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日本企業の海外進出と子会社管理

第4回

海外進出後に必要な現地の「見える化」

朝日税理士法人  山中 一郎

 

コンプライアンスや内部統制の不備は企業にとってリスクそのものです。最近報道される多くの不祥事事件にもあるように、これらのリスクをコントロールし損ねると、果ては企業の崩壊にもつながりかねません。日本の社会はこれらの問題について少し厳しすぎる気がしないでもありませんが、多くの日本企業はその重要性を理解しており、厳格な運用を行っています。ただ海外子会社となると、社会規範が日本よりも緩やかなことも多く、だからという訳でもないでしょうが、リスク管理が十分でないケースも見受けられます。

例えば海外に進出した会社を見てみると、以下のようなケースが存在します。

日本本社から海外子会社や提携会社の状況がよく見えていない

海外子会社の管理者が、現地従業員、生産や販売といった業務、資金財務、法律会計税務といった現地の制度に詳しくない

海外子会社の状況が日本本社や、現地の管理者に見えているが、適時に適切な手を打つことができていない

海外進出後、海外業務の運営が成功するかどうかの大きなポイントが海外業務の「見える化=状況の可視化」です。海外業務においては、現状を正確に把握できないことが一番のリスクです。「見える化」無しに海外進出の成功はあり得ません。

ここでは海外子会社の「見える化」の前提となる事項を考えてみましょう。

1.何を誰にどこまで「見える化」するのか?

海外子会社の「見える化」を考える場合、『「何(どのような項目)」を「どこ(どの程度詳しく)」まで「誰(本社、現地の管理者、現地の現場)」に見るようにするのか』を明らかにする必要があります。さらに各項目の意思決定者とその権限を明確にする必要もあります。

 一般的に意思決定権限の多くを「現地」に委ねると、本社から「現地」は見えにくくなり、逆に意思決定権限の多くを「本社」が持つと、現地の自由度は奪われてその活動はし難くなります。結果として特別な事項を除いて、意思決定権限の多くは「現地」に委ね、報告を「本社」に求めることが必要になりますが、これがうまくいかないケースが多いのです。

 いずれにせよ、まず必要なのは、何を誰にどこまで「見える化」するのかというルール作りです。

2.コミュニケーションの重要性

月に一度の決算書は本社に届くものの、海外子会社の状況が本社でよく把握できていない。こんな悩みを日本の会社からよく聞きます。この理由はいろいろあるでしょうが、

※ 遠隔地、また言語の問題などから現地とコミュニケーションが取りづらい

※ 出向している日本人が本業部門の出身者(製造業の場合は生産、販売業の場合はマーケティングなど)に限られており、管理業務の知識が足りない

というのがよくある理由です。しかし海外に関する依存度が高まっている以上、「子会社の状況が見えない」ままでは許されません。もし派遣している日本人の能力が不足している場合は信用できる現地スタッフや外部の専門家を利用するなどして「見える化」を図っていく必要があります。

 また逆に現地の駐在員からは、日本本社は状況を理解していないくせに、細かいことに口を挟みすぎるという声もよく聞きます。さらに、せっかく報告しているのに、その内容を見ている様子がないという場合もあります。

 「見える化」するうえで重要なことは互いのコミュニケーションです。

3.日本企業に求められる海外子会社の経営手法

 多くの企業では、海外子会社に送ることができる赴任者の数や能力には限りがあります。また海外赴任者の多くには任期があるため、安定して海外子会社の「見える化」ひいてはそれを運営するためには現地スタッフの力が必須です。

そのためのキーワードの一つは「現地化」ですが、多くの日系企業にとってそれが難問です。多くの日本企業では商品や製造技術といったノウハウ、資本だけではなくて、人材や会社運営の手法も日本から輸出しているように見受けられます。

 もちろん進出したばかりの頃はそれもやむを得ませんが、例えば長期間に渡って主要ポストの全てを日本人が独占するのでは、海外の優秀な人材が定着しません。事業を海外で成功させるためには、「優秀な現地の人々を集めること」、「その人たちに気持ちよく働いてもらうこと」がポイントになります。また昨今、外国人の労働ビザの取得に制限を設ける国も多く、海外子会社を日本人だけで日本の手法で経営することは難しくなってきています。

 欧米系の企業の中には日本企業と異なる経営手法をとっている会社があります。例えば高サラリーで現地人を雇い、他の現地スタッフとは明確な差を設け、高サラリーの人間には利益責任や「マニュアル遵守のチェック」といった子会社の管理を任せます。うまくいけば相応なインセンティブを払いますが、もし目標を達成できなければ退職を含めたペナルティを負わせます。現地人の中にクラスの違いを設けて、そこに大きな内部牽制を働かせるのです。また本社からの内部監査を徹底して、高サラリーの人間の働きぶりを監督します。


 これがベストな手法なのかどうかはわかりませんが、植民地の管理手法に似ていると思うのは、私だけでしょうか。

 企業には社風があり、異なった経営手法を海外子会社に導入しようとしても無理が生じます。ただ日本のそれをただ海外子会社に導入しても、うまくいかないことが多いのも事実です。スムーズに海外子会社を運営するために、改めて自社にあった経営手法を検討する必要があります。


以  上


 

プロフィール

朝日税理士法人
公認会計士・税理士 山中 一郎


朝日新和会計社(現あずさ監査法人)退職後、現在は朝日税理士法人代表社員および朝日ビジネスソリューション株式会社代表取締役。


国際税務業務、海外進出支援業務の他、株式上場支援業務、組織再編、ベンチャー支援等 の税務・コンサルティングサービスを行っている。


主な著書: 「図解&ケース ASEAN諸国との国際税務」(共著/中央経済社)、「図解 移転価格税制のしくみ 日本の実務と主要9か国の概要」(共著/中央経済社)、「なるほど図解M&Aのしくみ」(共著/中央経済社)、「事業計画策定マニュアル」(共著/PHP) など多数


Webサイト:朝日税理士法人

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