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【DX】ここに気を付けろ!デジタル人材がいない中小企業が陥る罠

第5回

現場を無視する罠と現場の声を聞き過ぎる罠

株式会社NIコンサルティング  長尾 一洋

 

現場の意向を無視して抵抗される罠

デジタル人材がいない中小企業でDXを進める場合、当然ですが、現業部門、現場の人たちはITリテラシーが低く、デジタル化への抵抗感も強いことが多いものです。そうすると、DXを進めるキーパーソンであるDX推進リーダーは、「どうせ意見を聞いても何も言わないだろう」「どうせデジタル化に反発して文句を言うだけだろう」と考えて、現場の意見や意向を聞かず、現場業務のヒアリングもおざなりにしてしまうことがあります。

そうしたくなる気持ちはよく分かります。私もコンサルタントとしてDXを進めようとすると現場の社員さんから抵抗を受けることがありますし、その理由を聞いても感情的、感覚的にデジタルを拒否するだけで明確な理由は分からず、現場の実態を教えてもらうのにも苦労したりすることがありますから・・・。


私のような社外の第三者に対してもあれこれ文句を言ったりするわけですから、社内のDX推進リーダー相手であれば尚更です。「俺たちはこんなことに時間を使うほど暇じゃないんだよ」くらいのことを言われて、DXは完全否定され、DX推進リーダーが余計な仕事をしているかのようなことを言われれば、誰しも心が折れてしまい、現場の人たちとは距離を置いて、さっさとシステム導入を進めてしまいたくなるものです。

さらに、そのシステムを提供してくれるベンダーさんから「DXなのですから、現状の業務に合わせるのではなく、このシステムに合わせて業務を変えて行くべきなのです」などとシステム側のあるべき論を言われたりすると、「たしかに、業務を変革しようとしてDXを進めるわけだから、現状の話ばかりを聞いていてもいけないな」と納得したりして、一層、現場のニーズや意向を吸い上げるような面倒なことは、できれば避けて通りたい、なるべく手短に済ませたいと考えてしまいがちです。

しかし、人間は感情で動く生き物です。仮に、導入したシステムが完璧で、その仕様に合わせて業務を変えて行くことが、効率も良く、コストも下げられるものであったとしても、現場の人は、そもそもそのシステムを使おうとしない、一応使ってみようとする姿勢は見せるものの、「これではかえって時間がかかる」とか「前のやり方じゃないと業務が回らない」などとあれこれケチをつけてみたりします。現場の人たちが、自分たちの意向が反映されていない、要するに現場が軽んじられていると感じることで、DXの推進に抵抗されてしまう罠にはまってしまうことになるのです。

そうなるのは、そもそも現場の人たちがDXを毛嫌いし、DX推進リーダーを軽んじるような態度をとったからじゃないかと、DXを推進する側もやはり感情論で言い返したくなるわけですが、それを言っていても話は進みませんから、DX推進リーダーが大人になって、現場の人たちの声を聞いてあげる、ちょっとした要望やニーズを吸い上げてあげるというポーズ、もしくは儀式、場合によっては演技も必要になります。そしてやはり大事なのは、対話です。ニーズも聞きつつ、DXの必要性、業務を変えるメリットについて熱意を持って語ることも必要です。話を聞いてもらったのだから、こちらも話を聞こうかとなるよう、あるべき論や理屈ではなく相手の心を動かす努力が必要なのです。

現場の声を聞き過ぎて迷走してしまう罠

反対に、現場の声を聞き過ぎることでDXが立ち行かなくなるケースもあります。

どんなに機能が豊富なシステムであっても、現場の人が使ってくれなければ成果を生みません。現場の業務に合った、自社の個別事情も勘案した仕組みにすることがシステムを定着させる上では重要になります。そう考えるDX推進リーダーは、現場の意向を汲み上げるミーティングを実施したり、個別に業務のヒアリングを行ったりして、現状の業務を把握することに工数をかけようとします。

しかし、現業部門の現場の人たちは、DXの全体像を理解しているわけでも、導入されるシステムのことを理解しているわけでもありません。デジタル人材がいない中小企業であれば、現場の人もアナログ業務が当たり前になっていて、デジタル化には漠然とした恐れを感じていたりする人もいます。

そうした中で、素直に現場の声を聞き過ぎると、現状のアナログでの処理をそのままデジタル化するような話になったり、どうせデジタル化するなら、あの情報も欲しい、このデータも見たい、こんなことができたらいい、あんなこともやりたいと夢が膨らみ過ぎて要件がまとまらなくなったりもします。

人間はどうしても新しいものに抵抗感があったり、恐怖心を持ったりしますし、慣れているもの、慣れたやり方には自信やプライドもあり、習熟度が高くて処理も速かったりしますから、現場の声や要望を重視し過ぎると、現状の業務や処理手順に引き摺られることになりがちです。

それでは、現場との軋轢を小さくしDXをスムーズに進めることは出来ても、業務改善や企業変革による成果も小さいものになってしまい、果たしてそれはDXと呼べるのか、単なるシステム化、デジタル化に過ぎないのではないかという議論に戻ってしまうことになります。

現場の声を聞き、実態に即したDXにすることは重要ですが、やはり、その際にもDX推進リーダーが業務のあるべき姿、DXした先がどうなるのかという道筋をしっかり描いて、現場の人たちをリードしていく気概が必要になります。

聞かないのもダメ、聞き過ぎるのもダメ、良い塩梅で進めましょう

この辺りが、DX推進リーダーはデジタルの知識や技術があるだけでなく、自分の会社をより良くしていこう、自分たちで何とか業務を改革していきたいという当事者意識を持って取り組む人であって欲しい理由です。人の心を動かし、納得させ、初めの一歩を踏み出させる人でなければならないのです。

逆に言えば、どれだけデジタル技術があり、プログラミングに長けていたとしても、アナログな現場の人たちを動かすことができなければ、DXを推進させることはできないのです。

現場の声を聞かずに進める罠を避け、聞き過ぎる罠にもはまらないように気を付けて、良い塩梅でDXを進めて行きましょう。


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プロフィール

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋

中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ

横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。

1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)

またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)


文化放送 月曜19時30分から放送:長尾一洋 ラジオde経営塾

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