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【京都発 輝く】DariK インドネシア産カカオに着目、チョコ製造

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2010年の夏ごろ。金融業界を辞めた吉野慶一氏(35)は、気分転換の韓国旅行で訪れたチョコレート店で、カカオの生産国を記した世界地図が気になった。「インドネシアでカカオが採れるのか。ガーナと同じぐらいの生産国なのに、なぜ日本に出回っていない?」。この疑問が、翌11年3月にインドネシア産カカオ豆を使ったチョコレート類の製造・販売会社、DariK(ダリケー)を創業したきっかけだ。


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カカオ豆を前に、DariKの吉野慶一社長の説明に聞き入る日本からのツアー参加者ら=8月、インドネシア・スラウェシ島(同社提供)

帰国後、菓子メーカー各社に問い合わせたが答えが出ない。10年秋、そして11年1月にインドネシアへ渡り、カカオ生産の約8割を占めるスラウェシ島で答えを見つけた。

スラウェシ島でカカオ豆の異臭にまず驚いた。豆が発酵しないまま置かれていたからだ。インドネシアでは、発酵しても、しなくても業者の買い取り価格は同じだったという。

発酵はカカオ豆をバナナの皮で5日間包んだだけでもできることも分かった。「豆を置いておくだけで品質が良くなるのなら…。自らビジネスをやらない手はない」。そう考えた吉野氏は帰国直前、カカオ農家に「発酵した豆は、通常の2~3割高い価格で買うよ」と提案。農家から買い取りの希望が相次ぎ、結局カカオ豆約600キロ(麻袋10袋)を約50万円で仕入れることになった。板チョコ約2万枚を製造できる分量だった。

◆素人の挑戦

「良い豆がありますよ」

帰国後、吉野氏は菓子メーカーや商社に電話をかけたが、相手にしてもらえない。京都市内のアパートにあふれるカカオ豆の麻袋をみて、「もう、これは自分でチョコレート店をやるしかない」と腹をくくった。

ただ、吉野氏もカカオ豆の焙煎方法も分からず、チョコを作ったことがない素人。製造機械も高額と分かり、仕方なく手作りでつくることにした。求人募集で採用した女性従業員と2人で、チョコ作りで試行錯誤を繰り返したところ「ビックリするぐらい、うまいものが出てきた」(吉野氏)。

豆を買い付けて約3カ月後の4月15日、京都市中京区の三条会商店街で店を開いた。しかし当初の売り上げは1日1000~2000円と大赤字だった。

「もう、店を畳もうか」-。吉野氏は弱気になったが、来店客の不思議な光景に気づいた。男性客が多いのだ。話を聞くと京都市内のホテル関係者らで「海外のチョコよりうまいと噂になっている」という。

当時、国内ではカカオ豆から作るチョコは珍しかった。夏以降はホテルとの取引が増え、秋には高島屋京都店で期間限定出店と知名度が上がった。翌12年2月のバレンタイン商戦では店先に行列ができるほどに。初年度から黒字決算となった。

◆農家と消費者つなぐ

創業5年で業績は順調に拡大。ただ吉野氏は創業の原点を忘れず、1カ月のうち1週間~10日間はインドネシアに滞在している。カカオ農家の生活を把握し、コミュニケーションを密にしたいとの思いからだ。

「インドネシアのカカオ農家はチョコレートを食べたことがない」と吉野氏。そこで考えたのが夏の恒例行事となったスラウェシ島のカカオ農園ツアー。日本の消費者をDariKが使うカカオ豆の収穫体験につれていく。同時に農家に作ったチョコを食べてもらうのだ。

農家の人たちも感激。「ツアーを通じて、やる気になってくれる。人間関係に意義がある」と吉野氏は話す。

DariKは10月2日、業容拡大を理由に、本社(本店)を新大宮商店街(京都市北区)へ移す。同社にとって“第2の創業”だ。吉野社長は「日本のチョコ市場は4000億円とされる中、当社のシェアは1%に満たない。インドネシア産カカオ豆を世の中に広げ、業界を盛り上げる存在になりたい」と今後を見据える。(西川博明)

【会社概要】DariK

▽本社=京都市北区紫竹西高縄町72-2(10月2日から)

▽設立=2011年3月11日

▽資本金=1000万円

▽従業員=10人(16年9月時点)

▽売上高=約1億4000万円(16年8月期)

▽事業内容=インドネシア産カカオを使ったチョコレートや関連商品の製造・販売


■移転を機に目で楽しませる仕掛けも


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吉野慶一社長

--社名の由来は

「DariKの意味は、インドネシア語で『スラウェシ島から』。スラウェシ島の形がKの文字に似ていて、京都の頭文字Kの意味合いもある」

--創業5年がたち、本社(本店)を10月2日に移転する

「これまでの本店は5坪(16.5平方メートル)と狭く、発信したい商品が置けなくなった。新しい本店は駅から遠く、お客さまが来てくれるかどうかの挑戦。新商品を順次店頭に置き、カカオ豆が踊るような様子が見られる新しい焙煎機を導入し、お客さまに目でも楽しんでいただく仕掛けにする」

--DariK製品の特徴は

「インドネシア産カカオ豆に砂糖と生クリームだけを使う。普通のチョコと違い、カカオ豆に鮮度があり、苦味や渋味、酸味が感じられると思う」

--創業に至るエピソードがユニークだ

「インドネシアに行って、最初からビジネスをしようと思っていたわけでなく…。カカオ豆を菓子メーカーや商社が買ってくれるかもしれないと思った。通関でカカオ豆の個人輸入は初めてのケースだと言われた」

--なぜ、京都で創業を

「会社を辞め、東京でオフィスを探したが、家賃が高い。息抜きで京都を訪れ、四条河原町の不動産屋をのぞいたら、『菓子店やパン屋ならすぐにできる、いい場所が空きましたよ』と言われ、勢いで契約した」

--行き当たりばったりのビジネスモデルだが、成功した

「今でこそ日本では珍しくないが、カカオ豆からチョコをつくる店は国内初だった」

--インドネシアの農家に役立つ社会貢献事業でもある

「フェアトレードは相場の2割増し払うとされるが、当社の考えはカカオ豆の品質が良ければ5割から2倍の価格で買うこともある。チョコの商売を続けるために、カカオ農家が赤字にならない買い付けをしていく」

【プロフィル】
吉野慶一よしの・けいいち 慶大経卒、京大院、英オックスフォード大大学院修了。モルガン・スタンレー証券、ヘッジファンドの勤務などを経て、2011年にDariKを創業し、現職。35歳。栃木県出身。

                   ◇


≪イチ押し!≫

■柔らか口溶け食感でブロンズ賞受賞

京都市東山区のDariK祇園あきしの店で最も売れ筋の商品が「カカオが香るフレッシュ・チョコレート」(6個入り、2700円=税込み)。2015年秋にフランス・パリで開かれた世界最大のチョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」に初出展し、ブロンズ賞を受賞した。


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売れ筋商品「フレッシュ・チョコレート」

柔らかな口溶けの食感が特徴で、味はプレーンやオレンジピール、ラムレーズン、シナモン&クローブ、ゆず抹茶の計5種類。同社のオペレーション・マネジャー、足立こころさんは「インドネシア産カカオ豆で作ったチョコの魅力が世界にも伝わった」と話す。

ほかにも、カカオ豆をチョコレートでコーティングして味わえる逸品「カカオニブチョコ」(65グラム入り、1080円)などユニークな菓子が数多く そろう。

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