NY発:文化と言葉の壁を越えて” 伝わる”ロジカルスピーチ術

第15回

“それは難しいです”の意味は?

リップシャッツ信元夏代 2019年1月10日
 

ある在米日系グローバル企業で、アメリカ人部下B氏が日本人上司A氏に対して行ったプレゼンでのやり取りです。
ある提案を行ったアメリカ人上司に対し、日本人上司は「That’s difficult(それは難しい)」と伝えました。


さて、一週間後、何が起こったでしょうか。


却下?それとも見込みあり?


日本人なら、「それはちょっと難しいですね。。。」などといわれたら、「そうか、ダメなんだな」と理解してあきらめたり引き下がったりすることでしょう。


しかし日本に住んだこともなければ日系企業で働くことも初めてだったアメリカ人部下B氏は、1週間後、自分の提案内容を大幅に改善すべく試行錯誤し、「難しいチャレンジもこれなら実現可能!」と、意気揚々と日本人上司にプレゼンをしました。


しかし日本人上司A氏は、「ダメと言ったのに分からんやつだな…」と言わんばかりに眉をひそめ、「We’ll think about it(まあ考えよう)」と伝えました。B氏は、上司が自分の提案を再検討してくれる時期が一考に来ないことにだんだんイライラし、A氏に対する不満を募らせていったのです。
一方でA氏は、却下したはずなのにB氏がまだあきらめていない様子が見られ、B氏の「理解不足」にやはりいらいらし、次のパフォーマンス評価では低い評価をつけようと考えました。


さて、この理解のギャップはどうして起こってしまったのでしょうか?
皆さんは、異文化の相手に対してプレゼンやコミュニケーションを行ったときに、なぜか理解がズレてしまったがどこがどうズレたのか不可解…という経験はありませんか?


「言葉の文化」と「察しの文化」の違い


異文化の人々と意思疎通を図ることはそう簡単ではありません。「同じ人間なんだから根っこは一緒」と思うかもしれませんが、グローバルビジネスに携わっていると、根っこは意外と一緒ではないのだな、と思わされることも少なくありません。文化の違いは、価値観の違い、コミュニケーションや考え方の違いなどに大きく影響します。


文化には色々な定義がありますが、「あるグループに続する人々が暗黙のうちに共有したり習得している考え方、感じ方、価値観などのこと」である、と言えるでしょう。
文化はいうならば氷山にたとえられます。つまり、見えている部分はほんの一部で、そのほとんどは水面下に隠れているのです。


日本は、氷山の見えている部分(発せられた言葉や目に見える表情、しぐさ、行動など)が非常に少なく、水面下の部分(隠れている価値観や暗黙の了解など)が非常に多く、ほんの少し発せられた言葉や表情、行動などから、多くを察することが常識だとされる、「察しの文化」だ、と言われます。
英語でももちろん、「Read between the lines(行間を読む)」という表現はあるのですが、それでもアメリカは比較的、見えている部分が多く、水面下の部分が少ない氷山の形をしており、それは、見えている言動に頼ったコミュニケーション方法を取る、いわば「言葉の文化」と言われます。


上述のA氏とB氏の例は、まさにこの「言葉の文化」と「察しの文化」の違いから起こった誤解です。


A氏は、「難しい」と言えば、それは「No」の意味だと相手も理解できる、との前提で話をしていました。更にいうならば、日本の文化においては、直接的な表現を避けることで、コンフリクトや不調和を回避する傾向にあるため、「No」ではなく、「難しい」という婉曲的な表現をすることで、調和を崩さぬまま「No」の意図を伝えるのが「暗黙の了解」です。


しかし、アメリカの文化では、直接的かつ論理的なコミュニケーションをとる傾向にあるため、「No」という意図があるならばはっきりと「No」と伝えます。逆に言うならば、はっきりと言葉で表現されないならばそれは存在しないこと、または重要でないこと、と受け取られますから、「難しい」と言われれば、「ハイレベルな課題が与えられた」、つまり、「この難題をクリアできたらすごいじゃないか!チャレンジングだ!!」と受けとってしまい、「No」どころか、「自分の高評価につながる良いチャンス!」だとの逆の理解が生じ、コミュニケーションの溝が広がってしまう原因となってしまったのです。


論理的なメッセージを心がける


もちろん、直接的な表現を好むアメリカといっても、礼儀や相手への尊重の念はもちろんありますので、頭ごなしに「No」と言えば良い、ということではありません。
論理的に、かつ、極力含みのない表現を使って、「No」であること、そして「なぜNoなのか」を明確に伝える、ということが大事です。


たとえば、B氏に対してA氏がこんな回答をしていれば、誤解は免れたことでしょう。


「君の提案は良い提案だね。しかし会社としてはそれを実行することはできない。なぜならば、我が社は現在厳しい局面に立たされており、新たな取り組みは、低予算かつ短期間で成果を上げる必要があるからだ。
君の提案は、成果が上がるには高予算かつ長期間掛かるという点が最大の懸念点だ。従って、その提案は採用することができない。」


日本人同士であっても、人によって、会社によって、或いは部署によって、文化や価値観が異なります。
できるだけ、含みを持たせず、論理的な伝え方を工夫してみると、社内外でのプレゼンも、グンと効果・効率が上がるかもしれませんね。

 
 
 このコラム筆者のe-ラーニング講座開講中! “ニューヨーク発:文化と言葉の壁を越えて” 伝わる”ロジカルスピーチ術”  ニューヨークを拠点に20年以上にわたり、多くの企業のお手伝いをしてきた事業戦略コンサルタントであり、元マッキンゼー、そしてTEDxTalk登壇者であるリップシャッツ信元夏代氏により、グローバルなビジネス実践型の視点で開発されたBreakthrough Method™。
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リップシャッツ信元夏代
アスパイア・インテリジェンス 代表
ブレイクスルー・スピーキング 代表


早稲田大学商学部卒。ゼミ専攻は「異文化コミュニケーションとビジネス」。NYUにてMBA取得。1995年に渡米後、伊藤忠インターナショナルに鉄鋼・紙パルプ業界の営業・事業開発に携わる。その後マッキンゼーを経て、2004年に、戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンス社をNYに設立。2015年にはブレイクスルー・スピーキングを設立し、グローバルに活躍したい日本人のためのパブリックスピーキングのE-learningプログラムや企業内研修を中心に、個人コーチングなどを行っている。


トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初のNY大会優勝3連覇を果たしたほか、世界で100名強しかいない、World Class Speakingコーチに唯一の日本人として認定される。世界的権威者、ブライアン・トレーシーらと共に共著した「The Success Blueprint」は、アマゾンの2016年ベストセラーに。2015年にはTEDxTalkに登壇している。


BREAKTHROUGH Speaking:http://www.btspeaking.com

ASPIRE Intelligence:http://www.aspireintelligence.com

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