前回、これからはVUCAの時代で、確かな計画や完全な準備などはない中で生き抜く力が求められると書きました。そのように変化が激しい時代で、思い通りにいかない時に求められるのが「レジリエンス」です。
近年、レジリエンスという言葉を目にすることも増えてきています。
もともとは物理用語で、復元力・回復力を意味しました。物体には、外部からの力(ストレス)がかかった時に、もとに戻そうとする力が働きます。そこから始まり、建物などが地震に対して対応する力、地域が災害にあっても対応し、復元していく力などにも使われると共に、心理学でも「逆境や困難、強いストレスに直面したときに、適応する精神力と心理的プロセス(全米心理学会)」と使われるようになりました。
今、「レジリエンス」という言葉で検索すると、「折れない心」という言葉と結びつけた記事がたくさん見られます。逆境に耐え、克服できる力といった意味合いで使われ、研修なども増えています。逆に考えると、それだけ、逆境におかれた時に「心が折れる」人が増えているということでしょう。
「逆境で心が折れる」とは「自分の思い通り、計画通りに物事を進まないことで、目的やゴールの達成意欲が失われてしまう」状況を表しています。つまり、「レジリエンス」という言葉が流行り始めているのは、「思い通り・計画通り進まない状況への向き合い方」を求めている人が増えているのだと考えられます。
私たちは、計画通りに進むことが良いことであり、計画通りに進められる人が優秀だという雰囲気の中で育ち、仕事をしてきました。その前提には「計画を立てた時に想定した状況や環境が計画実行中に変わらない」という考え方があります。しかし、現代社会、そしてこれからのVUCAの時代には、状況や環境は変化するのが当たり前です。
大切なのは、状況や環境は変化するのは当たり前と受け容れたうえで、ゴールへの達成を諦めないことです。計画通りに進む、ミスなく進むことが大切なのか、ゴールへの到達が大切なのか、そこは混乱しがちです。
以前、サッカーのジーコがインタビューで、日本の選手が試合中に点を取られると落ち込んだり、動揺したりするのが、よくわからなかったと話していました。大切なのは、試合終了時に相手よりも多くの点を取っていることなのに、点を取られたこと自体に動揺しているというのです。
これも、ゴールへの到達よりも、自分の思っている通りに物事が進んでいるのかにこだわってしまう心理を表現しているのでしょう。
計画通りに進むことを重視する文化の組織は、レジリエンスが弱い組織に陥りがちです。
計画通りに進むことよりも、紆余曲折がありながら、予定も変わりながらでも、ゴールに到達することが大切だと考える文化があって初めて、
・思ったようにいかないことは当たり前
・決めたことも環境や状況の変化に応じて変化させる必要がある
・うまくいかない時には、立ち止まったり、息抜きをして気持ちを切り替える必要がある
・自分ができていないことを周りに伝え、協力を仰ぐ必要がある
といった、レジリエンスを高める考え方が身に付き、それが変化に強い組織をつくることにもなります。
その時に大切なのは、紆余曲折してまでも、自分の力不足を受け容れてまでも、達成したい「ゴール」が自分の中にあるかということです。
何を、どうして実現したいのか。そこを見失うと、VUCAの時代には迷子になってしまうのです。
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カテゴリ:
- 人材・組織
プロフィール
株式会社エンパブリック
代表取締役 広石 拓司
1968年生まれ、大阪市出身。東京大学大学院薬学系修士課程修了。シンクタンク(三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング))勤務後、2001年よりNPO法人ETIC.
において社会起業家の育成に携わる。
2008年株式会社エンパブリックを創業。「思いのある誰もが動き出せ、新しい仕事を生み出せる社会」を目指し、地域・組織の人たちが知恵と力を持ち寄る場づくり、仕事づくりに取り組むためのツールと実践支援プログラムを開発・提供している。自社の根津スタジオ、文京ソーシャルイノベーション・プラットフォーム、すぎなみ地域大学、企業のコミュニティ力向上プログラムなどにおいて、年200本のワークショップを実施。 書籍「共に考える講座のつくり方」」、日経Bizアカデミー連載「「ソーシャルビジネスが拓く新しい働き方と市場」など執筆多数。 慶應義塾大学総合政策学部、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科などの非常勤講師も務める。
HP:株式会社エンパブリック
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