穏やかなることを学べ

第39回

利益相反による不正行為、中小企業はガイドラインの徹底を ~東大病院汚職事件を看過するな~

イノベーションズアイ編集局  編集アドバイザー 鶴田 東洋彦

 

利益相反による不正問題は中小企業によっても深刻な課題だ

利益相反、社会問題として浮上

企業や学校法人等での利益相反(COI、conflict of interest)による不正行為が、改めて社会問題として浮上している。三菱フィナンシャル・グループ内での銀行、証券会社間の非公開情報の共有、日本空港ビルディングの利益供与疑惑などに加え、昨年11月には日本化粧品協会からの接待を巡り、東大医学部附属病院の皮膚科長を務めていた教授が贈収賄で逮捕されるという汚職事件にまで発展した。利益相反による不正行為は、中小企業にとっても看過できない状況にある。

改めて指摘するまでもないが、企業や学校法人等での利益相反とは、法人側と経営者や理事長、理事、取締役など関係者の利益・利害が衝突する状態を指す。レピュテーションリスク(企業や組織の評判が悪くなることで経営に悪影響が出る懸念)に直接的に繋がりかねないリスクを内包する問題でもあり、最近の統計では、同族経営や少人数の役員構成、緊密な取引先などが関係する中堅・中小企業や医療機関などでの違反問題の発生が目立っている。

東大病院汚職事件の波紋

その象徴的な出来事となったのが、昨年11月に東京大学本郷キャンパス内にある東大医学部附属病院の皮膚科長を務めていた教授が、日本化粧品協会からの接待を巡って、相次いで収賄容疑で逮捕された汚職事件だ。この事件については、既に日本化粧品協会の専務理事が贈賄罪で逮捕、教授側も今月25日に収賄罪の起訴内容を認めた。

問題の背景にあるのは、医療分野において発生しがちな製薬会社やその関連団体、医療機器メーカーと医療界の利益相反(COI)の問題である。この問題については、今月9月9日の朝日新聞での東大医学部出身の医師、尾崎章彦(あきひこ)氏が興味深い発言をしている。氏によると、この汚職事件のベースにあったのは、逮捕された元教授と複数の製薬会社から受け取っていた謝礼金の多さにあると言うのだ。

日本化粧品協会との贈収賄が始まったのは、2023年2月14日の東京・日比谷の高級洋食店での食事だが、それ以前に元教授は23年度1年間だけで60回以上の講演を行い、約1000万円の収入を得ていたという。気のゆるみ、慣れが贈収賄に結び付いたと言えなくもないが、巨額の謝礼金という存在が、組織の利益よりも個人の利益を優先する要因となったのは間違いないだろう。

津地方検察庁による司法判断の影響

また、今回の汚職事件のもう一つの背景にあるのは、製薬会社が奨学寄附金のような形で医学部に支払う、製薬会社にとっては「営業促進費」にあたる支援金が支払いにくくなった、あるいは絞らざるを得なくなったという事情だ。

これは小野薬品工業が薬剤の多数発注の見返りに三重大学病院麻酔科の教授に「奨学寄附金」として支払ったものが、三重県の津地方検察庁によって「賄賂に当たる」という2021年の司法判断がきっかけだが、結果的に現在、製薬企業から医学部関係への奨学寄附金は、かつての300億円近い金額から現在は5分の1以下に減少しているという。

そのことに目を付けたのが日本化粧品協会であり、東大の教授も、そうした寄附金など謝礼金が得られにくくなった環境下で、日本化粧品協会という業界団体の“甘い誘い”に乗ってしまったのではとみられている。ある意味で、典型的な利益相反の逸脱による事件と言える。

もちろん、この接待汚職事件は金額的にも許容されるものではないが、大学法人と医学部、医療機関と製薬会社やその関連団体との「利益相反」というのは極めてセンシティブな問題である。

そこに「患者の安全」や「学術的な透明性・客観性」が広く担保されれば、この「利益相反」は薄らぐが、これが、今回の東大汚職のように「製薬会社から多額の講演料を得ていた」、「世間の常識からかけ離れた接待を受け続けていた」ことを隠蔽すれば、「特定の企業や製品に有利な判断をしているのではないか」という思惑を誘発。これがレピュテーションリスクに繋がる。

中小企業にとっても深刻な課題

この、東大医学部の事件は特別な例としても、この「利益相反」に関する問題は中堅、中小企業も深刻に考えねばならない問題である。前述したように、中小企業の場合は、同族経営や少人数の役員構成、緊密な取引先の多くが大企業や地域金融機関などが多く、法人としての経営トップや役員の立場と、個人の利益が衝突しかねない場面が上場企業以上に多いと考えられるためだ。

実際、信用調査機関の調査でも、資本金5000万円以下の中小企業の場合、「会社の資金、資産を役員個人の都合で使用する」「会社が役員個人の債務保証をする」「社長、役員の親族企業と不利な条件で契約する」といった事案が、現在も減ることはない状況という。こうした企業と役員の利益が対立し、企業側に不利な状況となる利益相反は、当然問題となるため、会社法上は重要事実の開示と承認が必要となる。だが、現実にはこれが実施されないことが多々あるという。

これが発覚すれば、当該役員などへの会社に対する「損害賠償責任」が生じるが、役員会などで承認後に利益相反取引で問題が発覚した場合でも「承認手続違反」などの罰則が適用される。さらに、これが株主の権利行使などに結び付いた利益供与などとなると、民事から刑事事件にまで発展することになる。

事業承継等で注意が必要

ただ、ここでは法的見解は専門家に委ねるとして、問題なのはこうした利益相反について、中小企業の経営者や役員陣もより深刻に捉えねばならないという点だ。極端な例かもしれないが、株主総会直前の接待行為などは、それなりの危険を伴うことも理解すべきだろう。東大医学部附属病院の事件は、一見、中小企業のトップからみると“遠い事件”に映るかもしれないが、実は足元にある問題である。

まして、中小企業にとって大きな課題である事業承継を例にとっても、有力な選択肢であるM&Aについては、仲介者の立場や報酬設計によっては利益相反が発生しやすい行動である。中小企業庁の担当者に聞くと「中小企業のM&Aでは、売り手と買い手の双方から手数料を受け取る仲介形態で利益相反を伴う不適切な対応が目立つ」という。また、この問題では、内部告発による違反行為なども顕著になってきたと指摘する。

利益相反問題の本質を考えると、法的に考慮しても利益相反自体はリスクではあるが“悪”と言うわけではない。新規の技術研究、幅広い企業との連携、産学連携などで社内の議論が沸騰する場面もあるだろうし、そうした場面での経営者や役員の個人的な葛藤と判断が企業経営を前進させていくこともまた事実である。

COIガイドラインの作成、浸透が急務に

ただ、そのためにトップが企業の資金を無断で使用していたら「無断使用の事実を隠すこと(不透明性)」や「資金確保によって判断がゆがむこと(公私混同)」が放置される。それが重大な利益相反の矛盾を抱え込むことになり、内部告発などによって公(おおやけ)になると、レピュテーションリスクが発生、さらには東大病院事件のような事件にもつながりかねない。

今後、中小企業にとっても重要なのは、大企業並みのCOIのガイドラインだ。「経営者の利益相反マネジメント規定」に基づくCOIガイドラインの作成、運用、徹底が企業の防御壁として急務である。内部監査の徹底は当然として、経営全体の透明性そして企業としての自浄能力が問われることが、東大汚職事件をはじめ一連の利益相反に関わる事件で問い直されている。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集アドバイザー
鶴田 東洋彦

山梨県甲府市出身。1979年3月立教大学卒業。

産経新聞社編集局経済本部長、編集長、取締役西部代表、常務取締役を歴任。サンケイ総合印刷社長、日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)社長、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーを経て2024年7月よりイノベーションズアイ編集局編集アドバイザー。立教大学、國學院大學などで「メディア論」「企業の危機管理論」などを講義、講演。現在は主に企業を対象に講演活動を行う。ウイーン国際音楽文化協会理事、山梨県観光大使などを務める。趣味はフライ・フィッシング、音楽鑑賞など。

著書は「天然ガス新時代~基幹エネルギーへ浮上~」(にっかん書房)「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)「記者会見の方法」(FCG総合研究所)など多数。

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