地域に立脚した真の就職マッチングサイトを目指す

東京・多摩地域の国公私立大学30校、9市、33企業・機関からなる産官学の地域連携組織「公益社団法人 学術・文化・産業ネットワーク多摩」。大学を中核として、多摩地域の街づくりや人材育成のための事業を創造し、実施している。首都圏に限らず、日本全地域を主役にした21世紀ビジョンを作り出すためのモデルケースになることを目指す、同ネットワークの取り組みについて、チーフディレクターの中村裕氏に話を聞いた。

――設立の経緯は

20年ほど前、日本の大学連携組織の先駆けとなった「大学コンソーシアム京都」が設立されました。当時はバブル経済の終盤で、地方の学生がこぞって東京の大学に出ようとする動きがありました。京都市はもともと大学生が多い街です。東京への学生の流出を食い止めたいという思いのもとに各大学が連携して、京都にある大学の魅力を出していこうということが、同コンソーシアムの設立のきっかけでした。

こうしたなか、大学が多い多摩地域でも、12年ほど前に、京都の取り組みを見習って、大学を中心に産学官の連携を進めていこうという話になりました。各大学間における単位互換、大学生が小中学校の先生になる教育ボランティアを始め、さまざまな活動を行っていくことを目的に、当ネットワークは発足したのです。

――どんな方針で活動しているのか

基本的には、大学が地域にどんな形で貢献できるかということが大きなテーマで、もう1つが大学間の連携です。政府資金で行われる委託研究開発の成果に対して、民間企業や大学・研究者が特許権を取得することを認めた「日本版バイ・ドール制度」が1999年にスタートしましたが、(大学間の)連携によって「文殊の知恵」が出てくるのではないかと考えました。

――主な事業は

1つは単位互換です。(当ネットワークに加盟する大学および短期大学の中で)A大学の単位をB大学(の学生)が卒業単位にすることが可能です。

また、多摩地区の9市が当ネットワークの会員になっていて、各市それぞれに公立の小中学校があり、そこには先生たちの目がなかなか行き届かない部分もあります。そこでプールの補助員やパソコン教育のサポート、あるいは心理学科の学生たちが発達障害の生徒の世話をするなどの学生教育ボランティアを、当ネットワークの発足当初から続けています。

地域の人材育成にも取り組んでいます。今年は「<多摩地域行政連携事業>政策スクール」を11月25日に実施しました。たとえば人口減少にどう対処していくか、「2020年東京オリンピック・パラリンピック――多摩が担う役割とその効果」などについて、若手行政マンが集まって、この多摩地域を考えるのです。

大学側にとって直近の問題は、2018年から18歳人口が減り始め、大学進学者が減少すること。こうした問題について、加盟大学と課題を共有し、対策を考えていくわけです。

同ネットワークでは地域就職マッチングサイトも運営。画面左が神奈川県版の「じんナビ」で同右が東京版の「ねたまナビ」。企業に登録・利用料や成功報酬等の費用はかからない。学生が、学生のために魅力ある企業を紹介する「きらり企業セレクション」などのコンテンツも揃える

――就職支援・キャリア形成支援事業も行っていますが、いま大学生の就職活動にはどんな問題がありますか

就職のミスマッチが大きな問題。今年の春に卒業した大学4年生は約56万5000人ですが、そのうち11万人弱が未内定もしくは非正規雇用。実は、企業の求人は数多くあるにもかかわらず、そこにたどり着かないのです。

いま日本には約400万社の企業がありますが、そのうち99.7㌫が中小企業。大企業は1万社程度しかありません。景気の波にも左右されますが、東証1部上場企業は年間約2万4000人の新卒生を採用しています。ところが1部上場企業の採用担当者の半数以上が10校以内、8割以上が20校以内のターゲット大学からの採用を考えているという調査結果があるのです。

その一方で、全国規模の就職マッチングサイトに登録している大学生は約70万人に上ります。4年生がほとんどですが、3年生と2年生も登録しています。ところがそこに登録している企業は約1万社にすぎません。登録企業にもターゲット大学が当然あるわけですが、自分がターゲット大学に在籍していないにもかかわらず、「有名企業に就職すれば一生安泰」だと思ってむやみに応募し、人によっては50社や100社も落ちてしまうのです。

――地域就職マッチングサイトを運営しています

そんな状況でさまよっている大学生たちをなんとか救いたい。また安全安心で地域に立脚した就職マッチングサイトを作りたいと思っていましたが、昨年度に中小企業庁・全国中小企業団体中央会の補助事業である「地域中小企業の人材確保定着支援事業」に採択されたことで、それが可能になりました。

公益社団法人学術・文化・産業ネットワーク多摩 チーフディレクター 中村裕 氏
中村 裕 氏
公益社団法人 学術・文化・産業ネットワーク多摩 チーフディレクター

現在、神奈川県の就職マッチングサイト「じんナビ」(http://www.jin-navi.com/)と東京版の「ねたまナビ」(http://www.netama-navi.com/)を運営しています。両サイトへの学生登録者は、参加大学100校の大学1年生から卒業生までを合わせて約1500人。登録企業数は約600社の中小企業。なかには、得意分野で高い技術力や圧倒的なシェアを持つ地域の優良企業も数多くあります。

企業の登録・サービス利用料は無料で、成功報酬もありません。求人情報の掲載だけでなく、会社見学会やインターンシップの募集、企業トップが大学に出向いて行う出前講座も開催可能。「じんナビ」および「ねたまナビ」の登録企業に入社した新入社員を集めて研修も実施します。求人情報などの出稿の際、「こういう言葉を入れたらいいですよ」といったPRサポートも行いますので、どんどん自社をアピールしてもらいたいですね。

いまや世界的な有名企業になった京セラも、40年前は一ベンチャー企業でした。そういう素晴らしい企業が身近に数多くあることを、学生さんや保護者の皆さんにぜひ知ってほしいですね。きらりと光り、情熱があり、社員を大切にする、将来性のある中小企業に「じんナビ」と「ねたまナビ」を利用し就職していただきたいと思います。

会社概要

設立:2002年7月
会長:小川哲生氏(明星学苑副理事長)
事務局:東京都日野市程久保2-1-1 明星大学20号館601
事業内容:大学間連携、地域人材育成と教育力アップ、環境・防災・福祉貢献、就職支援・ キャリア形成支援事業
URL:http://nw-tama.jp/

キーワードから企業を探す
地域から企業を探す
SPECIAL CONTENTS 新聞社が教える
プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。