春休み中の小学生数名を引率して霞が関の東京地方裁判所に法廷傍聴に行った。
どの裁判所でも、1階の受付に行くと、その日どんな事件が審理されるかを一覧にした開廷簿というノートがあり、それを開いて興味を持てそうなものを選ぶことができる。
学校単位で行くときは、裁判所の広報課に連絡をしておけば、覚醒剤の自白事件のような第1回目の期日で全ての手続が終了する予定の刑事事件を選んでくれる。
私もそのような事件を選ぼうと思っていたが、4月は裁判官や裁判所の職員が異動する時期で、開廷数が少なく、適当な刑事事件もなかったので、簡単な事案の民事訴訟の証人尋問手続を見学することにした。
裁判は、形式的なものだと思っている人もいるかもしれないが、人類が長い年月をかけて作り上げた、神ならぬ人間が真実発見に最も近づくことのできる手続だ。
証人尋問の手続は、裁判官による人違いでないことを確認するための人定質問、嘘をつかないという宣誓、主尋問、反対尋問、そして裁判所による補充質問という順番で進む。
傍聴した事件の争点は、ある契約書に記載されている被告の署名と捺印(なついん)が、本当に被告が署名捺印したものかどうかだった。その契約書が原告の請求の根拠になっている。
証言台に立った被告は、被告の弁護士からなされた主尋問では、原告が提出した契約書に記載された署名や捺印は自分のものではないこと、その契約書が作成された時期の前後の状況から、そのような契約をする理由がないことなどを証言した。
続く原告側からの反対尋問に対しても、同様に自分は契約書に署名や捺印をしていないと証言した。
しかし、裁判官が補充質問をしていくうちに、被告は「原告から渡された紙に、よく内容を確認しないで署名したことがありました」とも述べた。
私は、小学生がこのような民事紛争に興味をもち、理解できるか少し心配だった。
ところが、子供たちは「良心に従って真実を述べ、偽りを述べないことを誓います」と宣誓した被告が、裏表にとれる証言をしたので、「あの人、嘘ついてたんじゃない?」と傍聴席でささやき、真実は何かに強い興味を持っていた。
多くの傍聴人がいれば、裁判所も緊張感を途切らせるわけにはいかない。傍聴人のいない裁判は、密室裁判に近づく。
裁判の傍聴は、誰でも、無料、予約なしですることができるので、子供や孫と一緒に行かれることをお勧めしたい。
天気が良ければ、地下鉄永田町駅から歩き始め、国会議事堂を見ながら「ここは、国民から選ばれた国会議員が国のルールや予算を決めるところ」、国会前の並木道を降りると、国交省、外務省などがあり、「ここはさっき見た国会で決めたことを実行するところ」と、国の三権をリアルに説明することができる。
◇【プロフィル】古田利雄
ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表社員弁護士 1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。トランザクション、ナノキャリアなど上場企業の社外役員も兼務。53歳。東京都出身。
「フジサンケイビジネスアイ」