DX(デジタルトランスフォーメーション)と新規事業開発との関係性とその考察

第2回

1.現場で何が起こっているのか?

亀川 賢治 2019年12月20日
 

現在の多くの企業が抱えている課題を整理してみよう。その殆どは経営資源の重要な部分を担うシステムそのもので、既に再考しなければならない状況にある。


【図1】は、マーケティング的思考(フレームワーク)を前提に、それぞれのシステムの機能のポジションを整理してみたものである。一般的にSIerが提案する内容とは恐らく異なっていると思う。





まず、【図1】の左のBrandのボックスを見てみよう。これは、これまでの日本企業におけるデジタル化の概要であり、「情シス」部門が中心となり、段階的に各システムを積みあげ、構築してきたものである。1~5まで、それぞれの組織(部門)でフルに活用しており、また、現時点においても、現役で動いている。企業の事業、業務を作り上げているものであり、それが看板(Brand)と言ってもよい。


1の会計システムは、かつてはCOBOLなどの言語だったものが、オープンソース化した事による「オープン化」と定義されている場面もある。1の人事におけるシステムの原点は、労務管理上における出退勤管理が最優先となり、タイムカードがFelica型(IC)カードで、その管理が容易になった会社も多いと思う。


同じように、2~5も各部門で必要と思われるシステムが稼働し、生産性を向上させるためにその役目を担ってきた。ここまでのシステム選定は、各部門の選定者と決裁権者によって行われてきた。このことを否定しているのではなく、段階的経緯として是とする。しかしながら、昨今「働き方改革」や、ワークスタイルの変化で、従来のシステムの枠に収まらない状況が生まれている。それは、在宅ワークやオフィスでのフリーアクセス、また、PCだけではなくスマートフォンやタブレットなどの端末の多様化による、キーボードのないIT化である。そのような状況が進む中での新たな課題は、これまで通りのシステムでその労務・業務等の管理が賄い続けられるか、ということである。


ここまで、多くの企業が部分的(部門別)にシステムを入替え、更新を促進してきた。SIerも提案書の切り口を様々に変えて、販売し続けた。その結果、全体を取りまとめる大規模な基幹システム(SAP等)が登場し、リアルタイムに現業の状況が把握できるように改革した企業も多く出てきた。そして、そのシステムを活用することによって事業を推進し、自社独自の企業統治をしてきた。しかしこの流れは、経営層側の視点に偏っており、ビジネスの収益性と生産性を管理する目的に特化していったように思われる。


次に【図1】の真ん中のDMP(データマネジメントプラットフォーム)のボックスを見てみよう。DMPの本来の目的は、企業全体の情報資源を一元管理し、それを社内で共有することによって、あらゆる経営判断のスピードと精度を担保することである。しかし現状のSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)やCRM(Customer Relationship Management:顧客関係性マネジメント)は販売部門の管理に特化し、営業担当はこのDB(データベース)に自身の情報を入力することに対する抵抗感や反発が未だ拭えていない。


そして、【図1】の右のCommunicationのボックスを見てみよう。ここにあるCMS(Content Management System:コンテンツ管理システム)やDSP(デマンドサイドプラットフォーム)は大切なリードや既存顧客へのコンタクトポイントを維持・継続させるはずであるが、過度なメルマガ配信やレコメンドなどにより、逆に顧客が離反する原因ともいえる状況を招いている。本来は、顧客接点の確保と運用が目的である。


最後に【図1】の下の部分だが、現況の様々なデータを何らかの形で集計し分析してアウトプットしている。果たしてこの精度や効果また、ROI(Return On Investment:投資収益率)はホントに確保できているのか。残念ながらその答えは、ほとんどの場合が否である。


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では、なぜ、このような事態になってしまったのか。


20世紀までは、各企業内で社員研修を展開してきたが、そのフレームの多くが、「7つの習慣」、「バリューチェーン」などだった。これを否定するわけではないが、現在の状況は、このフレームからの副作用が顕在化したと考えるべきである。


組織の中での各部門は、それぞれにその責任を全うし、全社員が同じ方向を向いて事業展開してきたはずであるが、その中で「セクショナリズム(部門内統制)」が強くなり、各部門のミッションや責任以外の事には、各々が触れないこととし、関心を持たなくなった。今でも企業によっては、同じオフィス内で隣人の仕事内容を全く知らない状況がある。これにより、組織内の情報経路が分断され、必要とされる情報共有がなされないまま、各部門の個別の評価が当たり前になっている。


組織内の分断と共に、システムも個別に稼働している状況で、さらに働くスタッフの言動も同様の状態にあると思われる。このように、現在の企業におけるITシステムの全体像は、組織・システム・スタッフがバラバラのまま単に旧来の業務をデジタル化しただけで、生産性を求めるシステム本来の目的から乖離してしまっているのである。


次に【図2】をご覧いただきたい。ここからは、数年前から言われているMA(Marketing Automation)について、述べたいと思う。




一般的にMAのプラットフォームやソリューションと言われているのは、「Web MKTG(マーケティング)の領域」での話題が多い(【図2】の下部、赤の点線枠)。そしてこのMAを導入すれば、業績が飛躍的に伸びるという感覚を持つ経営者も多いようである。


しかしながら、それは大きな勘違いである。2000年頃から電子商取引サイト(EC:e-コマース)が次々と構築され、売上が倍になると思い込んでいた方々も多かった。それが今では、店舗が減少し、効率のいい通信販売に何割かがシフトしたに過ぎない。結果、経営を圧迫する固定費の削減に終始し、形が変わって新たな固定費として「通信費とシステム運用費」が発生している。


【図2】が【図1】と異なるのは、緑色のボックス(図の地の緑色のボックス)そのものが大きなプラットフォーム化されて、すべてのシステムが繋がっていることである。MAを考える場合、従来のシステム全てを入れ替えるのではなく、それぞれの情報資源をどのようにつなげ、集計・分析し、最終的に顧客との関係性を構築するためのアウトプットにどう繋げるかということが重要である。よって、システムの新旧を問題にするのではなく、バラバラになっている組織的な繋がりを見直すことが最優先となる。更に、繋がりだけでなく現在の業務そのものも見直し、改革する必要にも迫られている。市場環境の変化はご周知の通りであり、MAを導入するにはすべての経営資源を一旦棚卸して、再構築しなければならない状況になっている。部分最適化から全体最適化の必要性が高まっているのである。


(つづく)




 
 

プロフィール

株式会社LYST
代表取締役 亀川 賢治


半導体製造装置の販売に従事。電子立国の日本の技術を支える最後の時期に、16M/64M DRAMにおける国内の各地の製造ラインへの導入を経験。


「インターネット」黎明期に、下流でのIT機器関連の業界に移動。ここでデジタルCMS(Color Management System)を学び、OEM先での販売促進活動として「カラーマネージメントセミナー」を展開。


その後、機会を得て、インターネット業界(Web1.0)へ方向転換。スポンサー企業の支援で、新会社設立。第一次ドットコムブームにおいて、ウェブビジネスを経験。コンサルティング的方向性を模索しつつ「ハンズ・オン」による「仕掛け人」的現場実務を重視し、評価・評論だけのコンサルティングではない新たな挑戦を続ける。


HP:株式会社LYST

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