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マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

第9回

上級マネジャーの役割(間接部門を含めた部門間の連携)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
「上級マネジャーの役割について、ここまで、戦略に関する役割と現場マネジャーへのマネジメントをについて、お聞きしました。次は他部門との連携ですね。」

「よく覚えているな。」

「組織の分業を機能させることだと聞いて、何やら重要なことを言われたような、でも、よく分かっていないような状況なのです。」

「そういう状況って、結局は、何も分かっていない時が多いんだよ。」

「相変わらず、歯に衣着せぬ物言いですね。」

「そうか。これでも随分と遠慮しているつもりなんだがな。」


我を通すのが仕事な各部門

「一つ、ご質問して良いですか?」

「どうぞ。」

「私、前から気になっていたんですけど。各部門って、自分の都合を押し通そうとするではないですか。時には相手部門の都合も考えずに。」

「そうだな。」

「それって、悪いことのように言われることが多いです。」

「確かに。」

「でも、各部門が自分についてベストを突き詰めて考えないと、誰がベストを考えるのかってことになります。」

「うんうん。」

「そうやってみると、各部門が自分に都合よく考える、ちょっと変な言い方をしてしまいましたが、自部門がベストなパフォーマンスをあげられるように他部門に協力してもらいたいことを遠慮なく頼んでみると言うのは、必要なことなのではないでしょうか?」

「これはこれは、良いことを気が付いたな。そして、そうなんだ。部門が、つまりそれを統括する現場マネジャーがと言うことだが、自分の部門についてベストパフォーマンスをあげられるように最大限の支援を頼んでみるのは、それは必要なことなんだ。そうすることが、彼らの仕事だとさえ言える。」


各部門を『調整』レベルではなく『連携』レベルで関係させる

「やっぱり。そう言われて、分かってきた気がしました。各部門があげて来た要望を調整していくのが、上級マネジャーなんですね。」

「うーん、そこでなぜ『連携』といわず『調整』と言うんだ。言葉の定義の問題かもしれないが、俺にとっては調整は『間を取る』という感じに聞こえる。」

「そうではないのですか?」

「では聞くが、営業部門がある製品1,000個を納期30日で納入して欲しい旨の顧客からの要望を伝え、生産部門が納期60日でないと無理だと断ったとする。落とし所は45日か?」

「それを中心に40日か、はたまた50日か、攻防戦があるのでしょうね。」

「現場マネジャーから抜擢された社内でも最優秀の人材を集めた上級マネジャーに、そういう攻防戦させるのか?それが上級マネジャーの役割か?」

「当社を見ていると、そうとしか思えないのですが。」

「今は当社の状況を話しているのではない。当社が目指すべき理想を話しているんだ。」

「それはじゅうじゅう、承知しておりますが。」


各部門を連携させる

「では、気持ちを切り替えて、さっきのケースを調整ではなく連携させてくれ。顧客はある製品1,000個を納期30日で要望しており、生産部門が納期60日でないと無理だという状況だ。」

「うーん。難しいですね。『落とし所は45日』って、言ってはダメなのですよね。」

「ダメだ。」

「それならー。あっ。思いついた気がしました。」

「何だ?」

「生産部門に、何個だったら納期30日で可能かを聞いてみます。」

「なるほど。」

「すると例えば『300個だったら可能だ。残りは60日待ってもらわなければ無理だ』との返答があったとします。」

「いいぞいいぞ。」

「それを営業部門に伝え、顧客と交渉して問題なければWin=Winが成立したと言えますね。」

「そう言うことだ。」


連携の仕組みを整備する

「こうやって考えてみると、前回、『移転価格(Transfer Price)』の話をお聞きした意味が分かるような気がします。」

「おお、移転価格のことを思い出したか?で、どう分かったんだ。」

「先ほどの例で、製造部門は『300個だったら可能だ。残りは60日待ってもらわなければ無理だ』と返答しました。しかし、営業部門は『顧客は最低限500個欲しい』と言っているとします。」

「ふむふむ。」

「製造部門は、自分のところのパフォーマンスも計算しながらそういう数字を出しています。最初に300個と言ったのは、残業なしで生産できる個数かもしれません。それ以上だと残業が発生して製造コストが高くなります。営業の顔を立てるために、自分のパフォーマンスを下げるよう求められているが、それには応じたくない状況だと言えます。」

「そうだ!」

「とすると、残業代を支払っても製造部門のパフォーマンスが下がらないように、200個については高めの移転価格で引き受けると言えるかもしれません。」

「よく気が付いたな。」

「そうすることで、顧客からの無理な要望に応えるために、営業部門と製造部門が共に力を合わせて連携したと言えると思います。」

「素晴らしい。良いソリューションを思いついたな。」

「三上取締役に、こんな風にお褒め頂いたのは初めてのような気がします。」

「俺も、こんな風に中川部長を褒めたのは初めてのような気がするよ。」


間接部門も一体となって会社の力を強くする

「この勢いで、間接部門との連携も考えてくれ。」

「間接部門ですか。それは難しそうですね。」

「そうかな。半分、答えは出ていると思うが。」

「えっ、半分、答えは出ているのですか?つまり、今のケースを使うわけですね。」

「そうだよ。」

「なるほど、わかりました。今、ソリューションとして提示した移転価格ですが、そこを仕切っているのは間接部門である経理部です。」

「そうだな。」

「その経理部が『同一契約の同一製品について、2つの移転価格を設定してはならん』というルールを決めてしまうと、このソリューションは実現不可能になります。」

「そうだ。」

「とすると、経理部も巻き込んで、このような取扱いを可能にしてもらわなければなりません。」

「どうやって?」

「『同一契約・同一製品の場合には移転価格は一つ』というルールでは、どうやっても自社の売上そして利益は低くなる、経理部が協力してくれることで売上と利益が極大化できることを、しっかりと説明するのですね。」

「そうだろうな。そこはしっかりと、ロジカルに説明する必要があろう。」

「そこで『ここは経理部さんには汗をかいてもらうことになりますが、そうしてもらえると当社の売上・利益があがるのです。だからこの取引の一番の貢献者は、経理部さんかもしれません』と持ち上げることもできるかもしれませんね。」

「中川部長も、策士になったな。」

「いえいえ、三上取締役ほどではないです。」

「でも、部長たちには、そういう策士になってもらいたいと思っているよ。」

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫

昨年まで、現場マネジャーが行うマネジメントについて、世界標準のマネジメント理論である「MCS(マネジメント・コントロール・システム)論」をベースに考えてきました。日本では「マネジメント」について省みることがほとんどないようですが、世界では「マネジメントとはこういうものだ」という姿がきちんと描かれていて、それを学ぶように促されています。日本のホワイトカラーの生産性が低迷している原因は、もしかしたら、このあたりにあるのかもしれません。

昨年度は約1年かけて、現場マネジャーのマネジメントについて考えてきました。現場マネジャーは、現場で働く人たちが高いパフォーマンスをあげられるよう促すマネジメントを行なっています。一方で現場マネジャーも、マネジメントを受けます。現場マネジャーが行うマネジメントが現場の力をあますところなく引き出しているか、企業として目指す方針や戦略を実現できるよう導いているかという観点でのマネジメントを必要としているのです。

今年度は、連続コラム「マネジメントを再考してみる」の後編として、上級マネジメント(上級マネジャーの行うマネジメント)についてMCS論をベースに考えます。上級マネジャーがどんな役割を担っているか、それをどのように果たしていくかについて、体系的にご説明します。 企業パフォーマンスを向上させる世界標準のマネジメントに関する解説は、日本初の試みです。是非、お楽しみください。


Webサイト:StrateCutions

マネジメントを再考してみる 後編<上級マネジメント>

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