新規事業開発における123(いろは)

第6回

第五話 「評価基準」とスタッフ

亀川 賢治 2019年6月21日
 

新規事業の実務が定着し始めると、必然的に定期報告をしなければならない。そして、その報告内容についての是非及び、評価が発生する。


 この「評価」は、必要であることは理解できるが、私は一番苦手で、定期報告業務を非常に負担に感じていた(過去のサラリーマン時代ではあるが・・・)。理由は、①報告内容に責任が持てない、②報告する相手が嫌い、③先の見えない状況を報告する必要性を感じない、ということであった。もう少し詳しく言うと、


① 報告書に責任が持てなかったのは、事実は別として、その他の前後の文脈の精度をどう測るべきか、その方法論を持ち合わせていなかった。

② 報告相手は、自分を理解しているわけではないため、報告することで、相手が文句を言ったり指摘をするための口実を与えるだけだと考えていた。

③ 私自身が、いったん口にするときは決断であり、その言葉の重みに責任を強く感じる性格だった。


ということである。自己分析を今更ながら恥を承知で露わにしてみたが、冷静に考えると、20年前にここで記していることが意識できていれば、もっと質の異なる仕事や実績が創出できたかもしれないと思う。




さて、新規事業プロジェクトを定着させるためには、【1】評価基準の設定、【2】報告内容の設定、【3】情報共有の範囲と報告を受け止める責任者を明確にすること、が必要である。大組織では、この3点のフレームはしっかりしている場合が多い。


【1】評価基準の設定:この本質は、新規事業の進捗と可能性、将来性の何をチェックすべきということである。まず設定するのは、スケジュール計画と現状の進捗率とのGAPの有無、そして実行されているタスクの達成率、予算の状況、である。スケジュール計画通りに進んでいるか、進捗率とGAPがあるのか、ないのか。タスクの達成率をどのように定量化するのか。予算の状況は、PL(損益計算書)を基本とした原資の消費状況が妥当かどうか。これらを優先的にチェックするべきである。


特に予算については、いきなりコストセンターとしての評価を迫るのではなく、プロジェクト全体の成功へのシナリオを鑑みた場合のバランスとペース配分が妥当かどうか、を見るべきである。日本企業の管理職や経営層は、新規事業における予算の捉え方を現状の事業と同一的に見比べ、スタッフの個人評価と直結したロジックで考える場合が多い。

これにより、才能ある人材が流出したり、若手が育ちにくい環境になってしまっている。新規事業の評価とは、「投資」に対する管理である。いきなり、売上や利益を目的とした評価は、論外と思われる。むしろ、可能性の評価であり、失敗することも想定の上で考えていくべきである。



※画像出典:経営学検定公式テキスト「人的資源管理/経営法務」



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【2】報告内容の設定:報告するのは、新規事業のプロジェクトにかかわるスタッフ(主にチームリーダー的人間)あり、その報告の場面では、個人対会社の構図が前面に出ている場面も少なくない。よって、チームリーダー的人間は、社内に向かっての神経を浪費することになってくる。これでは、チームとして進めてきたものごとが、一局集中してしまい、新規事業そのものの可能性を委縮させることになりかねない。報告内容は、シンプルにポイントを表現すべきであり、月次での御前会議用の資料を作るようなことは好ましくないが、何も報告しないのは、もっと駄目である。


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【3】情報共有の範囲と報告を受け止める責任者を明確に:最後に、報告する相手は、プロジェクトのコミュニケーション・フローの長(=責任者)、ということを明確にすることである。その際、前述の【1】【2】に対する共通認識があることが前提である。と同時に、報告する側は、報告する相手が一番何を望むか、を明確に把握しておくことである。恐らくは、職責等でその価値観は異なる。かといって、その価値観に全て合わせることが是ではない。むしろ、報告の中から、進行中の新規事業の魅力を徐々に感じてもらうことが重要であり、それは本格的に事業化した際に、想定する顧客の目線も含まれていると考えるべきである。報告を受ける側は、基本的に肯定的にその内容を受け止めるべきである。


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さて、新規事業プロジェクトにかかわるスタッフとして、論理的思考を持つことは前回伝えたが、具体的にどういうことか?それはヒトの持つ五感のアンテナを立てて広げ、外部情報をいかに取捨選択できるかということである。


例えば、ここ2~3年それまで激減していた電車内の広告が徐々に増え始めていることにお気づきだろうか。それは、なぜか?




個人所得の統計結果の是非が問われてはいるが、これとは別に、広告にこのような原資(資金)をかける余力が戻っているということである。つまり、経済が何かしら上向きとなっている、というわけである。その要因はなにか?・・・ここでは経済学的な論旨は割愛するが、もっと進化した形として、デジタルサイネージが増えている。そして、より多くの情報が流通している。これにより、消費(個人、法人問わず)行動にどのような変化が起こっているのか?・・・と考える。またこれは、ショッピングモールでも同様で、様々なPOPやキャッチがある。そこには、各店舗へ誘導する様々なシナリオがあるのかないのか・・・などと考えると、外に出た瞬間から周囲のすべてが情報の洪水なのである。


このような環境において、スタッフ自身がどのようにその皮膚感覚を磨き、感度の良い思考をしているかについては、通常は、職能・人事の評価対象ではないが、新規事業においては、この感性的能力が非常に重要かつ大きな起点となる場合が多い。これをどのように評価し、その価値をどうスタッフ自身のモチベーションやキャリアアップにつなげることができるかが、その組織(チーム)の原動力と価値の大ききを決める肝とも言える。


大きな組織では、高評価(手柄)は上司の自己PRに使われ、低評価(失敗)は、その部下に責任を負わせる場面が多い。このような空気感では、人材は育ちにくく、組織DNAも停滞する。引いては、その企業のブランド価値も低下する。



※画像出典:経営学検定公式テキスト「人的資源管理/経営法務」



昨年のガートナージャパンでのコンベンションで、AIやロボットが進化し、業務現場の変化が進行する際に、何が今後一番重要となるのか、という提言があるセッション内であった。それは、改めて人材教育であること、そして、組織内人材(スタッフ)のモチベーションを維持・増大させることが、自社のブランドや組織力を強くすることとなり、生産性が向上し、最終的には事業そのもの拡大や増収増益につながる、と結論付けていた。また、人材教育は、肩書や権限に関係なく時代の変化に合わせた情報やその理解を組織内全体で共有し、進めていくことが肝要であるとしている。


過去、自分は「それなりに頑張った」と思えても、自分自身が期待する評価が得られることはなかった。そこである時、自身の中に表向きの目標と自分の目標の、2つを置くこととした。表向きの目標とは、組織内で合意納得できる目標値やゴールである。一方、自分の目標とは表向きの目標の30~50%アップの数値目標である。自分の目標の達成のためには、通常業務の中で目標値の1.5倍以上の努力と緊張感を維持継続することとなり、それで初めて、表向きの目標の100%を超えることができた。結果、自分の目標の達成を目指すことで、表向きの目標の120%前後が自身の常勝パターンとなった。


しかし、それが否定される場面を外資系企業で経験した。それは、目標値に対して120%超えを達成した時、本社からは高評価が得られるどころか、Forecast(予定・予測値)の精度が悪いと言われ、場合によっては、株主代表者訴訟対象とまで言われたのだ。その瞬間唖然としたが、一方で株価の変動が自分の仕事の結果と直結していると理解した瞬間でもあった。


新規事業もこれを逆説的に考えると、成功の可否を問うのではなく、結果がその企業の近未来を左右し業績に直結していることを、そのチーム参加者全員がきちんと理解すべきである、と言えるのではないだろうか。


(次回へ続く・・・)




 
 

プロフィール

株式会社LYST
代表取締役 亀川 賢治


半導体製造装置の販売に従事。電子立国の日本の技術を支える最後の時期に、16M/64M DRAMにおける国内の各地の製造ラインへの導入を経験。


「インターネット」黎明期に、下流でのIT機器関連の業界に移動。ここでデジタルCMS(Color Management System)を学び、OEM先での販売促進活動として「カラーマネージメントセミナー」を展開。


その後、機会を得て、インターネット業界(Web1.0)へ方向転換。スポンサー企業の支援で、新会社設立。第一次ドットコムブームにおいて、ウェブビジネスを経験。コンサルティング的方向性を模索しつつ「ハンズ・オン」による「仕掛け人」的現場実務を重視し、評価・評論だけのコンサルティングではない新たな挑戦を続ける。


HP:株式会社LYST

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