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自然災害による損害の法的責任 被害者救済難しく自衛措置が必要

今年の夏は、豪雨災害や台風21号、地震など特に大きな自然災害に見舞われた。このため、8月からは一般市民を対象とした電話法律相談において、自然災害によって被害に遭った、あるいは近隣に迷惑をかけたという相談が目立った。

特に台風21号の後には、瓦や看板が強風にあおられて飛んできてマイカーが傷ついたとか、隣家の樹木が倒れてきて家屋の一部が破損したという相談が多かった。

想定外の大規模な災害では、加害者側のみならず被害者側も「天災だから仕方ない」と漠然と考えている人が多い。しかし、近隣の家の瓦は飛んでいないのに築年数の古い特定の建物の瓦だけが飛んだという相談や、倒れた木の樹齢が古かったり、以前から少し傾いたりしていて近隣住民が危ないと思っていたという相談もあった。

このような自然災害で自分の所有物が他人に被害を与えた場合、法的にはどのように考えるのが正しいのだろうか。民法は、土地の工作物や樹木などの設置または保存に瑕疵(かし)があることによって他人に損害を与えたときはその損害を賠償する責任を負うと定めている(711条)。本来は、故意や過失がなければ責任を負わないというのが近代の法律の一般的なルールである。

しかし、711条は工作物などの設置保存に不完全な点があれば、個々の加害行為に関する故意や過失がなくても責任を負うものとしている。なぜこのような特例が設けられているのか。それは工作物や樹木などのように、場合によっては他人に被害を与える可能性のあるものを所有する者は、そのような危険に見合った責任を負うべきだという思想に基づく。この危険を内在する工作物には、瓦や看板はもとより、エアコンの室外機など建物に設置された機械も含まれると広く解釈されている。

台風21号のように近隣の多くの家屋の瓦が飛ぶような想定外の大型台風のケースでは、瓦が正しく設置されていても飛んでしまうから、一部の瓦の設置が不完全だったとしても発生した損害との因果関係は認められず、所有者が責任を負うことはない。

これに対して、予見が可能な程度の台風によって、特定の家屋の瓦だけが飛んだ場合には、その瓦の設置または保存が不完全だったと推認されるから、所有者は責任を免れることはできない。

しかし、そのような損害が生じたことについては、自然災害が寄与しているので、その寄与部分の責任は所有者の負担から割り引かれる。瓦や樹木の設置工事に問題があったのであれば、被害を弁償した所有者はこれらの設置業者に求償することができる。

加害者側に法的な責任が認められても、現実に弁済するだけの経済力がなければ結局被害者は救済されない。気の毒な相談を受けるたびに、日ごろから災害に対する保険に入っておくこと、大型台風の予報があったら、自宅や車に台風対策をするなど自衛措置の大切さを痛感する。

【プロフィル】
古田利雄 ふるた・としお
弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。東証1部のトランザクションなど上場企業の社外役員も兼務。56歳。東京都出身。

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