中小の町工場が集積する東京都墨田区で、新たなベンチャー企業育成の取り組みが始まった。アイデアを持つ起業家と地元の町工場がタッグを組んで製品を試作、生産態勢を確保。資金調達や販路開拓にもつなげる。起業家は資金調達前の苦しい状況下で“アイデアの具現化”ができる一方、町工場は新たな製品開発に参画することで下請け体質からの脱皮を目指せる。両者にとって「ウィンウィン」の関係を構築するもので、「墨田発のビジネスモデルを全国へ」と関係者は意気込んでいる。
新たな支援の枠組み
プロジェクトの陣頭指揮に立つのが中小・ベンチャー育成事業を展開するリバネス(東京都新宿区)。遺伝子解析ビジネスを行うジーンクエスト(東京都文京区)など、これまで20社以上の立ち上げに携わっている。
新たな枠組みによる第1号の支援先は、リバネスが今年実施したビジネスコンテストで優勝したチャレナジー(墨田区)。円筒状のブレード(羽根)を並べ、あらゆる方向からの風を効率的に電気に変える世界初の「垂直軸型マグナス風力発電機」の研究開発に取り組む。今年設立されたばかりの企業だ。
同社の清水敦史・最高経営責任者(CEO)は東大大学院を修了後、キーエンスに就職。研究者として活躍していた。だが、東日本大震災による福島第1原発事故を契機に「原発に頼らない世の中をつくりたい」と一念発起し、起業家を目指した。
今後は金属加工業の浜野製作所(墨田区)が運営するものづくりの実験施設「ガレージスミダ」に入居し、浜野が試作品の開発を支援。リバネスの関連会社であるグローカリンク(新宿区)が経営アドバイスを行うとともに資金調達を支援し、事業化を手伝う。
こうした支援を受け、チャレナジーは来年夏頃までに試作機を完成させ、沖縄で実証実験に着手する予定だ。
ベンチャー企業の事業が本格的な成長軌道に乗るまでには、基礎研究から製品化までの「魔の川」、製品化から事業化までの「死の谷」、事業化から市場で受け入れられるまでの「ダーウィンの海」という3つの関門があるとされる。
ただ、まずは基礎研究などのアイデアを試作品として形にしなければ、その後の成功はあり得ない。リバネスの丸幸弘CEOは「ものづくりベンチャーのうち、試作品の完成までたどり着くのは1割にも満たない」と指摘。このハードル越えを支援することが最も重要と考え、浜野製作所とともに新たな支援の枠組み構築に乗り出した。
“脱・下請け”目指す
墨田区には板金加工やメッキなど多様な町工場が点在。試作品の製作に適した企業も多く、ベンチャーとの連携が大きなビジネスチャンスにもなり得る。浜野製作所の浜野慶一社長は、今回の取り組みで地元の町工場の“脱・下請け体質”が根付くことに期待を寄せる。
リバネスは今後、年間で30社のものづくりベンチャーを発掘する計画。「全ての企業が試作品を完成させれば、10社は(ベンチャーキャピタルなどから)投資を受けられるようになる。さらに数社が世の中に製品を出せる」と意気込む。
政府は成長戦略でベンチャー支援を強化。低迷していたベンチャーキャピタルによる投融資額は増加傾向にあるが、新たな取り組みがベンチャー支援のあり方に一石を投じることができれば、一層の投資額拡大にもつながりそうだ。(佐竹一秀)
「フジサンケイビジネスアイ」