改正障害者雇用促進法が2013年4月1日に施行され、障害者の法定雇用率が1.8%から2.0%に引き上げられた。対象となる企業の従業員規模が、56人以上から50人以上に引き下げられたのは、広く周知のことと思う。
ただ、この改正によって障害者を法定雇用率以上に雇用する企業が加速度的に増加したのかというと、そう簡単な話ではない。というのも雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新した14年度の調査結果を見ても、雇用障害者数は43万1225.5人(法律上、短時間労働者は0.5人、重度障害者は2人に数える)、実雇用率は1.82%でしかなく、2.0%の法定雇用率に及ばない。法定雇用率を達成した企業の割合も44.7%と50%に満たないのが現状である。
障害者雇用が進まないのは2つの理由が考えられる。まず、企業関係者の多くが「見合う仕事がない…」とか「今は余裕がない…」などを理由にして問題を直視せず、逃避していること。次に障害者を雇用する代わりに常用雇用労働者数201人以上の企業(15年4月からは101人以上)では、法定雇用障害者数に不足する人数に応じて1人につき月額5万円の障害者雇用納付金を支払う制度があるため、それを抜け道とする企業が多いことだ。
それでは見合う仕事がなければ、障害者雇用納付金を支払い続けているから問題ないことになるのだろうか-。決してそんなことはなく、この連載の執筆者でもある法政大学大学院の坂本光司教授がいうように「なければつくる」べきなのだ。
先日、訪問調査した都内の企業(以下A社)の社長も、当初は障害者雇用に積極的ではなかった。業種が飲食業ということもあって、障害者にとっては刃物や火などを扱う危険な調理場があることから、雇用が難しい現場だという思い込みがあったのだ。そんな中でたまたま訪れた、ある接客業の窓口に行ったところ、明らかに障害者と分かる社員が接客をしている姿を目の当たりにして感動し、障害者雇用の可能性に興味を持ちはじめた。
さらに、ある有名企業の特例子会社を見学した際に、運命的な再会を果たした。A社の店に以前在籍していた女性が、そこで働いていたのである。
女性は障害者だったが、A社にいたときには、障害を表に出していなかったため、気づくことができなかった。
障害や苦労を認識してあげられなかったことを反省するとともに、そこで丁寧に郵便のスタンプを押す作業をしている女性の姿をみて障害者雇用に対する偏見がなくなり、A社の社長は方針を変えて、現在は積極的に障害者雇用に取り組んでいる。
障害者を雇用したことで社長は「社内にお互いを気遣う優しさがあふれ、素晴らしい効果が出ている」ことに気づかされたと話す。障害者を敬遠し続けていては、こうした“気づき”は決して得られない。
【会社概要】アタックスグループ 顧客企業1700社、スタッフ170人の会計事務所兼総合コンサルティング会社。「社長の最良の相談相手」をモットーに、東京、名古屋、大阪、静岡でサービスを展開している。
「フジサンケイビジネスアイ」