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【DX】ここに気を付けろ!デジタル人材がいない中小企業が陥る罠

第1回

推進してくれるはずのシステム担当者がDXを阻む罠

株式会社NIコンサルティング  長尾 一洋

 

頼みの綱が当てにならない現実

残念ながら、ほとんどの中小企業にはデジタル人材と呼べるような人はいません。しかし、そんな会社でもパソコンを購入したり、ネットワーク工事の業者対応をしたり、外部のシステム業者との窓口になっているシステム担当者はいるものです。

ただ、多くの場合はシステム担当専任というわけではなく、経理とか総務の中に、システムの担当になっている人がいるというケースが多いように思います。

IT化が進んでいないと言われる中小企業でも、比較的早い時期からIT化されて来た業務が経理業務でしょう。会計システムや販売管理システムは必要に迫られて導入している企業が少なくありません。中にはExcelなどの汎用ソフトを駆使して、請求書の発行や売掛金の管理までやっているという猛者もいたりします。

いずれにしても、パソコンを使って業務を行うことに慣れているのが、経理部門であったり、その購買窓口になっている総務部門が、いつの間にかその会社のシステム担当ということになっていたりします。

「いつもパソコンを使っているんだし、Excelもあれだけ使いこなしているじゃないか」と周囲の人は感じるのでしょう。経営者も、システムに関すること、IT系の話があれば、その人に相談したりします。

そんなところにやって来たのが、DXブームです。猫も杓子もデジタル活用を叫び、中小企業だから関係ないとも言っていられない状況です。もちろん、筆者もDXに取り組むべきだし、中小企業だからという言い訳をしている場合ではないと考えています。

そこで多くの社長は、「うちもDXに取り組むしかない。良く分からないがやってみよう」と社内で一番システムに詳しいであろう、システム担当として頑張ってくれている社員さんに「君がDX担当になって、うちで何ができるのか考えてみてくれ」などと依頼したりするわけです。

システム担当者は、社内のシステム周りのことを担当している人ではありますが、DXを推進できるようなデジタル人材であるとは限りません。もちろん、中にはバリバリとDXを推進していけるシステム担当者もいるとは思いますが、それはかなり例外的なケースで、筆者が30年以上に渡って多くの中小企業の実態を見て来た経験を踏まえてみても、そんなことができるシステム担当者はかなりレアな存在だと言えるでしょう。

デジタル人材がいない中小企業において、一番システム系のことについて詳しいのはシステム担当者であり、DXを進める時の頼みの綱だろうとは思いますが、それが案外当てにならない現実があることを経営者には理解してもらいたいと思います。



DX事業部・DX推進室と名前ばかり立派な例

ある中小企業では、「DX事業部」という部署ができていました。「それは素晴らしいですね。ところでその部には何名いるんですか?」と尋ねたら、なんと1名だけ。システム担当者に肩書を与え、社内外に「やっている感」を示そうとしたのでしょう。その会社では、DX推進担当となった「部長さん」が嬉しそうにしていたので、それはそれでハッピーなことではあるのですが、こんな体裁だけを繕うようなことをしていてはDXなど推進できるはずがありません。

多くの場合、ご本人はDXの担当にされて迷惑がっていたりします。そもそも経理や総務など別の本業があって、社内で一番パソコン操作に慣れているからという程度の理由でシステム担当だっただけなのです。それが今度は「DXもやってくれ」と言われて、本人はいい迷惑です。中には意気に感じて「せっかくだから頑張ってみよう」と前向きに取り組む人もいるでしょうが、残念なことにDXを推進するはずの人が、DXを阻害する人になったりすることがありますから、注意が必要です。


社長のやる気をへし折るか自分の都合で情報操作

まず気を付けなければならないのが、社長のやる気をへし折ろうとすることです。せっかく社長がDXに取り組む気になって、DX事業部長が誕生したのに、その張本人が「うちみたいなアナログな会社がデジタル化を進めると現場が混乱して却って良くないですよ」とか「DXを本気でやろうと思ったら結構なお金がかかりますが予算はあるんですか」などと、社長のやる気を削ぐようなことを言うわけです。社長自身もデジタルに疎かったり、苦手意識があったりすると「やっぱりダメか」「うちでは無理か」と意気消沈してしまうことになります。

次に気を付けなければならないのが、業者の言いなりになったり、DX事業部長にとって都合の良い情報だけを上げる情報操作をされてしまうことです。DX事業部長と肩書をつけても、元々は社内でシステムのことを担当していただけの人であって、プログラミングができるわけでも、最新のシステムやテクノロジーに精通しているわけでもありませんから、業者の提案を正しくジャッジできず、そのまま鵜呑みにしたり、気に入った業者に肩入れしたりするような偏った判断をし始めることに注意が必要です。外部の業者との折衝はすべて任されているわけですから、情報操作して自分の都合が良いように社長の意思決定に影響を与えるのも簡単です。

結果として、新しいシステムが導入されても自社に合わないものであったり、過剰なスペックで高いものを買わされていたりということになったりすることも少なくないので注意が必要です。

本稿をお読みいただいた方の中にも、システム担当の方がおられるでしょう。気分を害されたかもしれませんが、これはあくまでもよくある話であって、このコラムを読むような意識の高い人は該当しないはずです。ただ、ここに書いた例は、デフォルメしていますが、すべて実例を元にしており、実際そのようなことで困っている中小企業も多いので、失礼はご容赦いただきたいと思います。



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プロフィール

株式会社NIコンサルティング
代表取締役 長尾 一洋

中小企業診断士、孫子兵法家、ラジオパーソナリティ

横浜市立大学商学部経営学科を卒業後、経営コンサルタントの道に。

1991年にNIコンサルティングを設立し、日本企業の経営体質改善、営業力強化、人材育成に取り組む。30年を超えるコンサルタント歴があり8000社を超える企業を見てきた経験は、書籍という形で幅広く知られており、ビジネス書の著者でもある。(「長尾一洋 著者」と検索)

またラジオ番組の現役パーソナリティでもあり、番組内で経営者のビジネスに無料でその場で答えていくスタイルが人気。この文化放送「長尾一洋のラジオde経営塾」(毎週月曜19:30~20:00)では、聴取者からのビジネス相談を下記のホームページから受け付けている。 番組公式Twitterのアカウントは、@keiei916。(どうぞフォローをお願いします)


文化放送 月曜19時30分から放送:長尾一洋 ラジオde経営塾

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