イノベーションズアイ BtoBビジネスメディア

「デジタル人材がいない中小企業のためのDX」

第9回

DXで人間の限界を超えるポイント「AI活用」

株式会社NIコンサルティング  長尾 一洋

 

データが増えればAIを活用するしかなくなる

DXを進めて行く上で考えるべき6つ目のポイントは「AI活用」です。「デジタル人材がいない中小企業なのにAI活用なんてできるのか」と疑問に思う人もおられるでしょう。




逆に、「AI何とかというものが世間に増えて来て、何度か体験したこともあるが、まるで使い物にはならなかった」とAIを否定的に見ている人も少なくないと思います。


しかし、DXを進めて行くと必然的に蓄積されたデータ量が増えて来ます。それ自体は良いことであり、蓄積されたデータに価値があるとも言えます。データ量が増えるということはデジタル活用がうまく進んでいる証拠でもあるわけですが、進めば進むほど人間が処理する限界を超えてしまい、AIを活用せざるを得なくなるのです。


本コラムは、中小企業を対象とし、その定義を資本金1億円、従業員300名未満の企業としていますから、ある企業に営業担当者が100名いると仮定して考えてみましょう。100名の営業担当者が毎日5件の商談をしたとします。一ケ月20営業日とすると、月に1万件、年に12万件の商談情報が蓄積されることになります。「ビッグデータ」と呼ぶほどの量ではないのですが、生身の人間では読み返すこともできず、せっかく蓄積したデータから知見を得ることができません。


実際には、商談に付随して発生する案件の情報や見積書の情報などもありますし、顧客とのやり取りは1年分で終わるわけではなく、2年、3年と溜まって行くわけですから、その中から意味のあるデータを引っ張りだそうとするのは至難の業となります。


営業担当者の商談データであってもこのようなペースでデータが増えてくるわけですが、「コネクティッド」の仕組みを作って顧客とつながり、毎時間でもデータ収集するようなことをしたら、顧客数×24×365件のデータが一年で蓄積されることになります。DXが進めば中小企業であっても大量のデータが蓄積されることがご理解いただけたでしょうか。これからは中小企業であっても、AIを活用するしかないのです。


AIとは何か

そもそも、AI(Artificial Intelligence)とは何かを考えてみましょう。AI(人工知能)とは、「ソフトウェアを用いて人間の知的ふるまいの一部を人工的に再現した仕組みのこと」です。だから「人工」知能なわけですが、経験やデータから学習し、そのふるまいがより適切なものになることで、人間が育っている(賢くなっている)ように感じているに過ぎません。この時、そこに人間の知能があるかのように「感じる」ことが重要なのであって、本当に知能があるわけではないのです。「AIはすごいもので、AIさえあれば人間は必要なくなる」といった過剰な期待を捨てて、全てはソフトウェアによって創られた人工物だと考えて、うまく利用すれば良いのです。


今やAIもクラウドサービスで利用できるようになっており、デジタル人材がいない中小企業でもディープラーニングのような最先端のAI活用が可能です。但し最先端と言っても、万能ではないし、学習するためのデータがなければそもそも使えませんから、過剰な期待はせず、人間の限界を超えるためのツールだと割り切って活用すべきでしょう。


ルールベースAIを作り込んでみる

人間の限界を超えるために実務で有効なのは、最先端のAIではなく、一世代前のAIです。ディープラーニングに代表される新しいAIは、画像や音声などのように、人間ならその違いがすぐに分かるのに、コンピュータには判別が難しく、何が正解かという答えがないものを扱おうとしています。猫を画像だけで判別しようとするといろいろな種類の猫がいたり虎や豹のような似たような動物もいたりするので、うまく正解を教えられないわけです。そこで大量の猫の画像を学習させることで、正解を教えなくても判別できるようになるといったことがディープラーニングで可能になったのです。それは素晴らしいことなのですが、人間が見たら猫か犬か、虎や豹との違いなどパッと分かるわけで、AIとしては進化したけれども使い道は限られてしまいます。


それに対して一世代前のAIは、ルールベースAIと呼ばれるもので、正解があってそれを人間が教える(事前登録する)ことで、大量のデータの中から正解をピックアップしたり、人間の判断を正解に導いたりするものです。エキスパートシステムと呼ばれたりもします。


中小企業であっても、1年2年とデータが蓄積されて行くと人間には処理できない量になります。そこにルールベースAIを活用します。何万件、何十万件といったデータを人間がチェックするのは大変ですが、ルールベースAIなら確実にその中から正解を選び出してくれたりするのです。ルールベースAIの良いところは、データが大量に溜まっていない段階でも機能してくれることです。先に正解が仕込まれているので、大量データを学習して正解を導く必要がないからです。もちろん、人間の既知の知恵やノウハウを超えた知見がAIによって導き出されるといったことはないわけですが、AIが出した答えが本当に正しいのかどうか人間には分からないといったことにもなりません。


私の会社では、私が30年以上に渡ってコンサルティングして来た知見をAIに注入して、「すぐに対応すべき顧客」「上司が介入すべき案件」「追加提案すべき顧客」などを担当者本人やその上司にお知らせするような仕組みを作っています。いろいろな条件で検索したりすれば抽出できなくはないのですが、何千件、何万件もある商談や案件、顧客の中から探し出す手間を考えたらとても現実的ではありません。しかし、デジタル活用が進んで、社内にはデータが蓄積されているのですから、それを有効に活用したいのです。そのために必要なのがAIです。


「そんな程度の仕組みはAIじゃない」と言うなかれ。AIとは、ソフトウェアを用いて人間の知的ふるまいの一部を人工的に再現した仕組みに過ぎません。人間の手間を省いて大量のデータの中から必要な情報を抽出することができれば、充分人間の知的ふるまいを再現したことになるのです。


ルールベースAIなら、No Codeで作り込むことも可能です。データが大量に溜まって、正解のない知見をAIに発見してもらいたいと思った時には、外部のクラウドサービスを活用しましょう。スポットで利用するだけなら大した費用もかかりません。


DXを進めて、人間の限界を超えましょう。

 

プロフィール

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋

中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ

横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。

1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)

またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)


文化放送 月曜19時30分から放送:長尾一洋 ラジオde経営塾

「デジタル人材がいない中小企業のためのDX」

同じカテゴリのコラム

イノベーションズアイに掲載しませんか?

  • ビジネスパーソンが集まるSEO効果の高いメディアへの掲載
  • 商品・サービスが掲載できるbizDBでビジネスマッチング
  • 低価格で利用できるプレスリリース
  • 経済ジャーナリストによるインタビュー取材
  • 専門知識、ビジネス経験・考え方などのコラムを執筆

詳しくはこちら

お役立ちコンテンツ

  • 弁理士の著作権情報室

    弁理士の著作権情報室

    著作権など知的財産権の専門家である弁理士が、ビジネスや生活に役立つ、様々な著作権に関する情報をお伝えします。

  • 産学連携情報

    産学連携情報

    企業と大学の連携を推進する支援機関:一般社団法人産学連携推進協会が、産学連携に関する情報をお伝えします。

  • コンサルタント経営ノウハウ

    コンサルタント経営ノウハウ

    コーチ・コンサルタント起業して成功するノウハウのほか、テクニック、マインド、ナレッジなどを、3~5分間程度のTikTok動画でまとめています。

  • 補助金活用Q&A

    補助金活用Q&A

    ものづくり補助金、事業再構築補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金及び事業承継・引継ぎ補助金に関する内容を前提として回答しています。

  • M&Aに関するQ&A

    M&Aに関するQ&A

    M&Aを専門とする株式会社M&Aコンサルティング(イノベーションズアイ支援機関)が、M&Aについての基本的な内容をQ&A形式でお答えします。

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。