「デジタル人材がいない中小企業のためのDX」

第1回

DXの本質とは限界費用ゼロでビジネスを拡大させる武器を手に入れること

長尾 一洋 2022年4月20日
 

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か

日本企業の生産性向上、日本経済の成長・発展のためには、デジタル化を進め、デジタルの力を取り入れて行かなければならないということは、誰しもが認めるところとなっています。コロナパンデミックにおいて保健所からの新規感染者数の報告がFAXで送られ、それをまた自治体が入力し直して取りまとめているために、時間がかかりミスも発生していると報道されたのは、日本におけるデジタル化が如何に遅れているかを象徴するものでした。「これではいけない」と多くの人が思ったのでしょう。DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉があちこちで聞かれるようになり新聞紙面でも毎日のように目にします。

元々DXという概念は、2004年に、当時スウェーデンのウメオ大学の教授であったエリック・ストルターマンが、”The digital transformation can be understood as the changes that digital technology caused or influences in all aspects of human life.”「人々の生活のあらゆる側面にデジタル技術が引き起こしたり影響を与える変化のこと」として提唱したものです。

これではよく分からないので、経済産業省の定義を参考にしましょう。経済産業省は、2018年に発表した「DX推進ガイドライン」の中で「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と定義しています。ちょっと長いですが、DXの範囲や目指すべきゴールが示されていて、分かりやすいと思います。

要するに、DXとは単にIT導入したり、デジタル化したりする取り組みではなく、製品やサービスも見直し、ビジネスモデルまで変えて、組織やその風土まで変えて行くもので、最終的には、競争優位性を確立するものでなければならないわけです。

「そんなことが出来るなら大いに結構だが・・・」という声が聞こえて来そうです。

 

日本企業の現状は

私は、DXという略語からして、日本では「デラックス」としか認知されないだろうと思っていましたが、コロナ禍もあってデジタル活用の重要度、緊急度が増して、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉も一定の認知がされて来たようには思います。

しかし、まだまだ単発のデジタル化や単なるITの導入であったり、ペーパーレスやハンコレスが実現したといったレベルの話が多く、ご承知のようにコロナ禍におけるテレワークも大企業レベルでも半数程度、中小企業レベルでは2、3割程度しか実施していないというのが現状でしょう。

DXに関する解説本なども多数出版されていますが、その多くは米国企業の事例やIT企業のビジネスモデルを紹介するものであり、日本の一般企業にとって参考になるものではないように思います。特に、本稿では、デジタル人材がいない中小企業にターゲットを絞っていますから、そもそもアナログの業務ばかりでペーパーレス化も覚束ない状態なのに、DXと言われてもピンと来ないというのが実情ではないでしょうか。

デジタル人材もおらず、経営者もデジタルの何たるかを理解していない企業に、「IT導入補助金」などの資金の手当てをしても、ITベンダーから勧められたシステム導入をするだけで終わってしまい、DXなど程遠いことになってしまいます。そこで本稿では、デジタル人材がいない中小企業が如何にしてDXを実現して行くべきかに絞って解説してまいります。

(中小企業の定義は中小企業基本法によるものや税法上の区分などがあり業種によっても違うのですが、分かりやすくするために本稿では業種を問わず資本金1億円、従業員300名未満の企業を中小企業と呼ぶことにします。)


デジタルを競争優位性確立に結びつけるポイントは限界費用ゼロ

システム導入やクラウドサービスの利用もデジタル化の一歩であり、DXの一部であると考えても良いですが、その時に、コストダウンばかりに着目しないことが重要です。多くの場合、システム導入の効果は紙の処理からデジタルに移行することで得られるコストダウン幅で評価しようとします。それが最も分かりやすく確実だからです。なぜデジタル化するとコストダウン出来るのかというと、デジタル処理は限界費用がゼロ、すなわち業務が増えても追加コストがかからないからです。紙の処理はお金がかかっていないように思いますが、一枚数円のコストと手間を伴います。デジタルは初期費用もしくは固定費用を払えば基本的に追加コストはゼロです。

それでいいじゃないかと思われるかもしれませんが、コストダウンはかかっているコスト分下がったらそれでおしまいで、計算しやすいけれども限界があります。大企業で多大なコストがかかっている場合にはコストダウンだけでも大きな効果が見込めるわけですが、そもそもコストの絶対額が小さい中小企業では、仮にゼロになったとしても高が知れているのです。


中小企業がDXで競争優位性を確立するためには、限界費用ゼロというデジタルの特質を最大限活かす売上アップ、数量アップ、事業拡大にデジタルの力を使うべきです。言い換えると、中小企業におけるDXの本質は限界費用ゼロでビジネスを拡大させる武器を手に入れることなのです。


 
 
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プロフィール

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋

中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ

横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。

1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)

またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)


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