新規事業開発における123(いろは)

第4回

第三話 「始動」するための準備

亀川 賢治 2019年4月10日
 

前回までの内容はいかがだっただろうか?ここから、いよいよ実務に入るための準備と実践となる。


改めて申しておくと、このコラムでは、新規事業開発についてあくまでも論理的思考とマネージメントを中心に事例を交えてご紹介しており、より具体的な手法やテクニックは割愛させていただく。よって、基本的なプロセスのみを整理することとする。


まず、「新規事業」を検討する段階において、一般的に言われる3C(Company、Customer、 Competitor)はご周知のことと思うが、それぞれのCを今一度、冷静に見直せるだろうか?幾度か、社内教育的な現場で、経営層と社員とのディスカッションを見た機会があるが、両者が一致している企業は殆ど無いといってよい。むしろ、個人がバラバラな意見や認識を持っている。


当然、職務・職責の違いで意見や認識の相違が生じることは確かだが、自社の「事業ドメイン」をすっきりと回答される場面は少ない。自社が「何屋」かが表現できなければ、その企業は何を生業としているのかと心配になる。組織内でこの自社の「事業ドメイン」の認識が統一されていない場合、その後の進捗においてたとえそれが僅かなズレだったとしても、やがては大変大きな乖離(GAP)となる。この認識のズレは、単なる言葉上の問題ではなく、その組織、企業、の価値判断につながる。


例えば、自家用車を考えてみると、販売するカーディーラーは、顧客にいったい何を提供しているだろうか?通常、「最新の装備と快適な乗り心地、そして安全を備えた、充実した車です。」と最初に説明されるだろう。その次に、最新の装備内容・機能の説明、そして、燃費の向上、事故対策の装備の説明、等々が続く。まさに、すばらしい製品としての車を売ることがカーディーラーの価値提供であった。住宅展示場でも同じようなシナリオではないだろうか?2000年以前は、これで問題ない場合も多かった。


しかし今現在、「自家用車」の価値とは、と考えると、少々違ってくる。まず、「なぜ、車を所有するのか?」からはじまる。昨今の若年層の車離れは業界全体でも焦点となっているが、仮に、自家用車と比較するものはいったい何かというと、今の若者にとって、「スマホ」がその代替価値のものではないだろうか。かつて、自分も免許取りたての頃は、車が欲しくて自動車ローンで自分の車を持ち、運転して、出かける喜びを味わったものである。その際に、薄給の中から毎月2~3万円のローン返済をしていた。いまや、スマホは同等の金額価値として存在していないだろうか?




これは、時代と共にかつてのモノやサービスの存在価値が大きく変化していることに気づくと同時に、先の自社の事業ドメインも大きく変化せざるをえないと考えるべき、ということではないだろうか。個人レベルのものであれ、法人レベルのものであれ、もはや過去の価値とは異なり、新たな価値基準で消費・購買行動が行われている。つまり、今一度、自社の事業について真剣に考え、議論することが必要であり、経営層だけで物事を決めるのではなく、組織全体で思考し、順応・進化できる体質改善が前提となってくる。


「かつては・・・、昔は・・・、俺たちの頃は・・・」という中間管理職以上の職責をお持ちの方は、振返ることを優先するより、今このときから新たな情報を自身にインプットし、学び、新たな思考回路を再構築できるように、具体的に計画を立てることが最優先であると考える。そして、組織全体のマネージメントにおいても、実績や声の大きさで判断するのではなく、平等且つ、平易なスケールやKPIを検討できる組織に変えていく事が肝要である。特に、社内コミュニケーションにおいてのボトルネックは、①年齢差、②役割差、③性別差の3つと考えられる。


① 入社年次や、先輩・後輩の縦関係により、自由で素直な言葉が出せない

② 組織上の職責による、上下、主従関係

③ 男女差による、先入観や差別


組織のつながりを人体の臓器に例えると、脳は腸から吸収される栄養分が不可欠であり、心臓は肺によるポンプ機能が必要であり、それを全て繋いでいる神経と血液など、個別には考えられない。企業組織もこれと同様で、その関係性に、上下・優劣はない。全てが重要な役割を持ち、お互いの関係性の中で成り立っている。


さらに、「マーケティング的思考」に求められる3つのポイントは、a.データが扱える、b.自らシナリオを創れる、c.最新の技術や情報との連携が図れる(理解できる)ことである。


a.「データが扱える」とは、定量・定性に限らずデータを集計・分析し(使って)、そこから本質を読み取れる能力があることであり、単に複雑な計算式や、キレイな図表が作れることではない。このデータの理解力がその次に大きく影響する。

b.「自らシナリオを創れる」とは、a.をベースに、仮説を立てることが出来るか、ということである。前回までにお伝えしている通り、全くの「無(ゼロベース)」からは、発想は生まれにくい。ヒトは、少なからず感性に起因する思考を持つ。この起因には、データが重要となる。AIが発達しても、ヒトの思考判断においては、AIが踏み込めない不確かな部分が必ず含まれる。これが、仮定(仮説)であろう。

c.「最新の技術や情報との連携が図れる」とは、仮説を実行する上において新たなエッセンスを消化できるかどうかである。それが、新たに変化していく価値を持続する要素となると考えられる。


ヒトが思考するためには、多くの経験や情報を、自ら精査し、理解し、行動に移すことが必須となる。単に、多くの知識や技能だけでは、物事を起こせないということになる。個人レベルの能力で括るのではなく、規模が大きな場合は、これらを組織として機能化し、常に同期し、成長・拡大できる体制が不可欠になる。


新規事業に取り組む意識を持った場合、その時点から関係者(チーム員)は、五感のスイッチを切り替えることが必要である。例えば、単にネタ探しをするのではなく、目の前にある事実を「どうバラすか?」の思考モードへの切替である。




そして、新規事業開発の「始動」の準備についてだが、通常は当たり前のように感じ、何も関心がない事でも、何かに置き換えたり、もっと知ろうとしたり、好奇心と興味と想像力を持つことが第一段階となる。次に、情報・データのパーツ(部品)を繋ぎ合わせるが如く全方位の視点を持ち、様々な仮説を考え始めるのが第二段階。そして、そこに事実と具体的な物事を代入していき、シナリオに近づくのが第三段階であり、これが、創造力となる。この段階から、絵図が表現できると思われる。


新規事業開発の組織内での「始動」の準備とは、一言でいうとコンセンサスをとるということになるかもしれない。そのコンセンサスとは、「新規事業を成功させる」ということではないだろうか。大きな組織では、個人の意思に関係なく、業務命令としてそのプロジェクトやチームに参加している(させられている)場面も見受けられる。どんな場面においても、この受け身の姿勢だけは避けたい。


(次回へ続く・・・)


 
 

プロフィール

株式会社LYST
代表取締役 亀川 賢治


半導体製造装置の販売に従事。電子立国の日本の技術を支える最後の時期に、16M/64M DRAMにおける国内の各地の製造ラインへの導入を経験。


「インターネット」黎明期に、下流でのIT機器関連の業界に移動。ここでデジタルCMS(Color Management System)を学び、OEM先での販売促進活動として「カラーマネージメントセミナー」を展開。


その後、機会を得て、インターネット業界(Web1.0)へ方向転換。スポンサー企業の支援で、新会社設立。第一次ドットコムブームにおいて、ウェブビジネスを経験。コンサルティング的方向性を模索しつつ「ハンズ・オン」による「仕掛け人」的現場実務を重視し、評価・評論だけのコンサルティングではない新たな挑戦を続ける。

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