新規事業開発における123(いろは)

第7回

第六話 「事業採算」と「市場評価」

亀川 賢治 2019年8月7日
 

新規事業の採算性と評価は、どの段階でどう考えて見るか、によって意味合いが変わる。


まず、新規事業の調査・企画・計画・準備・テストマーケティングまでの段階で、本格的に実施・移行する前の場合は、一般的にSWOT分析を主とした事業計画書を評価し、事業採算を試算、その可否を判定する。


ただし、新規事業の組織としての前提条件が異なるとその可否はおのずと変わってくる。それは、新規事業を推進することを前提にした組織的思考①と、新規事業のリスク抽出と分析により、推進しないことを前提とした組織的思考②である。この2つの前提条件では、可否の判定プロセスが大きく異なり、採算における評価指標の立て方も市場評価の基準も変わってくる。




①の場合、その事業の将来的収益高や利益についての楽観的予測の実現性を評価することとなり、②の場合は、投資した金額をいつまでに回収できるか、が最優先であり、損失することが許容されないルールのなかでの判断となる。


この前提条件の相違が新規事業そのものの成功の可否の大部分を決めると言っても過言ではない。しかし実は、①及び②のどちらかを選択することを指しているのではなく、①と②のバランスをどのように考え、そのフレームを構成するかということなのである。最悪なケースは、評価する人間が、①か②のどちらかの意思・意見を持ち、決めた上で議論することである。評価する人間は、①も②も理解した上で、それらをスコア化して、冷静な評価をすべきなのである。昨今では、AIを活用して試算し予測する方向が「技術の進化」といわれているが、私は、事業そのものを推進するのは人間である以上、評価のスコア化の要素の一部に、感性的評価(個人の価値観)を入れるべきと考える。


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さて、新規事業を実施に移した後はどう考えるべきか?


この場合は、前述とは異なり、日々一刻の時間軸に沿って評価指標が同期して追跡できる定量データ(売上×顧客数)だけに捕らわれがちだが、そのデータは既に過去の集積データであるので、動き始めた事業の将来予測の指標として評価するのは不十分だと思われる。当然、この定量データの追跡・管理は重要である。しかし、新規事業の場合、それまで把握できていないデータ、例えば競合他社や既存市場情報、SNS等での感性データや履歴も新たに加わることも意識しなくてはならない。


また、既存市場に(自社にとっての)新規商品を投入した場合、どんなことが考えられるか?


この場合はまず、顧客はその市場に存在するが、自社は新参者である。自社が既に別の市場で一定の成果を上げていたとしても、その市場の顧客にとっては自社はあくまでも新規の存在である。


あるクライアントで、このようなケースで6年経過した段階で、そのクライアントの顧客(企業)の経営者へインタビューを実施したことがあった。その時クライアントは、新規商品を投入する前からその顧客企業とは取引があったため、既存市場の時と同様にその顧客企業をロイヤルユーザーだと思っていた。しかし意外にも、そのロイヤルユーザーだと信じ切っていた顧客企業が、インタビュー内で競合支持の意見を発したのである。これには、クライアントもショックだったようで、その後その顧客との接し方を慎重に進め、顧客を大切にすることを意識し、何とかリピートオーダーを獲得した。自社の立ち位置を見誤ってはいけない例である。




「新規事業」を、スタートからどこまでと区切るかは、売上・顧客数・販売数・期間・地域等、その評価指標の精度と採算性などで定義することができる。よって、先述した通り、単純に時系列のみの定量データの追跡だけでは、片手落ちとなる。新規事業のスタート前までに、定義できる評価基準と、スタート後に追跡しなければならないデータ管理を考え、維持・継続することが肝要である。そして、新規事業の合否判定の大きな指標は、単一事業として自立歩行できるかどうか、が大きな意味での第一段階の区切りであると考える。


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以上、数回にわたって、私見を中心に述べさせていただきました。あくまでも、過去の現場での経験と現時点での日本市場における状況を鑑みて綴ったものです。最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。心より御礼申し上げます。


「もっと、こんな話が聞きたい・・・」とか、「こんな場合って、どうすればいい?」などのご要望や疑問があれば、是非、ご連絡ください。また、何かご相談もしくは、情報交換等お望みの場合は info@lyst.jp へご連絡ください。可能な限りご対応させていただきます。最後に、お付き合いいただいた方々の今後のご多幸とご健勝を心よりお祈りいたします。


 
 

プロフィール

株式会社LYST
代表取締役 亀川 賢治


半導体製造装置の販売に従事。電子立国の日本の技術を支える最後の時期に、16M/64M DRAMにおける国内の各地の製造ラインへの導入を経験。


「インターネット」黎明期に、下流でのIT機器関連の業界に移動。ここでデジタルCMS(Color Management System)を学び、OEM先での販売促進活動として「カラーマネージメントセミナー」を展開。


その後、機会を得て、インターネット業界(Web1.0)へ方向転換。スポンサー企業の支援で、新会社設立。第一次ドットコムブームにおいて、ウェブビジネスを経験。コンサルティング的方向性を模索しつつ「ハンズ・オン」による「仕掛け人」的現場実務を重視し、評価・評論だけのコンサルティングではない新たな挑戦を続ける。


HP:株式会社LYST

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