社長が知らない事業承継のお話

第3回

M&Aは事業承継の切り札ではありません。

桐明 幸弘 2021年7月16日
 

中小企業庁は、日本の中小企業の実に7割近くの経営者さんが、後継者が居ないという返答をしたことを受け、廃業によって事業者数が減少し、雇用が厳しくなることを懸念して、その解決策としてM&Aを活用することを決めました。このため、事業承継の問題を矮小化して、相続税の問題か後継者不在の場合はM&Aを活用することとして、中小企業の事業承継ガイドブックなどを作成していました。しかし、よく考えてみれば、親族内に後継者が居ないということが、即時に第三者に会社を売却することにはならないはずで、事業承継がイコールM&Aであり、M&Aこそが事業承継の切り札であるというような風潮は間違っていると思います。


私は、世の中の人がまだM&Aという言葉を知らず、会社売買に携わる人たちを「乗っ取り屋」などと呼んでいた時代から、日本で初めて独立系のM&A仲介会社として発足した「レコフグループ」に信託銀行から転職して、以来30年間に亘ってずっとM&Aアドバイザーを勤めてまいりました。日本のM&Aマーケットは、80年代後半のバブル期において、円高を背景として日本企業が外国企業を買収するIn-Outマーケットが主流としてスタートしています。当時は、三菱地所がロックフェラーセンターを買い、ソニーがコロンビアピクチャーズを買収し、松下電器がMGMを買収するという派手な案件もあり、日本企業が世界の主だった企業を買収してしまうのではないかと言われるほど、エコノミックアニマルとして悪名高く活躍していたのです。ところが、バブルが弾けると同時に、国内の弱肉強食とでもいうべき、救済型M&Aブームが来ます。また、日産がルノーに売られるなど外国企業が安くなった円と不動産資産を買収するOut-Inマーケットが立ちあがりました。このような変遷を経て、日本のM&A市場は90年代の中盤から大きく成長し、現在では「事業承継」をキーワードとして仲介業者が活躍する事態となっているのです。


ここで、事業承継の話に戻りますが、そもそもひとつの会社を全く見ず知らずの第三者に金銭対価だけで売却するという行為は、日本企業にあまりなじまないものです。なぜなら、日本において企業は社会の公器であり、株主だけが自由に処分できるものであるという考え方に違和感があるからです。特に、その企業が先祖代々継続している老舗企業で、かつファミリービジネスの場合にはその創業家が家業として企業価値を守っていることが多く、全くの第三者がその企業価値を引き継ぐことはおよそ困難なことなのです。このような企業の場合には、たとえ親族内に後継者が居ないと社長が判断したとしても、実は息子・娘が引き継ぐ意志をもっているというケースもたくさんあるのです。これは、親子間では事業を引き継ぐかどうかの直接的なコミュニケーションがとりにくいという問題が横たわっているからです。従って、後継者が不在であるという判断を誰がどのように行ったのかを含めて、もう一度原点に戻り、事業承継とは何なのかを追求したうえで、最終的にどうしても第三者に事業を委ねなければならないという結論がM&Aであればいいのですが、例えば後継者が存在しいるのに、M&A仲介業者に唆されて、現オーナーの私利私欲のために会社を売却することなど絶対あってほしくないことなのです。


本当にM&Aによって、第三者に会社を売却するしかその事業を継続する方法がない場合には、適切なアドバイザーを雇うことをお勧めします。私はレコフを退職後、ずっと売却専門のM&Aアドバイスを行ってまいりました。オーナーが第三者に事業を託そうとするのですから、それなりの方法が必要なのですが、世間一般には売却側アドバイザーを雇うという常識がありません。なぜなら、前年ながら専門的ではないM&A仲介業者が、売手と買手の中間にたって蝙蝠や伝書鳩のような稚拙な仲介を行うことが横行しているからです。ご自分の会社を、信頼できる第三者に譲渡しようとされるのであれば、必ず売手側M&Aアドバイザーを雇って、戦略をもって売却活動をされることをお勧めします。それこそが、事業承継の切り札としてM&Aを使うことの唯一無二の方法だからです。


以上、今回は第三回としてM&Aの問題を取り上げました。次回は、皆さんが最も関心の高い相続税の問題を解説してまいります。

以上


 
 

プロフィール

株式会社インテグリティサポート
代表取締役 桐明 幸弘(きりあけ ゆきひろ)

福岡県出身、昭和55年「東洋信託銀行」(現三菱UFJ信託銀行)入行、平成2年に独立系のM&A仲介専門会社「レコフ」に入社。国際間M&Aアドバイス、不動産証券化企画など担当。米国不動産専門投資銀行「ソネンブリック・ゴールドマン・アジア」を経て、平成13年にトーマツグループのM&Aアドバイザリー子会社に入社。平成15年より監査法人トーマツにて事業再生部門を立ち上げ、ホテル・旅館等を中心に事業再生支援サービスに従事。平成19年に独立起業し「株式会社インテグリティサポート」代表取締役に就任。福岡市経営補佐顧問、神奈川県地方公社等専門部会委員、週刊ホテル・レストラン編集委員、太平洋クラブ株式会社社長など務める。



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