「デジタル人材がいない中小企業のためのDX」

第4回

DXで業務を変えるポイント『分散入力即時処理』

長尾 一洋 2022年6月8日
 

武器を手に入れたらどう戦うかを考えよう

No CodeというDXを進めるための武器を手に入れたところで、改めてDXをどう進めて行くかをここからは考えて行きましょう。DXの成功事例ばかりを追いかけていると、他社がすでに手に入れたのと同じような武器を手に入れたところでDXをやり終えた感が出て来るので注意が必要です。


DXとは、単発のIT導入ではなく、単なるデジタル化でもなく、限界費用ゼロというデジタルの特質を自社の経営に取り込んで行く継続的な取り組みです。武器を手に入れただけで満足せず、その武器を使いこなして「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」が重要なのです。経済産業省のDX定義を思い出しましょう。


DXを継続的に進めて行く上で着目すべき一つ目のポイントは「分散入力即時処理」です。



紙を使った業務プロセスのままデジタル化してもDXとは呼べない

DXは業務そのものや業務プロセスを変革して行くものですから、紙での処理をただデジタル化しただけでは、ペーパーレス化ではあってもDXとは呼べません。しかし、DXを進めようとしているのに、「紙でやっていた通りの業務処理を再現して欲しい」というニーズが結構あります。なぜですか?と聞くと「それが慣れているから」と堂々と答えるわけです。こんな現場の声に従っていてはDXなどいつまで経っても実現しません。


紙には紙の良さがあり便利さもありますが、紙ならではの制約もあります。大きさが決まっていて文字量に応じて広がったりしませんし、記入が必須の箇所もチェックしてくれません。書類の種類を増やしたくないために、本来なら別のフォーマットにした方が分かりやすい場合でも一枚に統合して、〇で囲んだり、チェックを入れたりして使い分けたりすることがあります。その場合には、不必要な項目が出来てしまったりして、記入漏れを見逃す原因になったりもします。にもかかわらず、それをデジタル化しようとすると「紙の書式を再現してくれ」と要求するわけです。


それを真に受けると、「ではExcelで処理した方がいい」となります。なぜなら紙の書式をExcelで作っていたから。それを紙に出力せずに直接入力すればペーパーレス化になると考えるのでしょうね。「紙にプリントアウトすれば欄をはみ出しても書けますが、Excelでははみ出すことはできず、フォーマットが崩れるか文字が隠れるかしてしまいます」と抵抗しても「いや、これが慣れているから分かりやすい」と言い出して、今度はExcelで作った帳票をメールに添付して送り始めます。


それまで紙で集めていた書類が、Excel添付メールに変わって、一応ペーパーレスになり、紙のコストや書類の郵送・FAXコストがかからなくなるので限界費用ゼロにはなるのですが、これでは、業務プロセスにほぼ変化はありません。


こうした時に考慮したいのが、分散入力即時処理です。No Codeツールで分散入力即時処理の仕組みを作ってみましょう。


アルコールチェックの集計システムを作ってみる

たとえば、道路交通法が改正されて2022年4月から一般の事業者でも義務化された車両運転時の酒気帯び確認の実施記録を例に考えてみましょう。Excelで作ったような紙のフォーマットは例示されていてネットからダウンロードして使えるようになっているのですが、紙を使うと、記入は簡単でもそれを集めたり保管したりする作業が必要になり、そもそもちゃんとチェックしているのかどうかを確認するのも、対象人数や拠点が多くなると大変になってしまいます。


これをNo Codeの仕組みを使って、各現場でスマホやタブレットによる分散入力を可能にすると、入力した瞬間に自動的に集計されて、アルコールチェック結果が本社なり担当部署なりで居ながらにして把握することが可能になります。実施漏れもすぐに分かりますし、酒気帯びなど問題があった場合には自動でアラートが届くような仕組みを実現できるのです。


このような業務や処理が他にもありませんか? 各現場、各人が直接入力すれば5分で済むような業務も、それを紙やメールでとりまとめて、入力し直して・・・とやっていると、対象者が100人いれば入力だけで500分かかり、担当者が一人なら一日仕事になります。本社なり管理部門に書類を集めるのにも1~3日程度はかかるでしょうし、結果が分かるのがどうしても遅くなります。それが月に一回ならまだしも毎日行っている業務だったらどうでしょう。かなりの無駄が生じていると思いませんか?


大企業ならデジタル化さえすればコピー&ペーストで転記が出来るので、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入すれば再入力の手間は減らせるのですが、中小企業の場合には、RPAのコストに見合うだけの業務量がないので、人力で対応せざるを得ず、実はその裏で目に見えないコスト(時間)が発生していることに気付かずにいるのです。


社内の情報を電話、FAX、メールなどで集めて、担当部署が一括で処理している業務の中に、分散入力即時処理によるプロセス改革の余地がありますので、一度検討してみてください。

 
 
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プロフィール

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋

中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ

横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。

1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)

またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)


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