DX(デジタルトランスフォーメーション)と新規事業開発との関係性とその考察

第1回

プロローグ

亀川 賢治 2019年10月8日
 
先のコラムで新規事業開発における思考について述べてきたが、今度は昨今巷でよく耳にする語群について整理してみよう。

21世紀に入り、2000年4月に森内閣が誕生し、同年11月に「IT政策(IT基本法|高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)」が制定された。これにより2001年1月、内閣にIT戦略本部が設置され、森内閣総理大臣は「e-Japan戦略」なるものを掲げた。この戦略は、5年以内に世界最先端のIT国家となることを目標とし、インフラ整備に力点を置いたことが特徴的だった。その後、毎年改定を重ね、 1)超高速ネットワークインフラの整備、2)電子商取引、3)電子政府の実現、4)人材育成の強化、を重点政策分野として掲げ、インターネット環境への適応を図ってきた。


2003年7月にはe-JapanIIが策定された。第一期でITの基盤整備が確立したとし、e-JapanⅡでは、ITの利活用を「元気・安全・感動・便利な社会」を目指すことを基本理念として、以下の7つの取組方針を打ち出した。1)医療、2)食、3)生活、4)中小企業金融、5)知、6)就労・労働、7)行政サービス

ここまで振返って鑑みると、何か感じることはないだろうか?1999年に携帯電話がインターネットに繋がったことにより、情報の流通量や質、形が変化し始めた。2000年は「.COM(ドットコム)バブル」に沸き、インターネット広告事業者やEC(電子商取引)サイトが誕生した。その雄たる勝ち組企業は現在も存在している。

新規事業の企業として時代の先端を走っていた彼らは、当時「宇宙人」的扱いをされ、昭和型の人々から一時は蔑視された時期もあった。しかし、そのようなことには目もくれず、「デジタル技術」を軸に、様々な新たな事業を考え、挑戦し、実行していた。当然、勝率や継続率は様々で、消失していった商品(携帯電話等)・サービス(i-mode)など、数多くある。着メロや携帯コミックなどなど思いだすのも大変なくらい・・・

その中で、生き残ったのは、ビジネスモデルとして普遍的に進化していったものではなかろうか。例えば「ECサイト」は、当時「ネットでなんか買い物しない・・・」などと言われていた。しかし、北米のAmazonのように、書籍が流通し、利便性が評価され始めてからは大きく変わった。同じように「楽天市場」も賛否両論の意見があったが、現在はご存知の通りである。恐らくは、旧来通りの思考のままでその新たな事象を見た際に、それまでの価値観や概念で判断し続けた個人や企業は、その時点で停止しているに等しいことになっているのではないかと思われる。


では、今現在21世紀に入って20年が経過した状況で、政府は何を打ち出しているか?ご周知の通り「Industry4.0」「Connected  Industries」「Society5.0」など様々な形で経済産業省・総務省、更には内閣府も方針を掲げている。これに加えて、2015年に国連で採択された「SDG’s」の17項目があり、私たちは20年前とは比較にならないほどの情報量とその領域、複雑な関係性を考慮しなければならなくなっている。


先進国では、高齢化社会に向けた社会保障制度の見直しと同時に子育て支援、第三国では、治安維持と同時に子供の教育と言語の問題等、社会的課題も多く顕在化している。

その中で、企業がどのように考えて経済(収益)活動に取り組むべきか、また、これらの状況を鑑みた上での新規事業とは何か、を考えていきたいと思う。

前述の通り、21世紀に入って①IT≒②Digital≒③Internetのような構図で一般的には捉えられがちだが、そうではなく、最初は1960年代に電子計算機が発明されたことによる②が起点となる。これにより、飛躍的に四則演算の速度が上がった。その結果「コンピュータ」が生まれ、ビジネスの現場で活用され続けた。その後、DB(データベース)という情報格納可能なシステムソフトウェアが生まれ、①IT(Information Technology=情報技術)が生まれた。DBによって情報は二次利用、共有が可能になった。と同時に、企業内システムには、「勘定系(基幹系)」と「情報系」と大きく2分される概念が生まれ、いわゆる企業内部門の『情シス(情報システム)』は、「勘定系」システム優先でそのシステム開発を先行してきた。いわゆる〝レガシー“である。

そして、昨年からこれらのIT資源に様々な警鐘が鳴らされ始め、2018年に経済産業省が公表したレポートの中で「2025年の崖」という言葉が使われた。これは多くの企業が抱えるIT資産の寿命とも言うべき危機的状況が迫っていることを示唆している。先のレガシーシステムに関わっていた人材の老齢化によって、今後システムを継続的に維持できなくなる状況が予測されるからである。また技術的には、20年経過した状態のものが現在の最先端技術に追いつかない、適応できないということもある。これにより、これまでのビジネス(生業)そのものを支えていたバックオフィスが崩壊する危機が迫っており、その状況を言い換えて「2025年の崖」と表現しているのだ。

これを回避、脱却する為にDX(Digital Transformation)が不可欠とされている。
さて、ここでこのDXの定義とその理解について触れる。まず、先に述べたIT=Digitalとはならないように、DX=ITではない。つまりDXは、事業の現状を最新のITを導入してIT化することではない。では何が違うのか?単にシステムを入れ替えるだけでは、旧来通りのままで「従来踏襲」の考え方の枠を超えない。

DXの本質は、「既存事業のデジタル化」によって、新たな事業体に脱皮し進化し拡大していくこと、である。2000年代初頭に台頭してきた新興(ベンチャー)企業は、当時は言葉こそなかったがこのDXを行い、その中からユニコーンが生まれ、市場を創出し業界を形成してきた。2000年以降の「IT政策」はこの「DX政策」ともいうべきものにその本質は継続していると考えられる。このことが日本企業の経営層の方々にどこまで浸透しているかが、今後の日本経済そのものを左右すると言っても過言ではない。

日本企業の経営層の方が、未だ従来通りの思考の枠のまま、経営判断と決裁権限を行使しているとしたらそれは大変危険である。すでに、グローバル社会はIT導入から20年経過し、次の20年に突入しようとしている。今この時に過去の遺産の見直しや棚卸をきちんとするべきである。すべてのステークホルダーとの関係性も含め、経営資源全てを一度整理して、思考の枠を再構築する必要に迫られている。

今回のコラムのテーマでは、これらを紐解いていこうと考える。(つづく)


 
 

プロフィール

株式会社LYST
代表取締役 亀川 賢治


半導体製造装置の販売に従事。電子立国の日本の技術を支える最後の時期に、16M/64M DRAMにおける国内の各地の製造ラインへの導入を経験。


「インターネット」黎明期に、下流でのIT機器関連の業界に移動。ここでデジタルCMS(Color Management System)を学び、OEM先での販売促進活動として「カラーマネージメントセミナー」を展開。


その後、機会を得て、インターネット業界(Web1.0)へ方向転換。スポンサー企業の支援で、新会社設立。第一次ドットコムブームにおいて、ウェブビジネスを経験。コンサルティング的方向性を模索しつつ「ハンズ・オン」による「仕掛け人」的現場実務を重視し、評価・評論だけのコンサルティングではない新たな挑戦を続ける。


HP:株式会社LYST

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