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アジア開拓へ新卒外国人確保 人材サービス会社、インドネシア大で日本語講座

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日本語を受講するインドネシア大学工学部の学生たち=1月20日、インドネシア西ジャワ州デポック(佐竹一秀撮影)

 海外の大学や大学院で学んだ外国人の新卒者を採用する動きが日本企業に広がっている。市場の伸びが見込める新興国地域で事業をできるだけ早く拡大するためには現地の慣習や生活を肌で知り、専門知識を持つ若い人材が欠かせないからだ。中でも東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とするアジア地域の理系学生は人気が高い。呼応する形で日本の人材サービス会社も日本語講座を開くなど海外での取り組みを活発化させている。外国の人材確保が日本企業のグローバル戦略に組み込まれる中で、人材サービス会社が担う役割は一段と重要になりそうだ。

 ■学生は安定性重視

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 「どのような人材を求めているのか」「どうやって応募すればいいのか」

 雨期を迎えたインドネシアで1月下旬、インドネシア大学工学部(西ジャワ州)の教室に集まった100人の学生から、せきを切ったように質問が浴びせられた。

 人材サービス会社のレボコミュニティ(東京都千代田区)が運営する日本語の授業が終わった後、予定になかった大手素材メーカーの人事担当者との質疑応答の場での出来事だ。この人事担当者は、会社が現地での合弁事業を視野に入れていることもあり、人材を確保する狙いから「日本の東大」と位置付けられるインドネシア大を視察に訪れていた。

 優秀な受講生たちが最も反応したのは「雇用契約は何年間ですか」という問いに対する答えだった。「みなさんが60歳になるまでです」と人事担当者が告げると「おおーっ」と、どよめきが起こった。終身雇用が一般的ではないインドネシアの学生にとって、このうえなく魅力的に感じたようだ。

 インドネシアでは大学や学部によって卒業時期が異なり、日本のように一定の就職活動期間は存在しない。公務員や国営企業、銀行などが就職先として人気が高く、日本と同様に安定性を重視する傾向にある。

 日本の給与体系では新卒者は横並びの賃金でスタートする。これを敬遠し、欧米企業の門をたたくケースもあるが、親日国でもあることから日本企業を志望する学生は少なくない。受講者の一人は「父が日系企業で働いており、社員を大切にしていると感じた。日本人の仕事ぶりは尊敬できる」と語る。

 こうした状況を踏まえ、インドネシア大工学部は国際化に力を入れる方針を掲げ、日本語を学ぶプログラムを導入。レボコミュニティと連携し、日本語講座を昨年10月に始め、月~金曜に1回90分の授業を2コマ開いている。デディ・プリアディ工学部長は「学生が日本語や文化を理解し、日本企業の情報を効率的に入手できるようになる」と成果に期待する。

 レボコミュニティは、初心者でも1年後には就職を希望する企業との面談を日本語でこなせることを目標に、大手の日本語教育機関と共同で独自のカリキュラムを作成した。

 日本の英語教育でいえば中1レベルに相当する「私は会社に行きます」といった簡単な例文の習得から始まる。最高経営責任者(CEO)の千野正二郎氏は「ハードな授業なので受講者の半分しかついてこられないだろう」と自己努力を学生に求める。

■高い求人水準

 日本企業が求める人材の水準は高い。あるメーカーは「理工系の高度な専門性を備え、日本語を理解できるトップクラスの大学の学生」と厳しい注文をつける。特に言葉の壁は高く、講座などで学ばなければ、条件を満たす学生は「1つの学年に1人か2人しか現れない」(千野氏)という。

 日本の企業が求める外国人といえば、即戦力になり得る技能を持つ人材の中途採用が多かった。最近は新卒採用にも注力している。リクルートキャリアの「就職白書2014」によると、2015年の新卒採用で、従業員5000人以上の大企業のうち約41%が、海外の大学や大学院を出た外国人学生を社員として迎える考えを示している。採用が順調に進めば、約21%だった14年の実績よりも20ポイントも増える。

 日立製作所は11年度から、アジア各地の大学生を対象に現地で会社説明会を開き、理工系人材の採用を強化している。14年度に入社した約600人の大学新卒者のうち約1割を留学生を含む外国人が占めた。海外の大学卒業者はまだ少ないものの、広報IR部は「グローバル化が進む中で、今後も積極的に採用したい」としている。

 レボコミュニティは、インドネシアのほかにもベトナムやタイのトップクラスの大学と提携し、日本語講座を開いており、今後も他の国・地域に広げていく計画という。

 こうした取り組みに、事業のグローバル化を進める日本の企業も期待を寄せる。成長著しいアジアで事業を飛躍させるには若くて優秀な現地の人材を囲い込む必要があるからだ。

 欧米企業もアジア市場の強化を課題に掲げており、アジア系の人材をめぐる国際的な争奪戦は過熱しつつある。英語圏ではない日本の企業は不利な立場にあるだけに、人材サービス会社が主導する海外での日本語教育の浸透に対する期待は日増しに高まっている。(佐竹一秀)

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