一蔵・河端義彦社長
着物の小売市場規模はここ5年ほど、ほぼ横ばいの3000億円弱で推移している。かつては資産として高価な着物を所有して特別な機会に着ることが多かったが、昨今ではファッションとして楽しむ層が増えてきた。着物業界では今のライフスタイルに適応した商品やサービスを開発する取り組みが活発化し、新しい市場をつくる動きが広がっている。着物の販売・レンタルと結婚式場運営を手掛ける一蔵の河端義彦社長は「日本の文化である着物を身近にする」と意気込んでいる。
--着物を手頃な価格で販売・レンタルしている
「着物業界では店頭で売れ残った商品は、製造元に返品する委託取引が一般的だ。好況のときはよかったが不況になりモノが売れなくなると、多くの製造元が廃業に追い込まれるようになった。業界や着物文化を将来に残すため、製造元と直接、現金で買い取るビジネスモデルを取り入れた。在庫リスクを抱えることになるが、仕入れ価格を抑えられるので、手頃な価格で販売できるようになった」
--着物に親しんでもらうための施策は
「歌舞伎鑑賞や紅葉狩り、名所巡りなど、着物を着て楽しむイベントを開催している。また全国で着方教室の運営などを行っている」
--成人式向けのサービスに力を入れている
「成人式で振り袖を着る女性は、当日美容院でヘアメークをして着付けもする。その後、写真館で撮影する。これをワンストップでできれば便利だろうと考えた。そこで1995年頃に、まだ高額だったデジタルカメラを購入し、研修に行って技能を身に付けて自ら撮影した。着付けとヘアメークについては、ヘアメークアーティストと契約した」
--結婚式場も運営している
「ハレの日にふさわしい式場をつくりたいと思っていた。英国を訪れたとき、光があふれ緑豊かな庭にたたずむ洋館を見たとき、これこそ結婚式場にふさわしいと感じた。2000年にさいたま市に18世紀英国ウェールズ風の式場を開設したのを皮切りに、名古屋にも2軒つくり合計3軒を運営している」
--今後の展開は
「着物に親しんでもらうため、着て楽しんでもらえるイベントの企画や、着方教室をさらに充実させていきたい。またファッションレンタル事業を通じて、これから成人式を迎える若い人への知名度を向上させる。メーカーとの提携やM&A(企業の合併・買収)を進めてSPA(製造小売り)にも乗り出す。消費者ニーズにマッチした商品をさらに手頃な価格で提供することで、振り袖市場におけるシェア30%を獲得したい。結婚式場については18年中に沖縄で4軒目の式場を開業する。滞在することができるコテージを備えた高級志向のリゾートだ」(佐竹一秀)
◇【会社概要】一蔵
▽本社=さいたま市北区大成町4-699-1
▽設立=1991年2月
▽資本金=10億円
▽従業員=673人(2015年12月末時点)
▽売上高=137億7400万円(16年3月末見込み)
▽事業内容=和装、ウエディングの各事業
◇【プロフィル】河端義彦
かわばた・よしひこ 1983年いちこし入社。87年同社取締役。91年2月一蔵を設立し現職。62歳。長崎県出身。