法律事務所きがわ - Kigawa & Co. 代表弁護士/CEO 木川 務氏

公開日:2018年3月19日

あらゆるリスクをあらかじめ想定して布石を打つ戦略・先制・統合法務でビジネスをサポート

ビジネスリスクに対する企業の対応には、どんな問題がありますか?
企業の規模と内部の体制にもよりますが、一般的に、規模の大きな会社には内部に法務関連部署があったり、それなりに経験値もあるので、リスクに対する感度が高い一方、中小企業やベンチャー企業はリスクに対する感度が低い傾向があります。
たとえば、あるベンチャー企業がこれまでにない商品やビジネスモデルを作り上げ、新事業をスタートさせたとします。ところが、どうやってマネタイズを行い、利益を上げていくのかということは一所懸命に考えるものの、事業にともなうリスクを検討し、その対策をあらかじめ打つことは後回しになりがちです。
「このビジネスで何年後には上場を目指したい」とか「海外とすぐにでも取引をしたい」という目的もあるでしょう。ところが、上場にする際になって初めて事業の内容を法的に整理し始めたとしても、何か問題があった場合、その内容によっては、事業構築をもう一度やり直さなければならなくなることもあり得ます。
また、国際取引を始めるにあたり、とりあえず海外に商材を持って行きたい、もしくは海外の商材を持ってきたいという思いだけが先行し、海外の取引先に言われるがままに、その内容を精査せずに契約をしてしまったという話が少なくありません。その結果、あとでトラブルが起きても、契約時に詳細を詰めていなかったために、そもそも取引先に何もクレームをすることができなかったり、事後的にごく限られた選択肢の中で対応をするしかなくなってしまったりしたケースが多々あります。
一度失敗をした経験のある企業には、トラブルが起きる前に、法律家にビジネスについてアドバイスを求めることの重要性を理解していただけるのですが、こうした認識がもっと広がっていくといいですね。
ビジネス法務のどんな業務分野を手がけていますか?
一言でいえば、リスクマネジメントです。これはさらに、予防的なリスクマネジメント(狭義)と、事後的なクライシスマネジメントに分けられますが、予防的なリスクマネジメントとしては、M&A/組織再編(ビジネス拡大、事業撤退、事業承継)、コンプライアンス(独占禁止法、外国公務員贈賄規制)、企業取引法(新規事業の立ち上げ、取引関係法務、中小企業法務)の3分野、事後的なクライシスマネジメントとして訴訟/紛争解決及び危機対応の2分野を手がけています。
最近ではM&A関連の案件も多いですね。「面白い技術を持っているこの会社(中小企業)を買収したい」という話がよくあります。
また今年1月には、講師センター特化型オンライン英会話サービスを展開するぐんぐん(東京都港区)の代理人として、ベネッセホールディングス(岡山市)を引受先とした第三者割当増資による資本業務提携の契約交渉サポートを行いました。
そのほか、企業グループ内の組織再編のアドバイスに加え、取引・交渉のサポートや、契約書レビューの依頼が多いですね。
海外ビジネスの交渉・契約サポートも行っています。
海外メーカーからの商材の輸入を始めとするさまざまな場面で、英語での交渉や英文契約書の作成などをサポートしています。海外の取引先に同行し、交渉の現場で契約内容を詰め、契約書を起草し、サインをするところまでをお手伝いさせていただいています。
法務戦略、先制法務、統合法務を軸にしたリスクマネジメントに力を入れていますね。
まず、法務戦略についていえば、新しいビジネスを始めたいというときに、先例ばかりを追い、法律を形式的・機械的に当てはめていくだけでは、新しいビジネスを始めたいという要望に必ずしも応えることはできません。いかにして、法規制に抵触しないビジネススキームを作り上げ、先例のない分野であっても適法性を確保することのできる状況に持っていくかという、戦略的な思考が必要です。
また、ビジネスコンサルティングの観点も含めて、自社にとって、ビジネスリスクも法的なリスクも回避しながら、確実に利益を得られるスキームをどう構築するかというリスクと利益のバランスの観点から考えていくことも重要です。
あらかじめ知財回りをどう固め、模倣されにくいビジネスモデルを構築するのか、あるいは自社商品のブランド価値を維持するために、どんな販売方法を選択するか、利益を最大化するためにはどのようなビジネスモデルで行くべきかということがその典型。たとえば商品を小売業者に卸し、売切りにした場合、「商品をこの価格で売ってほしい」と求めることは、独占禁止法の定める再販売価格の拘束にあたり、違法となりますが、代理店に販売業務を委託するという形で、自社が商品の直接の売主としての地位を確保するように持って行けば、販売価格のコントロールも可能です。
私自身、国内大手商社と海外大手コンサルティングファームの日本法人の法務部に勤務した経験を活かし、ビジネスと法律双方の観点から、ある商材について、どんな販売方法を採ればトラブルや法規制を回避しながらうまく展開できるかを検討し、一緒にビジネスを作り上げていくという意識を持ってクライアントにアドバイスをしています。
第2に、先制法務についてですが、ビジネス法務分野では、紛争解決(事後対応)から予防法務(事前対応)への流れが一般的になっています。こうした中、私たちはさらにその先を行き、あらかじめ有利なポジション取りをしておけるように「布石」を打ち、機先を制するための先制法務をモットーにしています。
たとえば、事前にトラブルが発生しないように契約書を作っておくのが予防法務の典型ですが、世の中には完全にヘッジ(回避)できるリスクばかりでなく、実際のビジネスにおいては、ある程度のリスクが残るものです。リスクヘッジという観点ばかりを意識すると、あらかじめすべてのリスクを排除する動きになりがちですが、そうなると契約書が厳しい内容になり過ぎ、非現実的で、かえってビジネスを阻害する結果となってしまいかねません。
それに対し、私たちが実践している先制法務では、リスクの大きさや、リスクの顕在化の蓋然性(顕在化しやすさ)のバランスを考慮したうえで、妥当な落とし所を見極めて交渉を行ったり、契約書を作ったりすることを心がけています。そして、その際、残されたリスクが顕在化した場合であっても、クライアントのビジネスへの影響が最小限になるような方策を考えておきます。実際にトラブルが起こってから生きてくるような布石を、あらかじめ打っておくわけです。
たとえば契約書を作る際、顕在化する可能性があまり高くないと考えられるリスクや、顕在化する可能性は高いものの、影響が小さいと思われるリスクまでをあえて排除はしません。ただし、そのリスクが現実化したときにクライアントはどんなポジションに立たたされるのか、最悪でもリスクをどれだけ最小化できればいいのかを想定したうえで、契約書にどんな条文を入れるのか、その書き方はどうするのかを、先んじて考えるようにしています。
第3の統合法務ですが、ビジネスに適用される法律は1つではなく、問題となる法分野も1つであるとは限りません。そうであるからといって、問題となる複数の法分野における検討を単に合わせるだけでは、問題を根本的に解決できるとは限りません。問題となる複数の法分野は、複合的に、有機的に関連して問題となってくるのです。そのため、特定の法分野に特化し、専門化した視点からの検討をしたり、複数の法分野の視点からの検討を並列させたりしただけでは間に合わず、問題となり得る法律分野の関係性や関連性を考慮し、それらを「統合」する観点が必要になります。
たとえば、クライアントが新たに始めようとしているビジネスモデルに、複数の法分野が関係している場合、法律Aとの関係では、ある部分が規制の対象になるとします。しかし、それを回避するためにビジネスモデルを修正すると、今度は法律Bの規制対象になるというとき、どこに重点をおいてビジネスモデルを構築・修正すれば、結果的に、規制を受けるリスクが最も少なくなるか、そして利益を最大化することができるかということを、関連する法律による規制やリスクの有無、それらの程度を「合わせ技」で考えることが統合法務の考え方です。
法律のプロからビジネスについてのアドバイスを受けるメリットは?
ビジネスの動きは非常に速く、世の中にはまだ判例になっていない問題やトラブルが数多くあるはずで、ビジネス法務も、判例になってから対処を始めるのでは遅いと思います。
正直な話、判例を調べるだけなら、法律家でなくても可能です。法律家は、ある法制度の下において、ビジネス上の要望、すなわち法解釈の「必要性」があることを前提に、問題となる法規制についてビジネス上の要望を充たすような法解釈をすることが法令の趣旨等に違反しないかという「許容性」を考慮したうえで、法規制の射程を図りながら論理的に判断するスキルを持っています。
そのスキルを活かし、「この法律や規制の文言や趣旨からすれば、こういう解釈が可能だから問題ないだろう」という、法律のプロとしての見極めを行えることが、私たちの最大の差別点だと思います。
リスクマネジメントについて、中小企業やベンチャー企業にどんな意識改革が必要ですか?
数年前にアメリカで、ワイヤーハーネスを始めとする自動車部品のカルテルを結んでいたとして、日本企業が相次いで摘発されました。これが意味するのは、日本国内で下請けとして国内の自動車部品メーカーに製品を収めている中小企業でも、取引先がグローバル企業の場合、その部品を使用した完成品の輸出先であるアメリカの反トラスト法などの影響を受けるリスクを抱える時代になったということです。
また、海外ビジネスを行う中で、現地の役人から賄賂を当然のように要求されることも少なくありません。そういう犯罪に一度でも手を染めると、ビジネスをグローバルに展開していく中において、大きな足かせになるリスクがあります。
たとえば、アメリカやイギリスを始めとする海外の国々でビジネス上の接点を持つグローバル企業は、アメリカやイギリス等における法規制の対象となり、外国人公務員に対する贈賄などの犯罪を犯した企業からの調達を禁じられていますが、そのような企業と取引をするチャンスがあったとしても、仮に自社において過去に贈賄を行ったりした事実がある場合、それが間接的であったにしろ、そのグローバル企業との取引チャンスを失うこともあります。
今は、大企業に限らず、中小企業はもちろん、たとえ1人でビジネスを行っている個人事業主であったとしても、グローバルに海外企業と取引しようと思えば、それが可能な時代。その反面、そのように規模が小さい企業であったとしても、大企業と同様のビジネスリスクに晒されているということなのです。その意味で、中小企業の皆さんにも、大企業と同じような「リスク感度」を持ちながら、ビジネスリスクに対応していけるよう、アドバイスを行っていきたいですね。

1998年3月、明治大学経済学部政治学科卒業。
2002年11月、司法試験(旧試験)合格。
2004年9月、司法修習終了(第57期)。
星野綜合法律事務所(現K&L Gates外国法共同事業法律事務所)、東京青山・青木・狛法律事務所ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所(現 ベーカー&マッケンジー法律事務所)を経て、2012年4月より伊藤忠商事法務部に勤務。
2016年4月より、アクセンチュア法務部に勤務し、2017年3月、法律事務所きがわ(https://www.legalstrategy.jp/)を設立。 代表弁護士/CEOに就任し、現在に至る

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