、メイド・イン・ジャパンなら買う」という意味での日本のブランドへの回帰も起きているのは事実です。中国における消費のフェーズが上がっているのだろうと思います。
こうした、日本企業が売りたいものと中国の消費者が買いたいものの乖離を意識しながらビジネスを進めているのが当社の大きな特徴です。
――逆に、日本のメーカーにも「日本製だから売れるはずだ」と慢心することなく、日本で本当に良い製品を作り続けてほしいと思います。
酒井  私たちが「きちんとした取り組みを行えばもっと売れるのに、もったいない」と思う企業の決算内容を見ると、コロナ禍の影響でインバウンド需要がなくなり、海外事業の伸び悩んでいるにもかかわらず、黒字を維持し商品もそこそこ売れていることが少なくありません。こうした中で、経営者の皆さんは「もっと何か打つ手はないものか」と試行錯誤されていると思います。
私が一番掘り起こしたいのはそのように、いいものを持っているのに、まだまだ力を出し切れていないブランド。然るべき取り組みを行えば、中国でもっと売れるブランドが日本には数多くあり、そこをもっと発掘していきたいのです。
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中国向けEC進出サポート業務


「取材・構成 ジャーナリスト 加賀谷貢樹」

酒井洋道(さかい ひろみち) 対日投資事業構築プロデュース。 2010年より上海、東京を拠点に中国企業の対日本投資のアドバイスを行う。 中国企業と共に投資を行い事業構築の案件も多数あり。 現在も多くのリクエストを対応中。

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