新規事業開発における123(いろは)

第5回

第四話 「新規事業」プロジェクトの展開と実施

亀川 賢治 2019年5月17日
 

さて、新規事業を始める際、現実的にはそれだけを仕事として他の業務をそっちのけにすることは困難である。日常業務の重要性は誰もが理解していることではある。よって、新たな仕事や業務については、抵抗的感情は否めない。この場合、どうすればよいのか?


解決法の一つとしては、プロジェクトリーダーが馬鹿になれるかどうか、ではないだろうか。ここでいう「馬鹿になる」とは、最も集中力を上げ、それを維持・持続できる力をもつことである。決して、にぎやかで、体育会系の元気さをもつだけのイメージではない。そしてこのプロジェクトリーダーは、組織上の職位や部門にこだわらない。その人選は非常に重要であるといえる。


一方で、単純にプロジェクトリーダーの存在を決めるだけでは片手落ちとなる。このプロジェクトリーダー=前述の「馬鹿」になれる人間を、牽制し、冷静に連携できる人間(=お目付け役)が必要である。ただし、単にプロジェクトに否定的な思考で牽制をかけるだけでは失格である。ある意味、「馬鹿」になれる人間のフォローが要求される。そしてこの最小単位には、「新規事業ネタ」を自分事として準備し、前回までに記したコンセンサスが整っていることが必要である。これで「新規事業プロジェクト(チーム)」の発足となる。




このチームの進め方だが、前回の事例でも記した通り、最初はなかなかまとまらないし、進まない。しかし、それを避けては通れない。全体計画の中において、初期段階にかかる時間的なロスは、必要なロスとして見込むべきである。このロスは無駄ではないが、時間をかけろということではない。逆に、この段階から抜け出せず、2年も経過した時点で、相談を受けたこともある。その際に驚いたのは、ヒトも時間も原資も半分以上消費した状況だった。これでは、経営層は事態を知った瞬間に青くなるだろう。いかに、コトを進めるべきか?最初の準備段階は、非生産的だが、「なにをどのように考えるか?」が大変重要である。


次に、新たな業務(仕事)の定着化を図るために、様々な工夫が必要となる。その一つが、コミュニケーションの円滑化を図るためのルールや仕組み作りである(ただしこの際に、ITに依存しすぎることはお勧めしない。)


唐突だが例えば、ラグビーは後ろにボールをパスしながら前進する陣取り的ゲームであるが、グラウンドに立っていざ競技に参加すると、その本質は「集合」と「離散」の連続的動きである。止まった状態でボールを待つことはまずない。新規事業は実はこれと似ており、常に流動的で、どのようにでも変化する。未だ何も定型化された形はない。組織のコミュニケーションも同様である。ミーティング、電話、メール、TV会議、現場見学、調査、分析、等々一つの行動に収まるものではない。いかに、適時必要な情報共有がなされているか。参加メンバーのことを全員が理解していなければならない。その中で各々のミッション(役割)があり、そのミッションを繋げた大きなコトの実行がこのチームの動きであり、それが見え始めると、業務(仕事)の定着化が図られる。




あるクライアントで、定例会を3~4回/月実施していたが、約一年が経過しても、当初の計画の3割も進まなかった事があった。その原因は、お互いの「当たらず触らず」的な空気感にあった。個々の主張や意見はもっともなのだが、互いの繋がりや相互理解の関係性(コンテクスト)が非常に浅かったのだ。この状態では「本音」は封印され、「ある一定期間のグループワーク」と化していた。よって、事業としての定着化が弱く、永続性が期待できなくなっていたのである。


「新規事業」プロジェクトに直接関与するメンバーは、「自社の看板」の一部として、インナーブランディングにおけるコミュニケーションを大事にしてもらいたいと思う。「新規事業」プロジェクトメンバーは、プロジェクトを進めるために社内の関係部署や関係人員に、必要な働きかけをする必要がある。メンバーがあまり強い表現(強制的な表現)をすると、昨今は「XXXハラスメント」と指摘されてしまうので、全くやりづらくなっているのが実情かもしれない。その場合は、外部の協力を得ることも一案と思われる。費用は発生するが、いざとなればその費用を外部への責任転嫁へのカードとして使うこともできる。(そのほうが、社内的に丸く収まる・・・などという声もある・・・)そして本来通り、自社内で賄えない様々な業務を委託することもできる。


最終的には、消費した原資やリソースは、新規事業の創出へ転換できるように考え、進めるべきである。これらの段階を経て、ある程度方向性が見えてくると、事業=ビジネスとして具体化が進む。そして、本格的に事業として前進することが実感できる。




金融業界で、ユニコーンという言葉がある。これは、「ユニコーン企業」とも呼ばれ、時価総額(株式評価額)が10億ドル以上と評価される、未上場のベンチャー企業のことをいう。それは、有望なビジネスモデルを持ち、企業価値が非常に高く、創業間もない企業が極めて少ないことから、「噂には聞くが誰も見たことがない」というギリシャ神話に出てくる伝説の一角獣(Unicorn)の名前に例えられたもの。日本の企業文化では、この「ユニコーン」が生まれにくい空気感が否めない。ここでいうユニコーンは、第二話でご説明した『④新規市場に新商品を投入・展開』する事業の場合が多いとされるが、最大の課題は、「事業の継続性」と考える。


かつて、携帯電話の「着メロ」は、2000年当初ブームが起こり、数社が株式公開を果たしたが、結果、サービスそのものは、10年以上の継続は難しかった。同様に、「携帯コミック」などの電子書籍コンテンツも、ハードウェア攻勢(Kindle、Kobo等)があったがその勢いは衰え、更に現在では、スマホやタブレットにより新聞までも衰退気味である。このような様々な変遷の加速は、その流れを捉えることさえもままならない。そしてこれは、日本企業で幾度となく指摘されてきた、決断が遅いと言われるような結果かもしれない。よって、事業の継続とプロジェクトの展開において一番重要なのは、「スピードとスケジュール管理」ではないだろうか。


(次回に続く)

 
 

プロフィール

株式会社LYST
代表取締役 亀川 賢治


半導体製造装置の販売に従事。電子立国の日本の技術を支える最後の時期に、16M/64M DRAMにおける国内の各地の製造ラインへの導入を経験。


「インターネット」黎明期に、下流でのIT機器関連の業界に移動。ここでデジタルCMS(Color Management System)を学び、OEM先での販売促進活動として「カラーマネージメントセミナー」を展開。


その後、機会を得て、インターネット業界(Web1.0)へ方向転換。スポンサー企業の支援で、新会社設立。第一次ドットコムブームにおいて、ウェブビジネスを経験。コンサルティング的方向性を模索しつつ「ハンズ・オン」による「仕掛け人」的現場実務を重視し、評価・評論だけのコンサルティングではない新たな挑戦を続ける。

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