新型インフルエンザ等対策特別措置法が成立してからもうすぐ1年がたつ。ソーシャルディスタンスの要請が生活に与えた影響についてマクロの統計も出されているが、個人的な実感を衣食住その他に分けて振り返ってみたい。
まず「衣」である。私のようなデスクワークを中心に仕事をしている人々は、テレワークとウェブ会議が一般的になった。人と会わない日が増えたので、ネクタイをしてスーツを着る回数が減った。ワイシャツも月に20枚クリーニングに出していたが、今は数枚になった。ウェブで行う取締役会などにも楽な格好で参加する人が増えている。ラフな服装が標準的になってきたことによって、この冬は電熱ベストを買った人も多い。スマートフォン充電用のバッテリーに接続すると薄着でも電気毛布を着ているように暖かい。このような機能的な衣類が普及するとコートなどはおしゃれをするときだけ羽織るものになるかもしれない。
次に「食」である。仕事仲間や顧客との会食はほとんどなくなり、夕飯は自宅でするようになった。家族で食事を楽しむために、バーベキューから流しそうめんに至るまでさまざまな設備や調理器具を購入した人も多い。既存の飲食店もデリバリーなどに力を入れるようになり、ゴーストキッチンなど新たなサービスも充実するようになった。レストランでも老舗ブランドはEC(電子商取引)やデパートの催事場などでの売り上げを伸ばしやすかったようだ。ブランドの重要性を再確認した。
「住」についてもトレンドが変わった。自宅で仕事をする個人が増えたことによって、広めの住宅が選好されるようになった。投資用に小規模な集合住宅を東京近郊に建築する場合、従来なら利回りのよい単身者向けの1部屋当たり20平方メートル程度のアパートを建てるのが一般的だった。それが昨年からはテレワークへの対応を視野にいれたプランが増えている。
東京都への転入率は戦後一貫してプラスだったが、混雑が嫌気されたためか昨年初めてマイナスに転じた。企業のオフィスも大きな影響を受けた。私の関与先のIT企業では、緊急事態宣言の期間は出社率を10%以下にした企業も珍しくなかった。それでも業務に支障が生じることがなく、満員電車での通勤もないので従業員からも好感されているため、恒久的にテレワークを採用する企業も多い。
残業に対する規制が年々厳しくなっているため、オフィスの滞在時間が減っていたところに、コロナ禍でオフィスの稼働率はさらに低下した。このため、賃貸面積を大幅に減らしたり、小さなオフィスに移転したりする企業が増えている。
テレワークで効率的に業務を行うためには、事務仕事をITサービスで代替する必要がある。テレワークを使うことで、オフィスの賃料と事務作業にかかる人件費という2つの固定費を削減できるようになった。半面、社会全体としてこれらの需要が落ち込むことになる。
最後に、人には衣食住だけでなくレクリエーションや文化的活動が必要だ。巣ごもり的な生活様式は、サブスクリプションの音楽や動画の提供サービスを使う人を増やした。これらのサービスは、大量のコンテンツを用意しているというだけでなく、CMの視聴に時間をとられたくないという人々のニーズに応えている。
コロナ禍の一年は人々の生活とマーケットを大きく変えた。そして、ワクチンが普及した後も元に戻るとは思えない。しばらくは、潮の流れが大きく変わり続ける気の抜けない時期となりそうである。
【プロフィル】古田利雄 ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。法律専門家として複数の上場企業の社外役員も兼務。東京都出身。
「フジサンケイビジネスアイ掲載」