グラネス・伊藤妃実子社長
革製品メーカーのグラネスは、日本のものづくり承継のため、繊細で高度な職人の技術を注ぎ込んだバッグを製造・販売している。伊藤妃実子社長は「100年後も愛され続けるブランドへ」という思いを掲げてグラネスを経営し、自ら製品をデザインしている。社名はグランドマザー(祖母)からグランドドーター(孫娘)へと受け継がれるハピネス(幸福)を合わせ、母から娘へと世代を超えた幸せという意味を込めた。素材から企画、デザイン、製造まで全て日本国内で賄っている点が売り物だ。
◆バッグの機能性追求
大学生のときビジネスコンテストに出場し、ファイナリストとなったことがきっかけになり、在学中の20歳で起業する。
どういった事業に取り組むかを考えていたとき、結婚前の母が祖父に贈った革ベルトを思い出した。祖父はそのベルトを30年以上ずっと愛用し続けていた。「日本製品の高品質を再認識した。祖母、娘、孫と世代を超えて長く愛される革製品であるバッグを国産で作りたい」と決意を固める。
スケッチブックにデザイン画を描き、かばん職人を訪ねる。しかし相手にされない。話さえ聞いてくれないこともあったが、根気強く歩き回った。
伊藤社長がデザインしたバッグは美しく機能的だが、その分複雑で細かく、製作に手がかかった。
多くの職人から断られたが、東京・浅草で「面白い、インパクトがある」と興味を示された。面白いもの、難しいものしか作らないという、この道40年の腕利きと評判の職人だった。やり直し作業を何度も重ねた上で、第1号となる「グラネス8番」が創業直前に完成した。エレガントでありながら、機能性も追求したグラネス8番は、いまなお根強い人気の定番商品となっている。
ただ、「製品を通じて日本の職人を正当に評価してもらいたい」という思いとは裏腹に、欧州ブランドばかりがもてはやされることに物足りなさを感じていた。「日本製の方が縫製などが丁寧で、高度な加工が施してある。品質では欧州の高級ブランドにも負けていない」という確信があったからだ。
◆ものづくり産業振興
“欧州ブランド信仰”ともいえる潮目が変わったのは、東日本大震災以降。日本を見直そうという機運が生まれたことで、国産回帰が鮮明になり、グラネスの製品の売り上げも急速に伸びている。
世界で高く評価される日本製品だが、実はほとんどを外国で製造しても、日本で最終加工すれば「日本製」を名乗ることができる。伊藤社長のもとにも、外国で製造する話が持ちかけられる。だが高い品質を維持し、日本のものづくりの産業振興のためにも、国内での製造にこだわる。
「製造は全て日本国内のみ。独自に『純国産日本製』、『オール・メード・イン・ジャパン』と名乗りたいぐらい」と日本製との違いを強調する。
2年後の創業10周年時には、新規事業を計画している。健康や生活に関する特許を持つ企業と協力して、女性と子供のための画期的な製品・サービスを立ち上げる。創業15周年となる2022年には、売上高を現在の2倍に成長させる方針。
「子供や孫が会社を継ぎ、顧客や取引先、職人が世代を超えて日本のものづくりを盛り立ててほしい」と100年続く老舗企業の仲間入りをすることが長期的な目標だ。(佐竹一秀)
≪Q&A≫法人向け記念品も製作・販売
--慶応大SFC研究所で上席所員として研究者との二足のわらじを履いている
「『創業100年を超えるファミリービジネス』の研究をしている。日本は地域に根ざして100年の伝統を誇る老舗企業が2万6000社以上存在している。経営者と親族が経営に関与しているファミリービジネスは、日本の全企業のうちの95%に上るとされる。地域活性化に貢献し、リーマン・ショック後も好調な実績を上げている会社も多いことから再評価されている」
--法人向け記念品の製作・販売も手掛けている
「当社のバッグ販売のホームページを見た企業から、記念品製作を依頼されたのがきっかけ。以来、革製のマウスパッドや名刺入れ、社員証ケースなどを作成している。全国に595万以上の事業所があるので市場は大きい。会社のイメージを背負った商品を供給しなければいけないので責任重大だが、気に入られればリピーターになってもらえる。今では法人向け事業の売り上げが、バッグ販売より大きくなっている」
--海外での販売は
「バッグを中心とした革製品については、中国、東南アジア、ドバイから引き合いがあるが、今は国内向けの生産で手いっぱいの状態だ。本格的な輸出には対応できない。ただし法人向け記念品では、日本の会社が欧米や中国などの海外支店の記念品として現地で配布し、顧客へのイメージアップに役立っている」
【プロフィル】伊藤妃実子
いとう・ひみこ 慶応大院修了。在学中の2007年8月グラネスを設立し、社長就任。28歳。東京都出身。
【会社概要】グラネス
▽本社=東京都港区海岸3-20-20
▽設立=2007年8月
▽資本金=1000万円
▽事業内容=バッグ・財布ほかファッションアイテムの企画製造販売、法人記念品の企画製作など