「お客さまといっしょにインクの色を生み出す仕事は楽しく、今までに約1万7000の新しい色を作った」と話す石丸治氏
セーラー万年筆の文具事業部に所属し、万年筆のインクをユーザーの好みや希望に合う色に調合する仕事をしている。
万年筆のインクは、普通地味な黒か紺。最近は若年層を中心に万年筆を使う人が減っている。そこで万年筆の人気を広げようと「10年前から日本中の文具売り場や文房具店で会社が開くイベントを回っている」。その場で、来店した客の希望や注文に合わせた色のインクを調合する。
「ゲームに登場するキャラクターの髪の色と同じ色にして」「大好きな詩にぴったりの色を考えてほしい」-。思いがけない注文に、頭の中が真っ白になることもある。
さまざまな色のインクを選び量を調節する。容器に注ぎ、何度も振って混ぜ合わせる。赤、青、緑などカラフルな色もできる。「世界に一つしかない色のインクができると、お客さまに名前を付けてもらう」
数年前、北海道のイベントに来た女子高校生に勉強で使うために鉛筆の色に似た灰色のインクを頼まれて、約2時間かけて完成させた。
翌年、東京のイベントで再会したときは入試に合格して大学生になっていた。晴れやかなピンク色を注文され、うれしくなった。「これからも新しい色のインクを生み出して、万年筆ファンを増やしたい」と日本中を回っている。
【プロフィル】石丸治
いしまる・おさむ 大学で染料について学び、卒業後の1975年にセーラー万年筆入社。散歩中も周りの色を混ぜると、どんな色ができるか考えてしまう。62歳。山口県出身。
「フジサンケイビジネスアイ」