社長が知らない事業承継のお話

第1回

事業承継は一過性のイベントではありません

桐明 幸弘 2021年3月22日
 

日本の中小企業の大半は同族経営と言われています。同族経営はオーナー経営とも呼ばれているように個人が大株主であり、経営する会社の社長、そして親族の家長という3つの立場を一人で担っています。そして最近の経済界で問題となっているのは、このオーナー経営者の後を継ぐ後継者が居ないために、事業がうまくいっているにもかかわらず、廃業を選択する企業が増えているということです。これが、「事業承継」というキーワードとして経済産業省を始めとして政府・官庁が様々な対策を講じている日本経済の大きな潮流となっている課題です。

 

ところで、オーナー経営者の皆さまが事業承継という言葉を聞くと何を連想されますか?おそらく皆さまの考えることは、「まだ早いよ、俺はまだ引退しないから。」ということか、あるいは「そうだな、この会社を相続する息子が相続税で苦しまないように考えないとな。」とか、または「後継者もいないし、高く売れるんだったらM&Aで売却するかな。」というようなところではないでしょうか?もちろん、皆さまがどう反応されようが何も問題はないのですが、これらはいずれも事業承継を「一過性のある時点におけるイベント」として無意識に捉えているお答えです。

 

しかし、考えていただきたいのですが、「事業」を「承継する」ということが事業承継の意味であるとするならば、事業とは何を指すのか、誰に承継するのか?ということを明確にすべきだと思います。そのためには、場合によっては自分が社長に就任した瞬間から後継者について考え始める必要があり、息子や娘に自分の事業を引き継ぐつもりであれば、それこそ子供たちが幼稚園のころからそのための教育を行っておく必要があります。高校や大学についても自社の事業に関連があるか、あるいは役に立つ技術や知識を身に着けることができるかなどを考えて選択させる必要もあるでしょう。また、学校を卒業した後継者をいつどのように自分の会社に入社させるのかについても、いったん他社に修行に出すのか、それとも一から自分の会社で修行を積ませるのか、いろいろと準備しておくことが必要になります。

 

そして、どのタイミングで事業を譲るかについても、経営者の地位の譲渡と保有株式の譲渡を同時にするのかどうか等々事前に考えておかなければならないことは非常に多いのです。事業承継という言葉を一過性のイベントとして考えると非常に狭い範囲と時間の問題と捉えがちですが、その本質は、その企業の目に見えない資産を含めたあらゆる経営資源について時間をかけて、しかるべき後継者(息子や娘であっても、他人であっても)に譲ることですから、本来は時間をかけて準備をし、なおかつ綿密な計画を立てて実行していくものだということを覚えてほしいと思います。

 

このように、事業承継についてあらかじめ準備を行い、その計画を立てることは「事業承継計画の策定」ということになります。帝国データバンクのアンケートによると、回答した会社の約4割が事業承継計画を策定していると返答したそうです。しかし、ではその計画に沿って実行をしているかとの問いには計画を策定したと答えた企業の約半数が実行していないと返答したそうです。仏を作って魂いれずの典型のようなものでしょうか。もちろん、計画を立てた以上は実行を伴うものでなければ意味がありませんね。事業承継計画は、短いもので10年、通常には30年、老舗企業では100年もの期間について計画を立てているものもあるそうです。皆様の会社では、30年後を見通した計画を立てることを推奨します。

 

そして、計画のなかでは経営者の地位を譲った後でも、しばらくは代表権のない会長職などとして後継者と並走する時間を作ってください。何年かして、もうすっかり後継者に経営を任せられると考えたときに株式も譲って、自分は完全に引退するというシナリオを描いてほしいと思います。今回は、このように事業承継は時間をかけて準備し、計画的に実行されていくものだということをお話させていただきました。では、その肝心要の後継者を誰にして、どのように準備するのかについて次回のコラムでお伝えします。

 

 
 

プロフィール

株式会社インテグリティサポート
代表取締役 桐明 幸弘(きりあけ ゆきひろ)

福岡県出身、昭和55年「東洋信託銀行」(現三菱UFJ信託銀行)入行、平成2年に独立系のM&A仲介専門会社「レコフ」に入社。国際間M&Aアドバイス、不動産証券化企画など担当。米国不動産専門投資銀行「ソネンブリック・ゴールドマン・アジア」を経て、平成13年にトーマツグループのM&Aアドバイザリー子会社に入社。平成15年より監査法人トーマツにて事業再生部門を立ち上げ、ホテル・旅館等を中心に事業再生支援サービスに従事。平成19年に独立起業し「株式会社インテグリティサポート」代表取締役に就任。福岡市経営補佐顧問、神奈川県地方公社等専門部会委員、週刊ホテル・レストラン編集委員、太平洋クラブ株式会社社長など務める。



HP:株式会社インテグリティサポート

このコラムをもっと読む
社長が知らない事業承継のお話

  • 第1回   事業承継は一過性のイベントではありません

同じカテゴリのコラム

プレスリリースオンライン無料個別相談
キーワードからコラムを検索する