新規事業開発における123(いろは)

第1回

はじめに

亀川 賢治 2019年1月9日
 
昨今、「新規事業」なるキーワードでのご相談が多くなっています。
この背景には、時流の加速度的状況で、過去の経験や未来の予測が掴みにくい状況となっており、経営層は事業の拡大・継承・転換の判断に迷い、「前進するためには・・・」と、異口同音にこの事をテーマにしている節があります。

ここでは、「新規事業」の思考の起点から進め方~事業開始時の検証(合否判定)~継続における一連の流れの概念をご紹介します。

私は、2002年頃からBPO的な請負実務を経験し、幾つかの企業において新規事業の立上げ、新規顧客開拓等を経験し、現在は「マーケティング」を軸とした企業の事業戦略や実務実施等を支援しています。

さて、本構成は、5~6部(回)の構成を予定しています。
1. 「現状把握」と「思考プロセス」
2. 「新規事業」の4つの分類と事例
3. 「始動」するための準備
4. 「新規事業」PGの展開と実施
5. 「評価基準」とスタッフ
6. 「事業採算」と「市場評価」

本編は、中小企業のミドルマネージャー以上の経営層の方々にメッセージとして送りたい。

ここで、一つ新規事業の事例として現在進行中の事案をご紹介します。
既存市場での既存商品ではありますが、新たな消費者市場の創出を狙いとしています。

それは、「お茶」です。古くから存在し、誰もが知るものの一つです。この「お茶」、日本では大変貴重なものとして客人をもてなしたりする際に出されていました。今でも、日本の文化の一つとして来客に対して差し出す場面も多いと思います。

「お茶」のうんちくは、ここでは割愛させていただきますが、かつて昭和の頃は、家庭での晩餐のあとにゆっくりと家族でいただくものとしてあったと記憶しております。しかしながら、日本の家庭の生活様式が変化する大きな要因として、「共稼ぎ」が一般的になった今、自宅でお茶を入れる場面が減ったのではないでしょうか?私も普段の生活で、自宅でお茶を入れることが減り、コンビニやスーパーで販売されている、紙パックやペットボトルのものを購入し、飲んでいる場面が多いです。

この裏側では、日本全国の茶葉農家の危機的状況があります。2000年代初頭には、国内の茶葉農家は、5万件以上存在していましたが、現在ではこれが半分以下に激減しています。理由は、「売れなくなった」のです。つまり、日本人が自宅で「お茶」をいれて飲む場面が減ったようです。反面、清涼飲料水の類として、ペットボトルの「お茶」が広く普及し、果ては、駅弁につき物のあの「お茶」も姿を見なくなりました。

ここで、この状況を何とかしたいと考えた方がいます。その思いは、1.茶葉農家を存続させたい、2.地場産業振興と経済を何とかしたい、3.日本の文化の新たなスタイルを再興したい、ということです。4年前にこの取組を始めたBenefitea株式会社(静岡県)があります。


この創業者は、「今一度、真に旨いお茶とはどんなものか?」を思考し、ある特殊な抽出法で「高級ボトリング茶」の商品開発を進め、現在では有名百貨店での取扱がはじまっています。また、高級なものだけではなくもっと気軽に飲める商品として「スパークリングティー」も発売をはじめ、静岡駅GrandKioskの店頭に並んでいます。この話だけで終わると、単に新たな商品を開発して、嗜好性の高い特定の消費者を狙った、新商品の製造・販売となりますが、その裏側には、一歩踏込んだ思いがあります。それは、この商品によって、改めて「お茶」を見直してもらうことと、かつて自宅で入れていた「お茶」の再認識だけではなく、これを飲む場面(シーン)をもっと広げたいということです。「お茶」は老若男女問わず、誰でも飲めるものであり、「お茶」そのものが持つ本来のポテンシャルもあります。この、新商品を開発した創業者は、地元出身であり、本気で前述の3つのコンセプトに基づいた思考を続けてきました。(以後この「お茶」事業については、次回以降に少しずつご紹介します。)



温故知新という諺があります。私はいつもこの言葉を考えます。要は、全く無の状態から、何かを考え出すのは極めて、独創的かつ難易度の高い作業であり、閃きのような着想は、まさに神業のような、憑りつかれた感覚ではないかと考えます。

では、どのように考えるか?の前にヒト(人間)の「感性」について触れたいと思います。この感性とはどう考えるべきか?一般的には、個人の「センス」という言葉に置き換える方もいます。しかし、感性もセンスも、要は個人が何らかの判断(結論)を下します。この判断が、個人の意見や意思となります。この意見や意思は、どのように形成されたのでしょうか?例えば、「赤」色が好きなヒトに、「なぜ、赤色が好きなの?」と理由を尋ねると・・・若年層は「なんとなく・・・」という回答が多かったりします。少し年齢を重ねると、「フェラーリが赤だから・・・」とか、「広島東洋カープのファンだから・・・」とか、好きなことに理由や意義付けがあります。つまり、ヒトの感性は、過去の経験や記憶によってその思考回路が構成されていることになります。よって、「感性」とは過去の「経験×記憶×環境」によって形成されていることになります。つまり、「感性」とは無の状態からの閃きなどではないということになります。

では、これを「事業」に置き換えて考えてみましょう。どの業界、業種にも創業者が存在します。その創業者は、何を感じ、何を思い、何を考えたのでしょうか?恐らくは、先の「感性」のプロセスと同じように、創業に至る思考プロセスがあったのではないでしょうか?だとすれば、その契機(キッカケ)となる事象や履歴があるはずです。たとえそれが、感情的・情緒的なことであっても、何かしらの表現(アウトプット)があるはずです。それでは、今現在に割り戻して考えると、自社の中には沢山の経営資源や情報、履歴、歴史があります。つまり、思考プロセスを組み立てる元(ネタ)があるはずです。ただし、現存する多くの情報をそのままの状態では、思考プロセスに入れることは難しいと思います。その理由は、多くの情報は、無差別のまま精度にバラツキがあり、不要・不適切な情報も混在しているからです。そのまま、これらの情報を使ってしまうと、思考そのものに一貫性が失われ、矛盾が生じた際の修正が不可能な状態に陥ります。

結果として、企業組織内では、プロパガンダ的に責任を明確にすることが経営陣の仕事になってしまいます。これでは、本末転倒です。組織内で「経営企画」「事業開発」「マーケティング」などの部門は、日本企業ではあまり陽の当たらないイメージが強いです。もう一言付け加えるなら、「閑職」的ポジションであり、事なかれ的に時間の経過を待つだけの方々も見受けられます。非常に残念です。こんなに、多種多様なことを考え、創造することが仕事の一つになる事にワクワクしませんか?

子供のころ、アクションヒーローに思いを馳せ、親にやっとの思いで買ってもらったその玩具を手にした瞬間に、まるで自分がヒーローにでもなったような・・・

事業ではそんなに稚拙では困るのですが、少なからず、思考の段階では、会社のルールや枠に捕らわれることなく、自由に組み立てられるはずです。そして、そこからどうするか・・・(次回に続く)


 
 

プロフィール

株式会社LYST
代表取締役 亀川 賢治


半導体製造装置の販売に従事。電子立国の日本の技術を支える最後の時期に、16M/64M DRAMにおける国内の各地の製造ラインへの導入を経験。


「インターネット」黎明期に、下流でのIT機器関連の業界に移動。ここでデジタルCMS(Color Management System)を学び、OEM先での販売促進活動として「カラーマネージメントセミナー」を展開。


その後、機会を得て、インターネット業界(Web1.0)へ方向転換。スポンサー企業の支援で、新会社設立。第一次ドットコムブームにおいて、ウェブビジネスを経験。コンサルティング的方向性を模索しつつ「ハンズ・オン」による「仕掛け人」的現場実務を重視し、評価・評論だけのコンサルティングではない新たな挑戦を続ける。


HP:株式会社LYST

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