チームが元気になる!エンパワーメント会話術

第3回

「自分でやり遂げた!」という達成体験をつくるには?

齋藤 実央 2016年5月23日
 
前回のコラムのポイントは、“やる気”を持つには、まず「私ならきっとできる」という自分に対する信頼感=「自己効力感」が必要だということでした。それでは、部下や後輩の自己効力感を高めるには、どのようなコミュニケーションが有効なのでしょうか?今回は、一つのヒントとして「達成体験を積み重ねること」について書きたいと思います。

私は学生時代、Iさんという女子中学生の家庭教師をしていたことがありました。彼女は中高一貫校に通う中学3年生でしたが、いつも英語で10~20点しか取ることができず、付属の高校に進学できるかどうか危うい状況でした。

初回の授業は和やかに進み、私の学習指導はうまく行ったかのように見えました。しかし翌週Iさんに「宿題はやってみたかな?」と聞いてみると、全く手を付けていないことが発覚。「あれ?と思ったのですが、そこで「宿題が出来ない理由が何かあったの?」と尋ねてみました。すると、彼女は「だって、どうせ解けないし・・・」と答えたのです。
そこで、もう一度、「どうして、そう思うの?」と質問し、彼女の話をじっくり聴いてみたところ、「自分はいくらやっても勉強ができないから、努力するだけ無駄だ」と思い込んでいるということが分かりました。宿題に取り掛かっても、わからないところがあると進まず、その結果、先生に怒られてしまう。その悪循環で「やればできる」という手応えを忘れてしまっていたのです。

このように、自分の力でやり遂げたという「達成体験」が少ないと、「やればできる」という自己効力感が弱くなってしまう傾向があります。このような場合、大きな目標をいきなり与えるのではなく、目標へのプロセスを分けて、小さくても自分で達成した体験を積み重ねていく必要があります。

さて、Iさんの気持ちを受け止めたあとで、私は宿題の出し方を工夫することにしました。まずは“私と一緒に解いたことのある問題だけ”を宿題として出し、「授業が終わったあと、自分一人でも解けた」という感覚をIさんが持てることに絞りました。そして翌週は、正誤に関わらず「宿題やったなんてえらいね!」と言葉にして伝えました。
徐々に習慣がついてきたら宿題の量を増やし、「以前よりも多い量の宿題が出来るようになったこと」を褒める。そして次は、一度見たことのある問題と初見の応用問題を9:1で出し、「たとえ解けなくても初めて見る問題に挑戦したこと」を評価する。そして徐々にその割合を8:2、7:3・・・と変えていくようにしたところ、Iさんは初見の問題に対しても積極的に取り組むようになり、本人の頑張りもあって徐々に成績が上がっていきました。

これを職場に置き換えると、もし難しい仕事や新しい仕事で壁にぶつかっている後輩や部下がいたら、その人が何に悩んでいるのか、どこに自信が持てていないのか、一度、しっかり話を聞いて把握することが最初のカギと言えます。そして相手が自分でできたと思える仕事、その人の経験が活かせる仕事を任せ、仕事の成果や成長した部分を具体的に評価する。自分でできることが増えて来たら、より新しい仕事、より難しい仕事を少しずつ任せるようにする。その際、結果だけでなくそのプロセスにも関心を持ち、たとえ小さな変化であっても「以前と比べて、何がどのぐらいできるようになっているか」を言葉にして伝える。このように少しずつ達成体験を積み重ねることが、自己効力感を高める一つの有効な方法だとされています。

この原理をうまく活かしている例が、公文式の教材です。公文式は一つの単元を小さなステップに分け、ステップごとのプリントで100点を取りやすい構成にしています。単元全体に挑戦して20点を取るよりも、各ステップで100点を取ることの方がやる気が続く、ということを活用しているのです。

仕事をスモールステップに分けて任せ、評価していくことは、面倒で遠回りのように思えるかもしれません。しかし、後輩や部下が達成体験を得て、自己効力感を持つことは、チーム全体のパワーアップにつながります。「自分にはできない」と自己効力感が低い人ほど、“できていないこと”に目を向ける傾向があるので、上司や先輩から“できていること”をきちんと言葉にして伝えることが重要です。それを継続することによって、部下や後輩の自己効力感が少しずつ高まり、本人がやる気を出しやすい状態になっていくでしょう。

ただし、「〇〇をやったら達成、成功できた」という体験を一度すると、その方法に固執してしまうこともあるため、失敗体験から学ぶことも必要となります。部下や後輩が失敗体験を活かすためにはどうしたらいいか?というテーマについては、またの機会に触れたいと思います。
 
 

プロフィール

株式会社エンパブリック
齋藤 実央(さいとう みお)

首都大学東京卒業、英国・ヨーク大学修士課程修了(シティズンシップ教育)。 日本赤十字社で青少年教育プログラム等に従事し、大学院留学を経て2015年10月エンパブリックに入社。 各種ワークショップの企画・広報・運営を担当。 セルフエンパワーメントを促す教育的アプローチや環境づくりをテーマに、研究と実践を続けている。

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